第243話「紬の推理」
2028年、インベダーズ(ユーザー登録者)によるeコマース(電子商取引)が開始されたこの年、GTW専用だったアプリは、インベーダーズ専用アプリへと進化し、その中で商品売買の他、ユーザーから寄せられた店舗や医療機関などの口コミ情報、更には仕事の求人なども加えられ、様々な生活に密着したコンテンツが実装される。
しかも、その投稿に掲載料を取らなかったことや労働者から中抜きをしなかったことで、当然のように独占状態となり、競合他社から独占禁止法にあたるとして訴えられる直前まで来ていたのだが、圧倒的ユーザー数を誇るインベイダーズ票を無視できる議員など皆無で、また、訴えようとした企業への不満が爆発し、関連企業をも巻き込んだ不買運動が勃発、訴えを取り下げてしまった結果、2030年を迎える前に、各国の派遣業者や紹介サイトなどのインベイド(侵略)が完了する。
また、この頃、インベイド社製の顔認証システムによる犯人特定までの速度と正確さが評判を呼び、アメリカの都市部だけでなく、地方や世界各国から設置要請を受け始めていた。
監視カメラの設置工事費や維持費は、それを要請した国や自治体、企業が負担することになっていたのだが、要請し易いようにその工事作業や定期検査する人間は、そのエリアに住んでいるインベイダーズが優先して引き受けられる仕組みになっており、作業もアプリ内の動画を見ることで、誰でも簡単に設置工事が出来るようにしていた。
中抜きをせず、安全と仕事を提供したこと、また、その給与をENにしたことでインベイド計画は、更に進んで行った。
世界中に設置された監視カメラの映像は、インベイド社が運営するデーターセンターへと保存され、世界中の誰でも自由に、いつの時代の映像も見ることが出来る。
また、それに付随する顔認証システムも、探したい相手とフレンド登録をしておけば、一般人でも顔認証システムへの問い合わせが、1回に対して1EN《えん》で利用可能となっており、更に認知症老人の俳諧や、子供の迷子や誘拐、イジメなどから守るために、月額500ENで問い合わせし放題のプランも用意されていた。
ゲームの地位を向上させるため、社会貢献の一環として各国の警察機構や政府は無償で利用可能となっているのだが、独裁国家などが『非人道な目的のための監視』であるとインベイド社が判断した場合、その事実を公表した上で利用停止を行っていて、ヨハン・ポドルスキーが疑われていたタクシー爆破の事件に関しても、同社は指名手配が出されるまで、ヨハンとフレデリカの検索にブロックを掛けていたのである。
「でもさ、FBIがヨハンが無実だって証拠を持ってるんなら、どうして、指名手配なんてすんのさ」
それに対し、紬は質問を質問で返す。
「アンタ、ヨハンが撃ったという映像が公開されてないのをどう思う?」
「映ってなかったか、残虐なシーンだからとか?」
「アタシは、そうは思わない。おそらく、FBIにとって、都合の悪い事実が映ってたからだ」
「FBI? ブラックレインじゃなくて?」
「あぁ」
インベイド社の監視システムは利用したいが、建物内の映像は渡したくない個人や企業も多かったことから、別料金で依頼主が指定する場所に映像用データーサーバーを構築し、問題が発生した際にインベイド社の監視システムへ問い合わせが出来るようにしていた。
この場合、その企業がインベイド社へ許可を出すか、その会社が事件を起こして警察の調査が入らない限り、社外の者がその映像を見ることは出来ない。
「え? なんで?」
「順を追って説明してやる。まず、大企業の社内に監視カメラが無いとも、今の保存技術で映像が壊れていたとも考え難い」
「まぁ、そうだね」
「もし、アンタが言った理由だったとしたら、映ってなかったとか、残虐なので見せられないという報道になっていた筈だ」
「あぁ、確かに……」
「次に、ブラックレインにとって都合が悪くなければ、それが殺人であろうが、正当防衛であろうが、構わず提出され、その映像が流されていただろ?」
「そっかー。じゃあ、ブラックレインの方が都合が悪かったってことじゃないの?」
「それはない。仮にそうだったなら、ブラックレインの社長は拘束され、今頃、大捜査になってる」
「確かに、そんな報道もないね……」
「つまり、公開されて都合が悪いのはFBIか、もしくは両方だ」
「でもさ、FBIの都合が悪いって、なに?」
「考えられる理由は幾つかあるが、一番濃厚なのは『テロリストがFBIに居た』だろうな」
「不祥事を隠すために?」
「回収しに来たのが、通常のFBI捜査官ならな。だが、おそらくは、テロリスト側の人間だ」
「えッ!? だったら、もう処分されてるんじゃないの?」
「その可能性は低い。テロに加担するような奴なら、間違いなく証拠は残す。身の安全の保障になるし、命令した奴を
「あぁ! そんな刑事モノのアニメ見たことある!」
すると、紬は何かを思い出したように、プッと噴出した後、
「耕太って、名前さぁ……」
「なに?」
「オタクになり易いのか?」
「ハァ?」
「いやね、知り合いの親父さんの名前がアンタと同じ耕太でさ、漢字まで一緒で、ゴリゴリのオタクなんだよ。ほら、姓名判断とかってあるからさ、あんのかなって思ってね」
「へぇ~、そうなんだ~って、そんな訳ないだろ! ただの偶然だよ! 第一、ボクは、オ・タ・クじゃない!」
「は? いや、見るからに……」
「見るからにって、なんだよ!」
「素直に認めろよ」
「認めるも何も、違うんだよ!」
「いいじゃねーか、オタクでも……」
「よくないね! じゃ、君は『フランス人ですか?』って聞かれたら『違います』って答えるだろ。それと同じで、明らかに違うんだよ!」
「まぁ、アタシをオシャレなフランス人だと勘違いしても、仕方が……」
「いいよ! 無理に広げなくて! 話を戻せよ! で、どうするのさ!」
「まずは、FBI本部の出入り業者を調べて、そこに潜入する」
「出入り業者に?」
「そうだ。いくら、そんな眼鏡があっても、そいつで誤魔化せるのはコンピュータだけなんだ。堂々と入って調べられる訳ねーだろ。ちったー、頭使えよ!」
「これから仲間として行動するんだから、君も、ちったー気を使ってもらえませんかね!」
「はい、はい、サヨウデゴザイマスカ」
全く、この女!
一方その頃、紬と同じ疑問を持つ者が、FBI側にも居た。
科学技術部のジェシカ・フーヴァーは、本来回ってくる筈のモノが来なかったことに疑問を感じ、本部で待機していた捜査官の一人に声を掛けた。
「ねぇ、ブラックレインであった事件の監視カメラ映像は?」
「映ってなかったらしいぞ」
「ハァ? 忘れたの? その判断は、私たちにあるのよ。刑事部じゃない! アンタじゃ、話にならないわ」
ジェシカは、長官に連絡を入れたのだが、返って来た答えは同じだった。
どうして……。
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