第248話「後始末屋」

 そのホテルは、富裕層のために作られただけあって、絢爛豪華な建物に加え、敷地内に作られた川や池は、まるで水の都を連想させるデザインだった。

 しかも、川や池に見せたそれは全てがプールで、浮き輪に乗って流れを楽しんだり、ウォータースライダーなどのアトラクションや、ジャグジーや足湯なども完備しており、また、ホテルの地下にはカジノも用意されていて、ホテルだけでも十分に楽しめる空間を演出していた。


 そんなホテルのプールサイドには、寝心地が良さそうなビーチベッドとそれに付随するテーブルが景観を壊さない程度に配置され、中にはカーテン付きの天蓋付きベッドまで置かれてある。

 その内の一つに寝転がる男が燦々さんさんと降り注ぐ陽光をサングラスでさえぎりながら、プールではしゃぐ女たちを眺めていた。


 男の名は、レオナルド・ベント。

 部署の違う上司に命令され、無能な下請けの後始末をしに、此処コスタリカ共和国まで訪れていた。

 万が一のことを考え、秘密裏に下請け業者にICチップを埋め込んでいたのが幸いして、仕事は早々に片付き、今、特別休暇を楽しんでいた。


 一向にプールへ入ろうとしないレオナルドに気づいた一人の女がプールから上がると、水面から現れた健康的な小麦色の肌が水を弾いてキラキラと輝き、真っ赤なビキニが太陽よりも眩しい。

 女がバケツに冷やされたシャンパンとテーブルに置かれたグラスを1つ持つと、レオナルドが寝ているビーチベッドに腰掛けた。


「ねぇ、貴方は泳がないの?」


「あぁ、見てる方が楽しいんだ」


 女は「そう」とだけ返事して、ポンッと音を鳴らしシャンパンの栓を抜くと、グラスへと注ぎ、ゆっくり飲み始めた。


 この女は、頭がいい。

 そして、俺のような男をよく理解している。


「俺にもくれないか?」


 レオナルドの期待通り、女はグラスをレオナルドの方ではなく、自分の口へと運び、それを一口含むと、顔を近づけ、ゆっくりとその口へと流し込み、舌を絡ませる。

 妖しい瞳を輝かせながら「美味しい?」と微笑む女に、レオナルドはその腰に手を回し、グッと抱き寄せた。


「もう一杯、いただこうか?」


 この国では、売春が合法となっているからなのか、まるで虫が光を求めるように、酒場に行くだけで金という光に寄ってくる。

 余程稼げるのか、様々な色(人種)、様々な年齢の女たちが揃っていて、次から次へ自分の価値を提示して来た。

 今回、特別報酬が出たことで懐に余裕があった俺は、中でも飛び切りの上玉を探し選ぶと、その女は俺の懐を見抜いたのか、相場の倍を提示して来た。

 俺はそれを笑って、さらに上乗せし、条件を提示する。


「一晩、一人30万コロン(約6万円)やる。君と同じか、それ以上のをあと三人紹介してくれないか?」


「いいわ、待ってて」


 女は妖しく微笑み、俺の耳に口付けると、真っ直ぐ店の奥へと向かい、そこから四人の美女を連れて戻って来た。


「今日は、この四人ね」


 三人と言ったのに、四人連れてくるとはな。

 選ぶ範囲を広げたかのように見せてはいるが、女、俺の度量と懐具合を見ているな?

 五人なら二人帰らせることも躊躇ためらわなかっただろうが、一人を帰らせるとなると少々悩ませる。

 いいだろう、乗ってやる。


 そのズル賢い考えごと気に入った俺は、全員を連れて帰ることにした。



「昨日、俺がお前を外すかもしれないとは、考えなかったのか?」


「えぇ、考えなかったわ」


「凄い自信だな」


「もちろん、自信もあったけど……」


「けど?」


「貴方が自分で選んだのは、私だけだったからよ」


 やはり、できる女だ。

 連れて帰りたいくらいだ。


 レオナルドが女に年間契約の話を持ち出そうとした、その時、テーブルに置いていた携帯電話が鳴る。


「休暇中なんだがな……」


 レオナルドがそうこぼし電話を取ると、女は気を遣って言われるより先にその場を離れ、プールへと飛び込んだ。


 いい女だ、器量も、身体も。


 名残惜しむように女を目で見送った後、仕方ないとばかりに通話ボタンを押し、耳に当てる。


「なんでしょうか?」


「レニー、君にやってもらいたい仕事がある」


「終わったばかりなんですが?」


「そんなことは解っている。ネイサンが下手を打った所為で、ローガンがロトチェンコ(ハイジャック犯の生き残り)の死を疑い始めている」


「ならば、ネイサンに罪を着せて始末すればよろしいでしょ?」


「そんなことをすれば、FBIにテロリストの仲間が居たことになるではないか!」


 この期に及んで、その程度のことを気にするのか。


「で、私にどうしろと?」


「巧くやれ」


 一言で済ませやがって、全く、いいご身分だ。


「了解しましたが、報酬は弾んでもらいますよ」


「解った」


 いつから俺の仕事は、後始末屋になったんだ。

 折角の休暇が……、


 レオナルドは、溜め息と共に立ち上がり、手を挙げて赤い水着の女を呼ぶ。


「仕事で帰らなくてはいけなくなった。支払いはしといてやるから、今日一日、みんなで楽しめ」


 すると、女は寂しそうな表情で、右手をレオナルドの頬に当て、


「急ぎなの?」


「あぁ、そうだな……二時間くらい遅れたとしても、罰は当たらんか?」


「他の娘も呼ぶ?」


「いや、疲れて眠る訳にはいかんのでな。お前だけで……そう言えば、名前を聞いてなかったな?」


「セシリア」


「セシリアか、いい名だ」


 セシリアと一頻ひとしきり楽しんだ後、レオナルドはホテルが用意したハイヤーに乗り、フアン・サンタマリーア国際空港へと向かう。

 その中で、レオナルドは今後の計画を立てるため、現状を把握しようとタブレットを起動させた。


 なるほど、焦る訳だ。

 ヨハン・ポドルスキーが釈放されるのか?

 ローガンと組まれると厄介だな。



/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/_/


 あとがき


 実は、ゴリゴリにエロく書いてたんですが、

 子供も読んでるかもしれないからと、思い止まりましたw

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る