第211話「口八丁手八丁」
どうして自分が褒められたのか不思議に感じながらも、
「どうして、その計画に巻き込まれてる上杉さんが、それを知ってはイケナイんですか?」
「まず、それに答える前に、お前たちの認識が一つ間違っているので正しておく。正確に言えば、巻き込まれているのは、お前たちもだ」
「そりゃ、ゲーム部に入ったんですから……」
「違うぞ、加賀美。入部、いや、入学する前からだ」
「入学する前? なに言ってるんですか、推薦の近藤さんなら兎も角……」
「お前も推薦だ」
「いや、そんな訳ないでしょ! だって、俺、自分で選んで、此処を受けたんですよ」
「疑うなら、実家に電話して、学費が掛かってるのか聞いてみろ」
そう言われ、右京はズボンのポケットからスマートフォンを取り出すと、母親に電話を掛けた。
「もしもし? 母ちゃん? あのさー、変なこと聞くけど、俺の学費って払ってるよな? え! 払った入学金が返って来た? なんで? ウッソ! マジかよ……」
「どうだ?」
「先生の言う通りでした。学費もそうですけど、寮のお金も掛かってないって……」
「正確には、在籍する全ての生徒が推薦だ」
「なんでそんな?」
「インベイドの計画に巻き込んだからさ。お前は、選ばれ、導かれて、此処へ来たんだ。例え、白紙でも、名無しでも、お前は受かってたよ」
「導かれた覚えは無いんですが……」
「じゃぁ聞くが、此処をなんで選んだ?」
「え? いやぁ~、そ、それは、家に届いたパンフレッドを見て……」
「他にも学校は幾らでもあったろ? なんで香川なんて遠く離れた学校にしようと思った?」
口が裂けてもフラれたからなんて言える筈もなく、
「え? いやぁ~、それは……校風が、俺に合うんじゃなぁいかなぁ~と……」
「嘘吐け! 面接でヤルお決まりの台詞言ってんじゃねーよ!」
実は、右京の『校風』という答え、
何故かというと、そのパンフレッドには『学びの楽しさ、スポーツの気持ちいい汗、学生時代にしか味わえない恋愛、究道学園は、君たちの青春を応援する!』と書かれていたからだ。
とはいえ、恋愛を認めてる校風に惹かれましたとは言えないのである。
「近藤、お前はどうなんだ? どうやって此処を知って、なぜ選んだ?」
「私は、ネットのCMで知って、選んだ理由は、私も校風に惹かれて……」
え!? ヒナタちゃんも、恋愛に?
「その校風ってなんだ? 言ってみろ」
「未来は、教師が決める訳でも、親が決める訳でも、誰が決める訳でもありません。自らの手で切り開くものです。私たちは、そんなアナタの夢(未来)を応援したい」
初めて耳にする言葉に「ソレハ、一体、何処ノ、学校デスカ?」というような表情をしていると、
「どうした、加賀美? 校風が違ったか?」
「え!? は、はい、そ、そうですね」
「裏を取ってねーから憶測でしかないが、そのCMはお前しか見ていないし、誘われ方も全員違う筈だ」
「ど、どういうことですか?」
「同じ募集要項で、全ての生徒がお前と同じように、心を動かされる訳じゃない。それぞれに合った言葉や方法で、アプローチしてるのさ」
「えッ! じゃぁ、ウッチャンのは、なんて書かれてあったの?」
「え、え、え、え、えぇ~っと、確か……学びの楽しさ、スポーツの気持ちいい汗、学生時代に・し・か・味・わ・え・な・い? 青春を応援するだったかな?」
「記憶が曖昧な癖に、よくもまぁ校風に惹かれたなんて言えたモンだな」
「ちょ、ちょっと忘れちゃっただけですよ!」
「まぁ、いい。さて、話を戻そうか、上杉の件だったな」
息を飲み、無言で頷く二人。
「今日、あんな負け方しちまったが、上杉は才能があって選ばれたんだ。ただな、その才能がリトルの頃から余り変わってない、いや、寧ろ、劣化してると言ってもいい」
「劣化?」
「気づいてたとは思うが、あいつは自分の才能に溺れて、天狗になってた」
「練習を怠ったってことですか?」
「いや、練習はしてたようだ。ランクも上げて来てるしな」
「え? なんで、それで劣化なんですか?」
「独学練習には、限界がある。よほどの天才で無い限り、身に付かないモンなんだ。だが、それよりも問題なのは、アイツは昔から単独行動が多く、チームプレイを乱して来たんだ。リトルの頃は、それでも活躍できたんだろうが、この先もそんな調子じゃ、予選さえ勝ち抜けない。天狗になってるアイツに『新宿を倒すために選ばれた』なんて言ってみろ、余計に図に乗りかねない」
「だから、伸びた鼻を折る為に、新宿と?」
「そうだ」
全く、急場にしては、上手い理由(うそ)を思いつけた自分を褒めたくなるぜ。
実は筒井、この理由を考える為に、敢えて後回しにしたのだ。
「時間は掛かるかもしれんが、アイツがアタシに教えてくださいと言うまで、お前たちは自然な流れに乗ってくれ」
「自然な流れ?」
「計画を知った上での動きはするな。知らなかった前提で、自分がしそうな行動を取ってくれればいい」
「解りました」
「あと、残りの部員の件だが……お前たちのようなのが、あと5人も居ない筈だ」
「おそらくって、先生、聞かされてないんですか?」
「あぁ、そうなんだよ。知らない方が上手く行くってな!」
「えぇぇぇ~、あ! でも、新宿の人が言ってた『彼女』って人は、知ってるんですよね?」
「そうだが、そいつが一番厄介なんだよ! 入りさえすれば、香川の優勝は間違いないんだがな……」
すると、陽が右京の袖を引っ張り「ねぇ、あの人じゃない?」と呟く、
「なんだ? 近藤!」
「もしかしたらなんですけど、もうその彼女に声を掛けたかも……」
「アンだと!? 詳しく聞かせろ!」
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