斎藤  薫 ③

「横山主任、次のステップって、やっぱりスポンサー集めですか?」

「そうだな。まずはそこを押さえておかないと」

 松本主査が出張で不在のため、残りのメンバー五人で打ち合わせを行っていた。


「企画が通っても、スポンサーがつかなけりゃ賞品も用意できないからな」

「ポスター制作とかの宣伝費用は予算から出るんですよね」

「それは問題ない。賞品用の費用も予算枠にあることはあるけれど、それだけじゃ……。とにかく、スポンサーは多くて困ることはないからな」

「でもどこから当たればいいのか、全く見当がつかないんです」

「そこは、俺と柴田に任せてくれ。伊達に、広報広聴に長く居座っているわけじゃないからな」

「区内の会社でいくつか当てがあるから、声を掛けてみるよ」

「実はちょっとした案もあるんだ」柴田がニヤリとした。

「お言葉に甘えて、よろしくお願いします」斎藤が頭を下げる。

「お前に押し付けて逃げたりしない、って言ったろ? チームとしてこの企画を成功させよう!」

「はい、頑張りましょう」


「この企画に関連させて、一つ提案があるんですけど」鈴木が四人の顔を見回しながら話し始めた。

「この企画、募集が夏休みと重なるので、子供たち向けのワークショップを開催してはどうでしょうか?」斎藤が、先を進めるように合図する。

「去年開催したライブペインティングのように、講師を招いてスマホを使った動画づくりをレクチャーするんです。そこで作った作品は、企画へ応募する。そうすれば、ワークショップが単発ではなく、この企画とつながりを持って活きるかと」

「いいねぇ、その案。松本主査なら飛びつくぞ」

「主査じゃなくても評価される案だと思いますよ。明日、松本主査に話してみて下さい。私も一緒に行きます」

「せっかくなら、その子供たちには他の記念イベントにも参加してもらったらどうですか? よくあるじゃないですか、こども〇〇大使とか」

「田島君、たまにはいいこと言うじゃないか」

「えーっ、たまにじゃないですよ。ねぇ、斎藤さん?」

「この案もいいと思いますね。鈴木さんの案と一緒に提案しましょう」

「僕も一緒に行った方がいいですか?」

「いや、鈴木さんと二人で行くよ。ちゃんと、田島君の提案だと言うことは松本主査に伝えるから、安心して」

「いや、別にそういうつもりじゃ……」

「よし、それじゃ、次回の打合せまでに俺と柴田でスポンサーの確保を行う。斎藤君と鈴木さんは、追加企画を主査に説明して、上へのプレゼンということで」

「僕は何をすれば……」

「やることはたくさんあるぞ。まず企画のネーミング、それとポスター案の作成がある。いつもの委託先へ連絡して、こちらのイメージを伝えた上で原案を作成してもらうんだ。斎藤君と打合せしながら進めるように。随時、何かあればこっちへ聞いてくれ。それでいいかな、リーダー?」

「頼りにしてます、主任」


   *   *   *   *   *


「『すみだの魅力 PR動画コンテスト』か……。ちょっとベタな気もするけど、まぁいいだろう」

「それでは、これで進めます」斎藤は田島を見て、にっこりとうなづいた。

「スポンサーの件はどうなった?」松本が横山に尋ねる。

「はい。アサヒとライオン、アシックスの他に北斎美術館と、リサイクル協同組合、それとエワタリさんに協賛してもらえることになりました」

「アサヒとライオンは本社がウチの区ですけど、アシックスは江東区でしたよね。やっぱり、あの新しい施設の宣伝ですか?」

「そう、ここからすぐの所に出来たASICS CONNECTION TOKYOなら、スポンサーになってくれるんじゃないかとアポイント取ったら即OKだったよ」

「……あのぉ、エワタリって……」

「田島君、知らないの? 錦糸町にあるお菓子問屋さん。建物に大きくうまい棒のキャラクターが書いてあるお店ですよ」

「うまい棒の話が出たので、賞品の件ですが……」柴田が話を続ける。


「協賛会社からの商品とは別に、十万円相当のグランプリ用の賞品を用意しました」

「ほぉ、かなり頑張ったなぁ」松本が感心しながら言った。

「実はちょっと訳ありでして。グランプリ賞品として四種類用意しましたが、その中から一つを選んでもらう、という方法にしたいと思います。賞品を提供して頂ける企業には、『区が無償で商品の紹介をするので、もし賞品に選ばれたら無償提供してください』とお願いして了承を頂いています」

「いいアイデアですね。提供する企業は、四分の三の確率で無償宣伝できるわけだ」

「それで、何を賞品にするんだ?」

「まず、消しゴムはんこで有名な「ヒノデワシ株式会社」さんの消しゴムを千個。それと「株式会社マーナ」さんのブタの落としぶたを百頭分」

「何ですか? ブタの落としぶたって」

「ブタの顔の形をした落しぶたで、鼻の穴から湯気が出るんだ」

「面白ーい。見てみたいな」

「それと「やおきん」さんのうまい棒を一万本だ」

「それって、どんだけの量になるんですか? 想像もつかないなぁ」

「最後に、スカイツリーにあるレストラン634へのお食事招待券四名様まで」

「えっ、これってお食事券の一択じゃないですか!?」

「俺もそう思う。でも他の三社はみんな区内業者さんで、企画の趣旨にも賛同してくれている。ちょっと洒落っ気を出してみようと提案したら、乗ってくれたんだ」


「みんなのおかげで、いい企画になったな。あとはどれだけ応募してくれるかだ」

「募集前にフェイスブックに公式アカウントを立ち上げたいのですが」

「フェイスブックに?」

「区のサイトとは切り離して、そこでYouTubeへのアップ方法や応募状況などを発信していきたいんです」

「わかった。上への了解は私が取ろう」

「よろしく願いします」顔を上げた斎藤は、充実した表情を浮かべていた。

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