第220話「POKER FACE」

 2041年度の究道学園の生徒は、中学1年のみの182名。

 1クラスは、およそ30名で構成され、その数はAからFまでの6クラスとなっている。

 教師は、1教科毎に2名おり、その担当クラスはABCとDEFで分かれ、半年後に担当が入れ替わる仕組みになっていた。

 つまり、前期にAからCまで担当している国語教師・筒井が、Fクラスの閃堂眞鳳せんどうみおに会う(教える)のは半年後の3月で、もちろん、その間に校舎内で擦れ違うこともあるだろうが、そこまで警戒する必要は無いと考えていた。

 原作・虎塚帯牙、脚本・宮本哲也の計画予想では、半年もあれば、学校にも慣れ、友達も出来て、愛着が生まれ、仮に一度しか会った事がない筒井(母の友人である南城)を覚えていても、こちらが閃堂眞鳳の正体を明かさなければ、退学する可能性も、不登校になる可能性も低いと考えたのだが、


 上杉たちとの仲は良好で計画も順調と言えるが、如何せん早過ぎる。

 知り合いに似てるとは言ったが、おそらく、場を取り繕っただけだろう。

 こいつは間違いなく、アタシに気づいてる。

 そりゃそうだよ。

 よくよく考えりゃ、例え会った事が無くても、

 あの虎塚刀真が、ジジイの三番弟子であるアタシを教えない訳がない!

 となると、ジジイの影に気づくのも、時間の問題だな。


 黙っているのも不自然と感じた筒井は、取りあえず的な質問から始めた。


「で、入部はしないのか?」


「はい、すみません」


「そうか。あと二人だから、入ってくれると助かるんだが……まぁ、いる訳にもいかんしな。気が向いたら、いつでも言え」


「はい」


 筒井が平常心に戻ったと感じた香凛は、今がチャンスだとばかりに謝罪する。


「すみません。部外者を部室へ入れて……」


 怒られることを覚悟していたが、返ってきた言葉は意外にも優しく、


「気にするな。今は、部員が足らねーんだから、部外者だとか言ってる場合じゃねー。興味があるヤツが居たら、入る切っ掛けになるかもしれんから、バンバン入れろ」


「はい、ありがとうございます」


「なんか見てたんだろ? 気にせず、続けろ」


「え? いいんですか?」


「入らないと言ってるのになんだが、部活動より、今は勧誘の方が優先だからな」


 香凛は持っていたタブレットで再び、ジオラマを起動させ、眞鳳を誘導して、一番近い席に並んで座った。

 ジオラマを見つめる二人の背後で、筒井は先の展開を考えていた。


 さて、どうしたものか……、


 一方、眞鳳みおも筒井の視線を背中で感じながら、古い記憶を辿っていた。


 どうして、この人が此処(香川)に?


 究道学園は、その名を全国に知らしめる為、クラブ活動に力を入れているのは周知の事実で、多くの優秀な生徒が推薦で入学しており、事実、眞鳳の在籍するFクラスにも未来のメダリスト候補として注目を浴びる生徒が居た。

 また、顧問やコーチに関しても、超一流を揃えているという噂も耳にしていた為、ゲーム部にも優秀な顧問をスカウトしていたとしてもおかしくはない。

 

 理由としては成立している、してはいるけど、

 この人って、帯爺たいじいの弟子よね?

 やっぱり、偶然と呼ぶには怪し過ぎる。


 ――貴女もタイガーのように逃げるの?


 自分の父と母が亡くなったことに責任を感じた大叔父おおおじは、インベイド計画から退いたと伯母(雅)から聞いていた。


 帯爺が、現場に復帰したの?

 でも、あの帯爺が、こんな解り易いことするかな?

 それに「なんでもゲームなんだ」と言ってた帯爺が、プレイヤーでない事の方が気になる。

 アタシが対象じゃないか、もしくは、計画ですらない?

 少し、揺さぶってみるか?


「先生なら、スカーレットをどうやって攻略します?」


 ん? 仕掛けて来たか?


「フン、何を見てるかと思えば、随分とレベルの高い相手を見てんだな」


「強い相手を研究するのは、至極当然なのではないですか?」


「それは、自分がそのレベルに居たらの話だ。九九もろくに覚えてねーヤツが、連立方程式解こうとしてんじゃねーよ」


 そう言われて、思わず、香凛が口を挟む。


「え! でも、この前、自分が監督だったら、勝たせてやったのにって……」


「お前の眼には、このスカーレットと1年前のスカーレットが同じに見えんのか?」


「……」


 言葉に詰まった香凛を指差し、筒井は眞鳳に先ほどの質問に答える。


「解ったか? これが答えだ」


 まるで、お前には違いが判るんだろって、言いたげね?

 トッププロでも、1年前と今のスーちゃんの違いなんて判らないわよ!

 間違いない、この人はアタシの正体を知っている。

 いや、知っているというより……、


 お婆ちゃんが、アタシを学校に通わせたくて、帯爺に相談。

 帯爺が、偽名のままで通える学校を作って、

 学校での保護者として、この人を選んだ。

 そんなところね。


「そう言えば、まだ、お前の名前を聞いてなかったな」


 相手が知ってると判りつつ、知らない振りをするっていうのも大変ね。

 そうだ、アタシがこの人を知ってても問題はない。


「1年F組の閃堂です。あと、先生、アタシ勘違いしてました」


「勘違い? 何をだ?」


「知り合いのオバサンだと思ってましたけど、違いました。先生って、南城紬さんですよね?」


 そう来たか……。


「あぁ、そうだ。今は結婚して、筒井だがな」


 すると、眞鳳は隣に座る香凛の肩を叩き、


「良かったわね、この先生、優秀だよ」


「え!?」


「だって、この先生、桃李新宿ゲーム部の創設メンバーよ」


「えーーーーーーーッ!!」

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