第262話「Last Christmas」
GTW(グランドツーリングウォー)サバイバルゲーム世界大会決勝トーナメントのルールは、マイナーチェンジを繰り返しながらファンが満足できる大会へと進化し、2040年の時点では以下の通りになっている。
出場できる選手は、事前登録したドライバーおよびオペレーターの各5名、病欠などによる交代要員枠として追加登録を認めるが、他チームとの重複登録は禁止。
使用できる機体や武器は、初見狩りとならないように9月までに申請が通ったモノとし、バグなどで調整が入った場合は、調整後の仕様とする。
トーナメント形式は、3回戦まで抽選を行う夏の甲子園方式で、ベスト8からは敗者復活のあるダブルエリミネーション方式を採用。
試合形式は、30分間の殲滅戦をホーム&アウェー方式で二試合行い、その合計残機数で競うものとし、仮に残機数が同数であった場合、合計機体損傷率の少ないチームが勝者となるのだが、それすらも同率の場合は、半径200mの狭い戦場でドライバーを一人ずつ出し合う勝ち抜き戦で雌雄を決する。
とはいえ、これは保険として追加された項目で、GTW世界大会史上、合計機体損傷率まで同じになったことはなかった。
試合数が多く、試合時間も長いことから、開催期間は12月10日から25日までとなっており、時差による不利を無くすため、選手たちはサンフランシスコに集められた。
もちろん、その際に掛かる交通費・食費・宿泊費などは、全額インベイド社が負担している。
この年に決勝トーナメントへ進めたのは62チームで、その全てが桃李成蹊学院の姉妹校で占められていたのだが、最早、恒例行事となってしまった光景に、大会を見守る視聴者たちも慣れてしまい、その興味は専ら、新宿の連覇が阻止されるかどうかだった。
そんな新宿校からは、S級が3チーム、A級が2チームの計5チームが決勝へコマを進めていた。
筒井紬が桃李神戸で顧問をするようになって、三年。
ようやく、その指導が実を結んで、なんとか1チームを決勝の舞台へ導けていた。
それを知ったラルフ・メイフィールドから「新宿創設メンバーのピクシーが指導者となって、決勝の舞台へ帰って来たーッ!」といった感じの宣伝をしたいと打診を受けたのだが、紬は選手たちが萎縮しかねないとそれを断っていた。
初出場の神戸選手たちは緊張で硬くなり、実力の半分も出せなくなっていたが、それでも、一回戦をなんとか辛勝という形で1つコマを進めた。
勝ったことで落ち着きを取り戻し始めていた神戸選手たちだったのだが、神戸の苦難は続く――二回戦目の抽選で、第二桃李新宿を引き当ててしまう。
「第二ってことは、S級やん……」
動揺を隠せない部員たちに、顧問の筒井は一喝する。
「落ち着け! 遅かれ早かれ、いつかは当たる相手だ。十分、対策は練って来ただろ? どうせアイツらは、新宿しか選べねーんだ。練習通りにやりゃー、勝てる!」
ホームと呼んではいるが、必ずしも住んでいる地域をそれにする必要はなく、仮に桃李新宿がニューヨークを選んでも構わないし、さらに次戦でホームを変えても構わない。
決勝に進んだチームは皆、地の利を活かせる戦場を探し、その日が来るまで練習するのだが、桃李新宿だけは新宿以外をホームとして選ぶことはなかった――いや、正確には、選べなかった。
「戦場によって、勝敗が左右されるような鍛え方をしているのか?」
2036年、東儀雅のこの発言によって、新宿縛りを余儀なくされてしまったのである。
紬は、実況室に居る雅を見上げながら、心の中で嘆いた。
戦場の選定は、このゲームにおいて勝敗を左右するほど重要だ。
先生(刀真)だって、やってたろ?
そんなことも、忘れちまったのか?
支えてくれた紗奈さんまでクビにして、雅さん、アンタ、なにやってんだ!
