第210話「嘘も方便」

「解った、教えてやる。教えてやるが、その前に……聞いたら最後、お前らはゲーム部を辞められなくなるし、場合によっては、この学校を辞めてもらうことになるかもしれないが、それでも聞くか?」


「えッ!?」と、たじろいだ右京の横で、ひなたが一歩前に進んで、それに答える。


「構いません! それでも、聞きたいです!」


「良い覚悟だ、近藤! 加賀美は、どうする?」


 そう言われ「僕は……」なんて、言える訳もなく、


「ぼ……俺も構いません!」


 咄嗟のことで『僕』と言いそうになったことに焦りながらも、なんとか『俺』を捻じ込み、冷や汗を袖で拭いながら、自分が問い詰めた筈なのに、なんだか主導権が陽に移ったことを情けなく感じながらも、こういう一面もあるのかと、改めて惚れ直す右京だった。


 筒井は覚悟を決め、両手で自分の頬を叩き気合を入れる。


 よし、木を隠すなら森ン中だ!


 このまま真実を右京や陽に教えない方がリスクが高くなると考えた筒井は、真実を織り交ぜながら、嘘の計画を語ることにした。


「いいか、まず、その前に約束しろ。今後、アタシが良いと言うまで、お前ら二人だけだったとしても、この話はするな! いいな!」


 陽の「ハイ」というキレの良い返事に被せるような形で、右京も続いて「ハイ」と返事する。


「さて、何から話せば……まずは、目的から行くか……今、お前らが目にした光景は、インベイド社による全国制覇の一端なんだ」


「インベイド社の全国制覇?」


「そして、この学校の校名だが……本当は、究道学園なんて名前じゃない」


「え!?」


「この学校の真の名は……桃李成蹊・香川校だ!」


「えーーーッ!」


「もう、これでお前らは、ゲーム部を続けるか、学校を辞めるかの二択になった」


 無言で頷く二人に、筒井は話を続ける。


「では、経緯から説明する。お前ら、香川にゲーム禁止条例がある所為で、香川にだけインベイドの施設や桃李が無いのは知ってるな?」


「はい」


「施設もそうだが、インベイド社と共に歩んできた桃李の名では、香川に学校建設の許可は下りない。そこでインベイド社の上層部は、社と関係の無い学校法人を作り、登録する校名を変え、申請を出し、通したという訳だ。申請した際には、ゲーム部も無かったし、スポーツ推薦で入学する学生が殆どだと知った知事は、喜んで判を押したらしい。まぁ、3年以内には、いずれかのクラブが全国の舞台へ上がることにはなるだろう。そして、我々、ゲーム部も全国制覇を成し遂げなければならない」


「えッ!」


「その時、ようやく、この学校の本当の名が告げられることになる」


「でも、もう校舎は出来てるんですから、今、本当の名を告げてもいいんじゃないですか?」


「それだと、インベイド社の施設が建設できない」


「優勝すれば、出来るんですか?」


「近藤、香川では条例の所為で若者離れが深刻になっているにも拘わらず、それでも条例が撤廃されないのは、どうしてだと思う?」


「え? 賛成する議員が……」


「違う。賛成する議員を押す、県民の方が多いからだ」


「あぁ、そうですね」


「だが、ここでだ。全国優勝を果たした後に、こう言うんだよ。香川のゲーム条例を撤廃しないと、香川から撤退するってな」


「それで、賛成になるんですか?」


「あぁ、必ずなる。桃李が各地方で建設が求められているのは、なんでだと思う?」


「インベイドのショッピングモールが出来るから?」


「それもあるが、一番大きな理由は、地域密着型だからだ」


「地域密着型?」


「桃李は、モンスター校だ。学校の備品は勿論のこと、学生たちの制服であったり、食事であったり、様々なモノをその地域から購入している。そして、例外なく香川も、その甘い汁を吸い始めた、それを手放すと思うか?」


「それは、優勝しなくても出来るんじゃ?」


「褒められた手法じゃないからな、賛成に回るヤツへの大義名分が必要なのさ」


「大義名分?」


「折角、香川から優勝校が出たのにだとか、インベイド社に任せれば香川が発展するかもだとかさ。口が裂けても、金儲け出来てるのに食い扶持がなくなるだろとは言えんのさ」


「あぁ~」


「ただでさえ、他の県民からすりゃ、香川なんざ、うどんしか取り柄がないと思われてんだ。そこに、新たに自慢できるモノが増える。そして、経済効果も大きい、間違いなく撤廃になるね」


「目的は解りましたけど、問題が……」


「なんだ?」


「全国大会で優勝なんて、出来るんですか?」


「加賀美、その為に選ばれたのが、アタシって訳だ!」


 親指を立て自分を指し、ドヤ顔をする筒井。


「先生って、桃李神戸で教えてたんですよね?」


「なんで知ってる!」


「先生、自分で言ってましたよ『神戸を退職後、教師も辞めたことになってる』って」


「あぁ~。これも秘密だからな!」


「で、なんで、東儀雅さんに内緒なんです?」


「えッ! そ、それはだな……」


 想定外の質問に、必死でその理由を考えていると、答え難い内容なんだと勘違いした陽が、それらしい答えを見つける。


「派閥争いとかですか?」


「そ、そうだ! そうなんだよ! 困ったことに、雅さんは反対派なんだ」


「あ! だから、新宿の強い生徒をコッチへって出来ないんですね!」


 更に良く出来た間違った答えを出した陽に、指をさしてベタ褒めする。


「お前! やるじゃねーか! その通りだ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る