第192話「対抗戦」
そこで桃李新宿ゲーム部部長の真田は、その実力を確かめようと、上杉が在籍してる学校と対抗戦を行うため、S級主席オペレーターである高橋に、在籍している学校を調べさせていた。
しかし、返って来た答えは、何処の桃李にも在籍しておらず、また、U-18サバイバルゲーム世界大会予選にエントリーもしていないという事実だった。
「中学行かずに、プロ一本にしたのか?」
ゲームで稼げるようになったこの時代においても、世間ではまだまだ「せめて、高校は卒業させよう」という風潮で、中卒でプロになる者でさえ極めて少なく、小卒でプロ一本は世界でも片手で足りる程度だった。
「いやまさか、そこは流石に学校へ通いながらだと思いますよ。おそらくは、ゲーム部に在籍してないだけでしょう」
「そうだな。もう出て来ないというのであれば、気にする必要も無いか。高橋、すまなかったな、上杉の件、もう調べなくてもいいぞ」
「解りました」
こうして、真田の指示通り、高橋も調べてはいなかったのだが、上杉のDID(ドライバーID)を検索項目から外していなかったため、その時は突然訪れる。
それは、新宿部員の誰の頭から『ポスト・シリアルキラー』が忘れ去られた、9月3日。
高橋の持つタブレットに、上杉香凛のゲーム部登録が知らされたのである。
「部長、例の上杉が見つかりました!」
「なに!? 何処だ?」
「香川の私立究道学園です」
「高橋、至急その学校と連絡を取って、対抗戦の予定を組んでくれ。立川、お前はS級部員に集合のアナウンスを」
「はい」
S級次席オペレーターの立川はヘッドセットを装着すると、PCを操作し、筐体内に居るS級ドライバーたちにアナウンスする。
「緊急S級会議を始めます。S級ドライバーおよび、オペレーターは直ちにプレイを中断し、部室へ集合してください。繰り返します、緊急S級会議を始めます。S級ドライバーおよび、オペレーターは直ちにプレイを中断し、部室へ集合してください」
10分後、全S級部員が揃った所で、部長の真田が話を切り出した。
「ポストシリアルキラー・上杉の所在が判った」
「え? 何処に居たんです?」
「香川だ」
「かぁ~がぁ~わぁ? 香川に桃李って在りましたっけ?」
「いや、桃李じゃない」
「それなら、気にすることないんじゃないスか?」
「杉田……もしも、上杉がシリアルキラーレベルなら、桃李じゃなくとも、さらにはそれ以外のメンバーがクズでも、一人で事足りるんだ。そんな事も解らんのか」
「す、すみません。しっかし、なんでまた、そんな
「知っても意味の無い理由なんて、どうでもいい!」
二度怒られたことで、お調子者の杉田は萎縮し、代わりにS級5位の沖田が話を進める。
「で、どうするんです?」
「対抗戦を行い、直にその実力を確かめる」
「で、その選抜メンバーをってことですか?」
「その通りだ。日程はまだ決まってないが、おそらく日曜になるだろう」
「あの~」
「なんだ、沖田」
「遠征しませんか?」
「遠征? オンラインで対戦できるのに、
「はい、直に見てみたいんですよ」
「気持ちは解らんでもないが、如何せん、香川は遠過ぎる。ちなみに、立川、どれくらいだ?」
立川は手に持ったタブレットを操作し、東京から香川までの時間と料金を調べる。
「飛行機とバスで、片道2時間半と言ったところです。フレディー航空を使えば、一人往復で6000ENになりますね」
「となると、泊りの可能性も出るな……」
「泊りですと、香川にインベイド施設がありませんので、ENで宿泊するなら……一番近いのは、徳島の阿波ですね。食費も合わせますと、12000ENくらいかと。部費で行けなくはありませんが、どうされます?」
「正直、そこまでの価値が有るとは思えんがな。神谷、どう思う?」
「まず対戦して、誰も勝てないようなら、その時、改めて行けば良いんじゃないか?」
「そうだな。ということだ、沖田」
「はい」
しまったな、こんなことなら、決定権のある1位になっておくんだった。
対抗戦メンバーを決めようとしたその時、高橋が戻ってきた。
「高橋、いつになった?」
「それがですね……」
「なんだ?」
「まだ、向こうの部員が3名しか居ないとのことで、やるなら、1対1での勝負が良いと」
「となると、神谷しか居ないな」
「待ってください!」
「なんだ、沖田、お前がやりたいのか?」
「それもありますが、向こうに上杉くんの3連戦でお願いしたいと伝えてもらえますか?」
「3連戦?」
「そうです。神谷さん、ボク、そして……」
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「あとがき」
作品中、杉田が香川を辺鄙と表現したのは、ゲームというカテゴリにおいて、その中心から離れた開けていない場所という意味であって、片田舎と言っている訳ではありません。
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