第194話「自信過剰」

 さて、今から上杉香凛うえすぎかりんに指導をと思った矢先、校内アナウンスで呼び出しが掛かる。


『筒井先生、筒井先生。お電話です。至急、職員室までお戻りください』


「なんだよ、電話って。誰からだよ! 旦那じゃねーだろうな?」と、スマホの画面を見るも、着信履歴にその名前は無い。

「誰からだよ!」と、ぶつくさと文句を垂れ流しながら、職員室へと戻った。

 部屋へ入るなり、同僚の教師から「筒井先生、桃李新宿ゲーム部からお電話です」と、受話器を渡される。


「あ、はい、どうも」


 どういうことだ?

 なんで、新宿が?


「電話代わりました、究道学園ゲーム部顧問の筒井です」


わたくし桃李成蹊学院とうりせいけいがくいん芸夢倶楽部・部員の高橋と申します」


「顧問じゃねーのかよ! ウチに何の用だ?」


 いきなり豹変した相手の態度に、高橋はオドオドしてしまう。


「た、た、た、対抗戦を、お、お、お、お願いしたいのですが……」


「ハァ? 対抗戦だぁ? なんで新設されたばかりのウチなんかに、優勝校様が試合を申し込むんだよ!」


 なんで、この人、喧嘩腰なんだ?

 なんか悪いこと言ったか?


 首を傾げながらも、高橋はその理由を隠さず相手に伝えた。


「あの~、私ども、そちらに在籍しております、上杉さんに注目しておりまして……」


「ハァ? 上杉?」


 なんで、上杉なんだ?

 確かに巧い方ではあるが、新宿が気にするレベルじゃ……、

 まさか、気づかれたのか?

 いや、そんな筈はねー。

 まだ、入ってねーんだからな。

 それに気づいているなら、上杉の名前じゃなかった筈だ。

 これも、爺の仕掛けか?


「はい、お願いできませんか?」


「さっきも言ったように、ウチは出来たばかりで、部員は未だ3名しか居ない。対抗戦なんて出来ねーよ!」


「え! そうなんですか! す、すみません。ちょっと上の者と相談して参りますので、しばらくお待ちください」


「おい! かけてきといて聞きに行くって、どういう了見だ! おい、おーーーい!」


 高橋は、保留を押すなり「ガラの悪い人だな。体育教師か? ゲーム部で?」とこぼし、急いで部室へと向かい、S級部員たちに内容を伝え、対抗戦が『1対1形式で、上杉の三連戦』と決まったところで、再び、電話口へと駆け戻った。


 高橋は深呼吸をして息を整え、保留ボタンを解除する。

 すると、受話器の向こうから、怒鳴り声が溢れ出してきた。


「テメーかけてきといて、待たせんじゃねーよ!」


「す、すみません」


「テメーで決められねーんなら、責任者と代われよ!」 


「す、すみません。そ、それは、もう大丈夫です」


 謝罪を繰り返した後、対抗戦の内容を伝え、筒井から了解を得る。


「では、いつをご希望ですか?」


「そうだな、今度の日曜、8日の午前10時にする」


 相手に「する」と言い切られ、高橋は焦る。

 本来なら部長の真田にそれでいいか了解を得たいところだったが、先程「もう大丈夫」と言ってしまった手前、後に引けず、怒鳴られることを恐れ、それを快諾する。


「わ、解りました。では、8日午前10時で、よろしくお願いいたします」


 高橋は、そっと受話器を置き、眼鏡を外すと、変に掻いてしまった汗をジャージの袖で拭い、今後の不安を漏らした。


「もし、上杉が本物だったら、何度も対戦することになるんだろうなぁ。その度に、わたしが窓口になるのか……だなぁ」


 本物じゃありませんよーに!


 そう強く祈る、高橋だった。



 一方その頃、究道学園では、職員室に呼ばれていた筒井が部室へ戻ってきた。


「上杉、桃李新宿から試合の申し込みが来た」


 香凛は腕が鳴るとばかりに、両手の指をポキポキと鳴らす。


「早速、来たわね! 望むところよ!」


「優勝校が言ってくるって、お前、本当に凄かったんだな」


 右京にしては、褒めたつもりだったのだが、その相手にとっては違ったようで、


「ハァ? どういう意味? アンタ、アタシのこと疑ってたの?」


「え? ほ、ほらだってさ~、このゲーム強い人って、桃李行くじゃん」


 一瞬、不機嫌な表情を見せた香凛だったが、また、自信満々な笑みに戻り、


「アタシはね、強過ぎるのよ! 別格なの!」


「ソ・ウ・デ・ス・カー」


 生返事をした右京の隣で、近藤陽こんどうひなたが重要な事に気づく。


「ちょ、ちょっと待ってください! こっち3人ですよ! しかも、素人が2人!」


「あぁ、そのことなら気にするな近藤。上杉のタイマンで、オペレーターも無しだ」


「あぁ、そうなんですか、よかったぁ、足引っ張ったらどうしようかと……」


「アタシ的には、ちょうどいいハンデだから構わないけどね」


「お前、どんだけ強いんだよ」


「底なしなのよ」


「ハイ・ハイ・ソ・ウ・デ・ス・カー」


「そんなに自信があんなら、指導の必要は無さそうだな」


「ハァ? そんなの最初から必要ないわ」


「おいおい、お前、先生に負けといて、よく言えるな」


「セコイ手に、偶然、引っ掛かっただけよ。あんな奇跡、二度とないわ!」


 そう思ってる内は、何度もあるんだがな。


「で、いつなの?」


「次の日曜、午前10時だ」


 アタシの予想じゃ、向こうの面子にもよるが、まず上杉は一勝も出来ないだろうね。

 鼻っ柱をし折る程度なら、コイツには良い薬になるだろうが、

 心まで折られなけりゃ、いいんだがな。

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