アタシが思い出させてやるよ、今のアンタが間違ってるってことを。
先行のホームを決めるため、それぞれのチームリーダーがステージへと上がり、コイントスを行い、選択権を得た第二新宿のリーダー
永倉は、神戸のリーダー工藤と握手を交わしステージを降りると、そのまま対戦筐体へと向かう。
神戸の顧問が紬だと知っていた神谷は、永倉へ駆け寄り、注意を促した。
「永倉さん。神戸の顧問は、ピクシーです」
「あ? 早速のご指導ですか、S級1位さん」
「そういうつもりじゃ……」
「じゃ、どういうつもりなんだ? S級1位になったからって、いい気になってんじゃねぞ!」
新宿校芸夢倶楽部の暗黙ルールとして、下級生と言えど、ランク上位者の言葉は絶対なのだが、それはクラブ15年の歴史上、S級10位までに高校三年以外が入ったことがなかったことで保たれていた治安だった。
しかし、高校一年の夏にS級8位に入った神谷は、上級生から疎ましく思われはじめ、陰口が絶えなかった。
1位を取れば状況は一変するだろうと神谷は練習に励み、今年の校内最終ランク決定戦で、高校二年でありながらS級の1位を勝ち取った。
しかし、新宿S級1位ということは、事実上、学生ナンバーワンの称号となるため、多くの企業が注目し、その機体に自社のロゴを貼って欲しいとオファーが殺到することもあって、ただでさえ反感を買っていたところに、嫉妬まで入り混じり、特に第一チームに入れなかった第二チームからの当たりは酷いものだった。
親(第二十一使徒)に頼んで、機体に特別な調整が入ってるんじゃねーの?
こうして、良かれと思った注意喚起も、ただ生意気に映っただけに終わってしまう。
そんな神谷を気遣って、真田が肩に手を置いた。
「気にするな、神谷。三年もこれで終わりだ。この大会が終われば、俺たちの時代が来る」
「そうだな……」
「真田ーッ! ボヤボヤするなーッ!」
苛立ちを隠せない永倉に呼ばれた真田は、キレの良い返事をした後「じゃ、行ってくる」と神谷に告げ、筐体へと駆け出す。
神谷は、その背中に「気をつけろよ」と声を掛け、真田は振り返ることなく、手を挙げることでそれに応えた。
両チームが揃ったところで、新宿駅を中心とした半径5kmの戦場が展開されていく。
その外周はというと、全ての表示が消えたデッドエリアと呼ばれる真っ暗な世界で、その名の通り、一歩でも踏み出せば、墜落したものとみなされ、相手チームの撃墜数にカウントされる仕組みになっている。
まずは、敵の配置を確認するため、マップを見ていたオペレーターリーダーの岸本が驚き、メンバー全員へ報告する。
「神戸の奴ら、バラバラに配置しています。しかも、デッドエリアギリギリのラインで」
岸本が驚くのも無理はなく、スタート時配置は全ての機体を集結させるか、2機3機に分かれるのがセオリーで、5機をバラバラに配置というのは、余程、個人の力に自信がある配置となるからだ。
無名のチーム相手なら兎も角、優勝候補の第二新宿相手に、その配置は無謀と思われた。
「なんだと? 俺たちに、タイマンで勝てるつもりでいるのか?」
その言葉に、このままでは1対1の勝負を仕掛け兼ねないと、真田は注意を促す。
「待ってください、永倉さん! ここは慎重に、各個撃破で……」
「テメェ、俺たちがタイマンで負けるとでも思ってんのか?」
「そうではありません。ここは万全を期して……」
「おいおい、まだA級脳が取れてねぇーのか、真田ァ~!」
「
「だから、なんだ?」
「どう考えても、罠です」
「ハァ? 笑わせるなよ。逃げてばっかだった『新宿の面汚し』に、何が出来るってんだ? ピクシーが活躍できていたのも、安西さんが居たからじゃねーか」
「筧の言う通りだ。いいか、真田? 俺たちならな、タイマンでも万全なんだよ!」
「しかし……」
「しかしもカカシもねー! 自信がねぇーなら、テメェーはそこで突っ立ってろ!」
新宿の空が赤く染まり、カウントダウンが始まる。
3・2・1・GO!
「行くぞ、テメーら!」
5機のGTXが、バラバラに待ち構える神戸選手に向かい散開する。
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あとがき
随分、待たせてしまいました。(^^;)
実は、スランプに陥っていました。
とはいえ、アイディアが出なかったのではなく、文章が浮かばないという厄介なモノで、書けども書けども納得できないというか、伝わらないんじゃないか?って感覚に襲われ、それならばと説明をダラダラと書けば書くほど、今度は逆に混乱を招くような気がしてきて、どうすりゃいいのよ!ってなってました。
こんなんだったら、試合やめとくか? 結果だけにしとくか?
って、一から書き直したこともありました。
しかし、前話の投稿から4ヶ月も経って、それはないだろうと戦う方向に舵を戻しました。
まだ、戦ってませんが(^^;)
タイトルの意味は、あのワムの名曲と同じ意味で「去年のクリスマス」です。
次回「FREEDOM」
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