第209話「Akashic Records」
泣いて部室を飛び出した
「加賀美、今は止めとけ」
「さっきの電話と、今、上杉が泣いてた理由は同じですか!」
右京に問い詰められ、筒井は即答を避ける。
「教えてやりたいのは山々だが、今は出来ない……」
「どうしてですか!」
「ちょっと、待って、少し考えさせてくれ……」
教えて、仲間に引き込むのが正解なのか?
それとも、ジジイの立てた計画のノイズにならないよう、教えないのが正解なのか?
どっちなんだ!
その時、ある言葉が脳裏を
――それぞれが、それぞれの最善を尽くす、きっと、それが正解なんだよ。
それは、この学校が開校される前の作戦会議で、細かな計画の道筋を教えられなかったことをボヤいた筒井に対して、宮本が出した答えだった。
「筒井君、アカシックレコードって知ってるか?」
「いいえ」
「宇宙の誕生から、その終わりまで、ありとあらゆる事象が刻まれたモノが在ると言われていて、今こうして、俺が君にアカシックレコードについて話していることまで、それに書かれているらしい」
「ハァ? なんスか、それ!」
「まぁ、そんなモノが本当に在るのか無いのかはさておき、俺は時折、帯牙が描いた絵(計画)は、それなんじゃないかと錯覚することがある」
「え?」
「計画が、まるで予言のように実現して行くんだ」
「予言って! ただ、計画が上手く行っただけでしょ?」
「ずっと傍で見てきた俺ですら、種の解らない手品を見せられてるようでね」
理解に苦しむ表情を見せる筒井に、解り易い例題を挙げる。
「風が吹けば桶屋が儲かるといえば、解ってもらえるかな?」
「知ってはいますが、本当にそんなことあるんですか?」
「そう思うのも無理はない。だがね、失敗したと思った行動が、その修正すらされる事のないまま、いつの間にか、それが成功するための鍵になっていたことがあるんだよ」
「最初から失敗を見越した案だったと?」
「いや、計画当初は、そんな感じじゃないんだ。ヤツに聞いても、笑って『運が良かった』と言うだけだったしな」
「本当に、ただ運が良かっただけなんじゃ?」
「俺も、最初はそう思った。だが、何度もあったんだ」
「何度も?」
「あぁ。中でも一番驚いたのは、ジム・アレンを仲間にする為にゲーム大会を企画した時だった。勝つ為に全力でプレイしたんだが、ゲームには負けてね。案の定、ジムに『その手を握るとしたら、それはアンタが俺に勝った時だ』と断られたんだよ」
「へぇ~」
「これで、もうジムを仲間に出来そうにないって思ったんだが、帯牙のヤツ、ジムになんて言ったと思う?」
筒井は、首を傾げ、両手を挙げる。
「予言しといてやるよ。いずれお前は、お前の方から、俺の手を握りに来る。ゲームをしなくてもなって言ったんだ」
「負け惜しみに、聞こえますね」
「俺もそう思ったよ。だから、ヤツにジムの代わりになる金融屋を何人も提示したんだが、代替案は受け入れなかった」
「まぁ、でも、ジムさん仲間になってますよね?」
「あぁ。予言が的中してな」
「えッ!?」
「ゲーム大会から3年だったか、4年だったか経って、ジムの方から連絡が来たんだよ。俺は余りにも気になったから、ジム本人に聞いてみたんだ。ゲームの後に、帯牙から連絡があったのかってのと、もし、あの時、俺たちがゲームに勝ってたら、あの時に仲間になったのか?」
「で、答えは?」
「どちらも、NOだった」
罠だったと気づいて、俺はタイガーの思考を読んだ。
――いずれお前は、お前の方から、俺の手を握りに来る。
罠だと気づけば、俺がそうすると?
負けておきながら、何故、俺の気を引けると考える?
思考を巡らせた末、立場を逆にした時、ある疑問が浮かぶんだ。
俺は、負けた相手を仲間に誘うのか?
誘わない……、
いや、違う!
根本が違ってるんだ!
あれは、
あのゲームは、
俺が仲間として
これに気づいた時、
だって、そうだろ?
この事に気づくかさえ、ヤツのテストだったんだからな。
テツヤ、俺が仲間になったのは、天才ラルフや大企業CEOのローレンスが居るからじゃない、タイガーが居たからだ。
とはいえ、ヤツに妹はやらんがな。
「俺は今でも、ヤツがラルフを
「いや、流石にそれは……」
「そうだな。ロリコンの件は、訂正しよう」
ひとしきり笑った後、宮本は真面目な表情になり、話を戻す。
「筒井君、迷うことはない。それぞれが、それぞれの最善を尽くす。きっと、それが正解なんだよ」
「アタシが雅さんに、チクってもッスか?」
「もし、君の最善の手がそうであるなら、それは君の性格を熟知した上での帯牙の計画だ」
「なんか、ムカツクなー! ジジイに、いいように振り回されてんのかよー」
「安心しろ、ムカツいてるのは君だけじゃない。此処に居る全員が、同じ気持ちだ」
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