第264話「Everything She Wants」

 決勝トーナメントの試合形式は、30分間の殲滅戦をホーム&アウェー方式で二試合行い、その合計残機数で競うものとし、仮に残機数が同数であった場合、合計機体損傷率の少ないチームが勝者となる。


 大会史上初、撃墜数ゼロとなった桃李第二新宿と桃李神戸の第一試合は、機体損傷率の勝負となり、神戸の選手たちは上手く逃げていたものの、かするような損傷を幾つか受けており、チーム合計500%(1機100%の5機分)中12%のダメージ。

 一方の第二新宿は、かけいの機体が右腕を損傷するだけに留まったのだが、その損傷率は500%中25%と神戸を上回っていた。


 不機嫌な顔で解説席に座る東儀雅に、勇気を振り絞って、実況のカリナ・マルロキンが意見を求める。


「神戸の奇策が見事にハマった訳ですが、その差は僅か13%と優勢と呼ぶには心許こころもとなく感じます。同じ作戦が第二新宿に通じるとは思えませんし、寧ろ、虎の尾を踏んでしまったのではないかとさえ思うのですが……雅、いかがでしょう?」


「このインターバル次第ね」


 第二試合が始まるまで、15分間のインターバルが設けられており、休憩するもよし、作戦会議を行っても構わないのだが、その際、監督やコーチなど選手以外の介入は禁止されている。


