第203話「虎塚帯牙の目的」

 沖田司のGTWドライバー認識番号(DID)の登録は、2031年に行われているものの、その戦歴はというと、2041年3月12日まで存在しない。

 それは、最初に戦歴が刻まれることとなった桃李新宿ゲーム部の入部テストまで、師である浅倉小次郎とテストモードでしか対戦して来なかった為だ。


「なんで師匠、ドライバーやらないんですか?」


「前にも、言ったろ?」 


「いや、でも十分強い気がするんですが……」


 その理由とは、引退した日に南城紬なんじょうつむぎにも答えた『納得できるプレイが出来ない』なのだが、司にはその言葉が信じられなかったのだ。


「自分が勝てないから、そう思うだけだ」


「そうかな? じゃ、師匠なら何位くらいに成れます?」


「100位以内には、入るだろうな」


「ほら~、やっぱりトンでもなく強いじゃないですか」


「順位は関係ない、金に困ってる訳じゃないからな。自分が思い描くプレイが出来るのなら、例えプロに成れない順位だったとしても、お前に言われるまでも無くやっている」


 トッププレイヤーに成れても、納得できないプレイってなんなんだ?


 イマイチ理解に苦しむ司であったが、それよりも、今度は自分の順位が気になった。


「ところで、今のボクは何位くらいに成れそうなんですか?」


「そうだな~、今のお前なら、1000以内には入るだろうな」


「え!? なのにまだ一般でプレイしちゃ、駄目なんですか!」


「お前に求めるのも、同じモノだからだ」


「えぇ……」


 それって、最悪の場合、

 ボク、一生プレイできない可能性もあるんじゃないの?


 だが、それは怖くて聞けない司だった。


 浅倉小次郎が弟子を育てていることを知る者は、第7次GTW終結宣言のパーティーに参加していたごく一部で、その後、その名を聞くことが無かったこともあって、挨拶を交わした者たちでさえ、その記憶から風化するように消し去られていた。

 のちに気がつくことになる東儀雅も、桃李新宿からの定期報告で「無敗でSランクに到達した者が居る」と知らされ、ようやく思い出したのである。


 そんな誰にも注目を浴びていない無名プレイヤーの下へ虎塚帯牙が訪れたのは、2040年10月のこと。


「浅倉くん、君にお願いがある」


「なんですか?」


「君の弟子、沖田くんを私に貸して欲しい」


「貸す?」


 虎塚帯牙の目的は、3つ有り。

 1つ目は、虎塚真凰こづかまおにゲームをさせる。

 2つ目は、日本で最後に残された香川県に、インベイド施設を建設する。

 3つ目は、東儀雅の目を覚まさせる。


 この目的を果たす為、貸して欲しいと言うのだが、深く考える小次郎より先に、司の方がそれに興味を示す。


「真凰ちゃんって、あの『パパを倒して世界一位になる』って言ってた?」


「そうだ、あの時の子だ」


「へぇ~、あの子が……真凰ちゃんって、強いんですか?」


「GTWは、一度もプレイしたこと無いが、恐らく最強になれる器だ」


「一度もプレイしてなくて? ホントですか?」


「あぁ、親馬鹿かもしれんが、刀真、サーベルタイガーは『俺より才能がある』と言ったくらいだ」


「えぇーッ!?」


「あと、他のゲームになるが、刀真に勝ったこともあるしな」


「凄いじゃないですか! で、ボクは何をすればいいんですか?」


「ちょっと待って、司! まだ、許可は出してない!」


「えぇ~」


「なんとかならんかね?」


「協力したいのは山々ですが、この子は未熟です。お役に立てるとは思えません」


「未熟? 学生の範囲内であれば、今の司くんに敵は居ないと思うが?」


「どうして、それを?」


「開発者という者は、あらゆるデータを収集しておく人種でね」


「テストプレイのデータが残ってるんですか?」


「あぁ。とはいえ、安心してくれていい。インベイドの開発者しか見れんし、50億人もプレイヤーが居るんだ、そもそも司くんに注目してない限り、気づく者など社内でも皆無だろうよ」


「ちょっと待ってください。ボクって、そんなに強いんですか?」


「あぁ、今でも、100位以内には……」


「タイガーさん!」


「あぁ、隠してたのか、すまない」


 ボクが1000で100ってことは……師匠は100だから、10!?

 師匠、10位に成れるのに納得できないの!?

 で、ボクはそれを求められてるの!?

 こ、この先、一般でプレイ出来る気がしない!


「師匠、ボクからもお願いします」


「司……お前は、腕試しがしたいだけじゃないのか?」


「違います! いえ、違わないのかもしれません。だけど、それよりも、ボクはあの子と、真凰ちゃんと闘ってみたいんです!」


 小次郎は、う~んと長く唸った後、


「親なら、子供の我侭わがままを一度くらい受け入れてやるべきか……」


「え? じゃ、師匠!」


「解りました、協力しましょう」


「やったー! で、ボクは、香川に行けば良いんですか?」


「いや、君に香川へ行かれると、真凰がゲーム部に入部しない可能性がある。それに闘いたいのなら別の学校を選ぶべきだろ?」


「あぁ~、確かに……」


「それと、さっき『君に敵は居ない』と言ったが、真凰以外にも一人だけ、君のライバルになる者が近々現れる」


「え?」


「リトルの北米代表になった、スカーレット・イングラムだ」


「リトル、小学生が、ですか?」


「あぁ。もし、東儀雅が目を付けてなければ、私は今回の件、君ではなく彼女に依頼してただろう」


「へぇ~」


「私の見立てでは、現状、君の方が強い。だがそれは、浅倉くんが教えてきた経験値が物を言うからだ。だが何れ、彼女はGTX1000に乗る。東儀雅の……いや、サーベルタイガーの後継者としてな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る