第212話「アタシに、ゲームを教えてください!」

 右京たちの話を聞き終わった筒井は、ハァーと大きな溜息を吐いた後、天を仰いで「最悪じゃねーか!」と叫んだ。

 原因は、香凛かりんであるものの、それを止められなかった責任を感じているのか、右京とひなたも申し訳なさそうに「はい……」と、小さく返事する。


「まぁ、あいつの性格じゃ、そういう流れになるか……」


「やっぱり、その子が、先生たちの言う彼女なんですか?」


「そんな芸当(ボールを跳ね返して当てる)が出来るのは、ま……閃堂せんどう眞鳳みおしかいねーだろうな」


 筒井はそう呟くと、今度は目を瞑り、拳で額をコツコツと叩きながら、思考を巡らせる。


 これから、どうすりゃいい……。


 そのまま3分が過ぎても答えが出せない筒井に、右京は「閃堂って子、誘った方がいいんですよね?」と、答えを急いたのだが、


「ダメだ! お前たちは、動くな! いや、動いた方がいいのか? ちょっと待て……」


 どうする?

 こいつらに、真凰まおのことまでバラすか?

 いや、ダメだ!

 反対していた筈の加賀美かがみが、昨日今日で態度を変えるのは、余りにも不自然過ぎる!

 それより何より、万が一の事も考えておかねーと……、

 ハァー、なんでこんな面倒な仕事請けちまったのかねー、ア・タ・シ・は!


「やっぱり、お前たちじゃ、ダメだ」


「じゃ、先生が?」


「余計、怪しいだろ、教師が入部を薦めんの」


「え!? でも、閃堂さんって、ゲーム強くて推薦で入ったんじゃないんですか?」


「あぁ、そうか! 知らんから、そう思うな……閃堂は、推薦だが別枠だ」


「え? でも、俺も違いますけど、先生に薦められても、怪しいなんて思いませんけど?」


 あぁ~もぅ! メンドクセーなぁ、コイツ!

 言うか? 言っちまうか?

 閃堂眞鳳の本当の名は、虎塚真凰こづかまおで、

 テロの犠牲になった、サーベルタイガーとシリアルキラーの娘で、

 この学校だって、真凰一人の為に作られたんだ!

 正直、香川への侵出なんて、二の次なんだよ!

 なんらな、制覇しなくてもいい!

 どうでもいいんだ、香川なんて!

 ついでだ! つ・い・で!

 だから、閃堂眞鳳が虎塚真凰だとバレりゃ、

 この学校が、テロの標的になるかも知れねーから、

 お前らも、死にたくなかったら、黙ってろよ!


 なんて、言える訳ねーだろ!!


「閃堂にも色々と事情があってな。自分はゲームをしてはイケナイと、自分の心に鍵掛けちまってるんだよ」


「そうなんですか……その事情って、聞いちゃダメですか?」


「お前、自分が此処へ来た、本当の理由、バラされたいのか?」


 し、し、し、知ってんの!?


 ――それぞれに合った言葉や方法で、アプローチしてるのさ。


 あぁぁぁぁぁぁーーーッ!

 だから、俺のパンフには『恋愛』なんて文字がぁ!


「わ、わ、解りました! 人には言い難いことって、ありますモンね!」


 明らかに動揺する右京の顔を覗き込む、ひなた

 このままではイケナイと、右京は話を次へと進める。


「でも、じゃ、他に誰が閃堂さんを誘えばいいんですか?」


「上杉に、任せるしかないな」


「えーッ!? 絶対ダメですよ、それ!」


「アタシも、そう思う……だが、きっと、それが最善手さいぜんしゅだ」


「最善って……今、最悪って言ったばかりなのに」


「うるせー! んなこと、言われんでも解ってる! あぁ~! もぅ~!」


 筒井は、唸りながら自分の髪の毛をクシャクシャに捏ね繰り回し始めた。


 これで当ってんのか?

 どうなんだよ! クソジジィー!


 だが、幾ら色々な手を考えても失敗のイメージばかりで、虎塚帯牙が敷いたレールだと思われる答えは『上杉香凛を放置する』しかなかった。

 そんな時、筒井の脳裏に宮本の言葉が過ぎる。


 ――もし、君の最善の手がそうであるなら、それは君の性格を熟知した上での帯牙の計画だ。


 そう言われちまうと、どこまで読まれてるのか、逆に試したくなるじゃねーか……。

 いや、ダメだ!

 この計画を失敗させる訳には行かねーんだ。

 アタシの個人的な好奇心に、インベイドの未来は賭けられねー!

 そういうのもコミコミで、読まれてるんだとしたら、

 全く、どこまでもムカツク、クソジジィだぜ!


 筒井の手が止まり、髪型がトンでもない姿に仕上がると、ようやく自分なりの答えを導き出す。


「いいか! テメーら! テメーらは今後一切、閃堂眞鳳に関わるな! いや、自然で居ろ! 仮に向こうから接触してきても、自然に振舞え! いいな!」


 どうすればいいのかイマイチ理解出来なかったものの、筒井の迫力に押され、はいと返事する右京と陽だった。

 と、その時、部室の扉が勢いよく開く。


「上杉ーィ!」


 香凛は、ずかずかと筒井の前まで歩み寄ると、深々と頭を下げ、


「アタシに、ゲームを教えてください!」


「随分と早いじゃねぇか……」


「アタシに、落ち込んでる暇なんて無いんです! 早く強くなりたいんです!」


 筒井の『随分と早い』主語は、香凛ではなく、帯牙の計画であったのだが、それを口にする訳にも行かず、


「そ、そうか。解った、アタシの特訓は厳しいぞ!」


「よろしくお願いします! なんでもやります!」


 なんなんだ、一体?

 まるで、別人じゃねーか!

 この1時間で、こいつに何かあったのか?


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あとがき 


構想段階での虎塚真凰こづかまおの偽名、実は『虎杖いたどり眞鳳みお』でしたw

止めた理由は、そう!

呪術廻戦の主人公の苗字が、虎杖だったからですw

これが「鈴木」とか「田中」とかよくある苗字なら、そのままにしたんですが、珍しい苗字で被るのって嫌だなぁ~ってなって、虎枝を含む虎杖を諦めることにしました。

あと、流行り過ぎてて、使い難い苗字の筆頭に「小鳥遊たかなし」ってのもあります。

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