「クソがーーーッ!!」


 一人ダメージを喰らったかけいが、怒りの矛先を筐体へぶつける。


「そうカッカしなさんな、お前さんの仇は討ってやるからよ」


「俺は、墜とされてねーッ!」


 まだ、試合が残っているため、冷静になってもらおうと真田が声を掛けたのだが、返って火に油を注ぐことになる。


「落ち着いてください、筧さん」


「さ~な~だ~、テメーの所為だぞ! テメーが余計なこと言わなきゃ、俺だって避けられたんだ!」


 真田は仕方なく、謝罪したものの、周りのイジりは止まらなかった。


「ホントデスカー、カケイサ~ン!」


「武田! ランク下のテメーがイジってんじゃねーよ!」


「でもーさー、真田くんの警告、聞いたのお前だけじゃないよね?」


「……」


「あれ? ひょっとしてー、筧くんナニワ出身だから、わざと当たってあげたんですか?」


「えー! 筧、スパイだったの!?」


「皆さん、いい加減にしてください! 試合は、未だ残ってるんですよ! 次にどんな策を練られてるか……」


「いい加減にするのは、お前の方だよ、真田」


「どうしてですか?」


たかが13%先行されただけで、なにビビってんだ?」


「で、でも、現にやられてるじゃないですか!」


 その発言で、他の選手達はクスクスと笑いだした。


「な、なにが可笑しいんですか!」


 武田は呆れながら、まだ気づいていない真田に、その理由を説明する。


「やられてるって……それは、永倉が止めたからだろーが」


「そ、そうですけど……」


 その反抗的な言葉に、永倉がキレる。


「ですけど、なんだ? お前、あのまま続けても、俺達が仕留しとめらねーとでも思ってんのか?」


「我々は、3分で12%削っただけです。もし、続けたとしても、30分なら120%で、一機分しか……」


「あぁ、もういい! テメーは、二度と口を開くな!」


 こうして、なんの対抗策も練られないまま、第二新宿のインターバルは終了する。

 一方、神戸のインターバルでは、選手たちが意気揚々としていた。


「すんません、墜とせませんでした」


「上出来、上出来。当たっただけでも、ようやった、京本。いや、寧ろ、警戒され難くなったんちゃうかな?」


 この会話から解るように、当てる役は京本一人で、あとはわざと外したのである。

 その意図とは、勝敗のカウントが一試合毎ではなく、二試合の合計値だからだ。

 ポテンシャルから言えば、新宿に遠く及ばず、三試合目に突入すれば敗色は濃厚で、二試合目も格下だと思わせ、油断を継続させる必要があった。


「そやで、たったの13%差やもん。きっと、まだナメられてるって!」


「それはそれで、腹立つな」


「そやけど、それで気づかれへんかったら、俺ら勝てんねんで!」


「そやな……ホンマに、気づかれへんやろか?」


「どやろ? やけど、先生言うとったやん。バレても、相手は練習しとらんやろうから、そやったとしても勝てるって」


 その時、オペレーターリーダーの渡辺から良い知らせが入る。


「みんな、あいつら機体変えとらへん。どうやら、気づかれへんかったみたいや」


「やったーッ! S級に勝ったって、自慢できるな!」


「それだけやないでぇ~、優勝も夢やないでぇ~!」


 浮足立ちはじめた選手たちに、オペレーターリーダーの渡辺が活を入れる。


「お前ら、気ィ早いぞ! 油断が一番の大敵やって、先生も言うとったやろ!」


「なべちゃんの言う通りや! お前ら、気ィ引き締めて行くぞーッ!」


 リーダー山下の合図で、気合の入った神戸選手たちの声と共に、JR三宮駅を中心に半径5kmの戦場が展開されていく。

 第二新宿チームがログインしたところで、三宮の空が赤く染まり、カウントダウンが始まるや否や、神戸の選手たちは一列に並んでフラワーロードを南へ疾走する。

 ポートピアランドに自陣を置く第二新宿の永倉は、自分たちへ向かって来ると知って「ようやく戦う気になったか」と呟いたのだが――。

 神戸大橋を渡って来ると思われた神戸の選手たちは、散り散りに神戸港へと飛び込んだ。


「なんだとッ! 岸本ーッ! 敵の位置を送ってくれ!」


 現実世界と同様に、水中の敵をGTMの電波レーダーでは捉えることが出来ない。

 オペレーターには、音響レーダー(ソナー)があるのだが、


「ソナーで位置は判るけど、奴らの動きが速い! 送った時には、もうそこには居ないんだ!」


「速い? どういうことだ? GTX7777じゃないのか?」


 永倉が疑問に思うのも当然で、一試合目の機体はスポーツカーに変形する陸用GTXで水中を自由に動けないため、オペレーターから指示されるポイントからズレていたとしても、誤差の範囲内で仕留められると考えた。

 しかし、水中を自由に動けるとなると、一試合目の機体と違うということになる。


「やられたよ、TYPEが違う。前のが6で、今のが4だ!」


「ハァ?」


「ローマ数字さ、ⅣとⅥは似てるだろ? 4は水陸両用のGTXだ」


 基礎機体が同じというだけの、完全に別モノなのである。

 とはいえ、試合開始1時間前に相手のホーム(戦場)や使用機体、武器などを知ることが出来る。

 ちゃんと調べてさえいれば、簡単に判ることだった。

 ドライバーもそうだが、オペレーターも神戸を甘く見ていたのである。


「このままじゃ、時間いっぱいまで逃げられる!」


 広い神戸港をガムシャラに撃っても当たる筈もなく、また、ロックオンされても、どの角度から飛んでくるのかも判らず、撃たれなくともその都度、逃げ回らないといけない。

 そうこうしている内に時は過ぎ、残り16分となった時、第二新宿の全機体が一斉に警告音を鳴らした。


「ね、燃料切れ!? ぜ、全員、ピットへ! 急げ!」


 奴ら優秀過ぎて、試合で15分以上掛かったことねーから、ピット使ったことねーんだわ。

 普通ならオペレーターが先に気づくモンなんだが、如何せんオペレーターも使ったことねーだろうから、下手したら燃料計器ウインドウを閉じてるまである。

 先行されてる焦りから、全開で飛ばすだろうから、15分で燃料切れを起こす筈だ。

 15分ジャストになったら、全員、相手のピットへ向けて、ミサイルを全弾撃ち込め。

 それで、お前らの勝ちだ。


 様々な角度から襲ってくる複数のミサイルは、一箇所に集まった第二新宿の選手たちから逃げ場を奪い、全てを破壊した。


 逃げて勝つことも出来た。

 だが、それだとあの子たちにヘイトが向きかねない。

 勝利も、称賛も、あの子たちにはくれてやりたい。



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 あとがき


 「Everything She Wants」

 これまた、ワム!の曲なんですがね。日本タイトルだと「恋のかけひき」になっちゃうんですが、もちろん、そう言う意味で用いていません。

 まんま「彼女が望むすべて」になります。

 最後の「勝利も、称賛も」が「紬が望むすべて」という意味として用いました。

 はい、こじつけですw


 さて、困ったことにもうワム!で続けられそうにありませんw

 最後は「Careless Whisper」なんですが、次で終わるの無理っぽいw

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