第208話「竹馬の友」
5年ぶりに姿を現した親友は、まるで連帯保証人でも頼むかの如く、地面に頭を擦り付けている。
「土下座なんてよせよ!」
「頼む、お前しか居ないんだ!」
なかなか頭を上げない親友に、仕方なく話だけでも聞くことにした。
「とりあえず、受ける受けないは、話を聞いてからだ」
痩せて見た目が変わったとはいえ、両親と同じ絶対数感を持つ
また、仮にそれがクリア出来たとしても、声という問題もあって、どう考えても、自ら舞台へ上がることは出来ないという結論に至った帯牙は、一番信頼している親友に代役を頼みに来たのである。
帯牙から計画の全容を聞かされた宮本は、溜め息混じりに問い掛ける。
「随分とベリーハードなクエだな。俺にお前の代わりが務まるのか?」
今まで、ゲームにおいても、仕事においても、代役を引き受けてきたし、自分以上に帯牙の代役が務まる者は居ないと自負してきた。
本来なら、計画を聞くまでもなく、帯牙が練った計画なら安心して、そのレールに乗れるため、二つ返事で受けるのだが、5年ぶりに現れて土下座までする姿を見て、計画を聞かずにはいられなかった。
「俺の代わりが出来るのは、テッチャンしか居ないんだ!」
「そんなのは解ってる! そうじゃない、俺が聞きたいのは! 自分でやった場合と、俺がやった場合の成功率は幾つだ?」
一瞬、帯牙は
「俺が60%で、テッチャンが40%だ」
「クソが! 半分も
無論、帯牙の成功率が60%なのは、正体がバレないことが前提で、バレれば当然0%ということになるが、そういう答えを宮本が望んでいないこと汲み取ってのこと。
今回の計画は、高難易度な上、失敗も許されねー。
下手すりゃ、
しかも、情報が
少数精鋭での一発勝負!
激しく唸り、頭を掻き
「受けてやる、受けてはやるが……条件付きだ!」
「なんだ? ギャラなら、言い値で払う」と言うや否や、宮本は帯牙の胸倉を掴んで怒鳴った。
「馬鹿にすんな! 金なんざ、要らねぇー!」
そう言って、突き飛ばすように手を離した。
「上杉って子への負荷が大き過ぎる。自殺でもされたら、俺とお前の命を差し出しても足らんからな! 自殺されないように、24時間監視させる。そのために、俺の班(タイガーチーム・テッチャン班)を使う」
「了解した」
「あと、その子の親にだけは了承を取らせてもらう。責任は俺やお前だけでなく、インベイド社として取る。いいな!」
「あぁ」
「あと、お前のレールには乗ってやるが、現場での指揮は俺に一任してくれ」
「あぁ、任せる」
ハァーと、大きな溜め息を吐いた後、宮本は了承する。
「よし、引き受けてやる」
「ありがとう」
両手で握手を求めてきた帯牙の手を、宮本は右手でペシッと
「で、終わると思ったか?」
「へ?」
「テンメー、今、俺を試したろ?」
「そんなつもりは……」
「嘘コケーーーッ! 完全にテメーは、俺を誘導して、俺に任せられるかを試しただろうが! 何年、テメーと付き合ってると思ってんだ! 舐めんなーッ!」
すると、帯牙は「へへへ」と笑って誤魔化す。
「なんだ? こうやって、テメーを罵ってんのも、テメーの計算通りかーッ!」
「だから、テッチャンに任せられるんじゃないか」
「それで、褒めたつもりか? フザケやがってーーーッ!」
「まぁまぁまぁ」
「まぁまぁまぁ、じゃねーよ! テメー、俺がお前の納得する答え出せなかったら、どうするつもりだったんだ?」
「出せると信じてたよ」
「チッキショーーーッ!」
2041年7月末日、香川。
9月開校へ向け、急ピッチで学校が仕上がっていく中、慌ててグランドを駆ける小さな影が一つ。
「やっべぇぇぇーーーッ! 遅刻だぁぁぁーーーッ!」
13時から作戦会議をすると連絡を受けていた筒井だったのだが、昼ということもあって、油断して二度寝してしまったのである。
職員室の扉の小窓を覗くと、すでに会議は始まっていて、作業着姿の白髪白髭の老人が、なにやら説明をしている。
それに気づいた老人は、筒井を指差し「遅ーーーいッ!」と怒鳴った。
「すんませーん、遅れましたー! あ、あれ? 宮本さん?」
「おう、筒井君か、君の結婚式以来だな」
「アンタまで、ジジイに駆り出されて来たのかよ」
「まぁな」
「ん? ジジイの間で、
「誰がジジイじゃ! これは、アイツの代役としての役作りじゃ!」
「じゃ?」
「役作りじゃ」
「あぁ、そういうキャラ付けね。そーいやー、ゲームん時も、大佐だのなんのっつってたなー」
「ワシは少佐」
「知らねーよ!」
「遅れて来た癖に、態度がデカイな!」
「それは、スンマセン」
「今日からワシが指揮を取るから、よろしく」
「え? ジジイじゃねーの?」
「計画はアイツだが、それだともしもの時の対応が遅れる」
「え? じゃ、少佐って呼ばねーといけねーの?」
「いやいや、今日からワシのことは、用務員さんと呼ぶのじゃ」
「用務員の爺さん」
「爺さんは余計!」
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