第190話「過小評価」

「教える前に、まずは聞いておきたい」


「なんスか?」


「君は、どのくらい強くなりたいんだい?」


「そうッスね……サバゲーの世界戦で、みんなの足を引っ張らない程度には……」


「え? それだったら、今のままでも十分だよ」


「はい? 今のままでも?」


「あぁ、大丈夫だと思うよ」


「そうかな?」


「君の周りが強過ぎるから、自分を過小評価してしまってるだけだよ」


「じゃ、連覇できそうッスか?」


「参加校のデータを全て把握してる訳じゃないけど、一般サーバーに18歳未満で君らの他に強い子が出たって噂は聞かないから、大丈夫だと思うよ。保障はしないけど」


「保障なしかぁ……」


「そりゃそうだよ。極めて低い確率だろうけど、飛鳥ちゃんクラスが今後、現れないとも限らないからね」


「雅さんクラスなら?」


「同じく出てくる可能性は低いが、飛鳥ちゃんよりは出てくるかもしれない。だがそれでも、一人じゃダメだ。最低でも二人、雅ちゃんクラスがチームに居ないと、君らには勝てない」


「そうすか……えッ!? それって、もしかして」


「そうだ。美羽くんと君が組めば、雅ちゃんに勝てるってことさ」


「えーーーッ! いやいやいや、それは無いでしょう。美羽は兎も角」


「そんなことはないよ。でもまぁ、1対2じゃダメだろうね」


「はい?」


「勝つには、他にも駒が居るってことさ。5対5なら、美羽くんが戦術で詰め寄る」


「戦術?」


「もしかして、知らないのか?」


「なにが?」


「美羽くんは、俺の二番目の弟子だよ」


 一番弟子は、もちろん刀真である。


「えーーーッ!」


 サバイバルゲーム大会に飛鳥が参加できないと知った時、今の紬と同様、自分が足手纏いにならないために、美羽は帯牙の門を叩いたのだ。


「なんだ? 抜け駆けして、ズルイと思ったか?」


「いや、そんなことは……」


 よくもまぁ、こんな変態にテメーから近づいたモンだよ。


「おい! 心の声が口から出てんぞ! 誰が変態だよ、失敬だな!」


「よく言うよ。フルチンで雅さんに、抱きつこうとした癖に」


「いいんだよ! 恋人同士だから!」


「こーわッ! 日本でロリコンは、死刑になればいいのに!」


「罰が重過ぎる! 全く、あの野郎(刀真)、妙な教育しやがって!」


「そんなことより、本当にアタシ、強いんスか?」


「君らの戦いは、全て見てきたけど、君を弱いと思ったこと無いよ」


「見てたって……見てたの雅さんだけじゃねーの?」


「だから、心の声が口から漏れてる! 悪口は心の中だけにしろ! いや、そもそも考えるな!」


 その注意を無視して、紬は話を続ける。


「でも、アタシより強い後輩が居るんスけど」


「え?」


 すると帯牙は、少し首を傾げ「ちょっと調べる」と言って、座っていた椅子をクルリと回し、パソコンに向かうと、カタカタとキーボードを打ち始め、モニタには桃李の生徒管理ログイン画面が映し出された。


「あー! イッケナイんだー!」


「大丈夫、許可は貰ってる」


「ホントかなー?」


 その疑問に答えることなく、次に帯牙は桃李ゲーム部に在籍している生徒からDID(ドライバーID)を抜き出すと、今度はインベイドの管理システムの方へとログインし、そのデータを分析する。


「確かに、強いけど、まだ君よりも下だね」


「それは、1年多くやってるから、順位が上に居るだけっショ」


「確かに、それはある意味正しい」


「ある意味?」


「順位の話じゃない。刀真が1年多く教えてるんだ、この子たちより強くて当たり前なんだよ」


「でも、何度か負けてるんスけど……」


 そう言われ、帯牙は紬の戦歴データから、1対1での敗戦データを選び、再生を始める。

 3試合ほど、対戦履歴を見終わった後、帯牙は「やっぱりな」と、何かに納得したように呟くと、再び、椅子をクルリと回して、紬の方へ振り返った。


「なにがやっぱりなんです?」


「君は、後輩に対して、手を抜いている」


「いや、そんなことは……」


 すると帯牙は、1つの目の試合の24秒のところで停止させ「なんで、この時、撃たなかった?」と問い掛けた。


「いや、それはスタートしたばかりだし……」


「試合でも、見逃したかい?」


「そりゃ、試合なら撃ちますよ」


「君のような戦い方を横綱相撲って言うんだ」


「そんな大したモンじゃありませんよ」


「じゃ、聞くが、この対戦でも、この対戦でも、ミスを見逃して、相手が力を出し切るのを待ってる。違うか?」


「いやでも、それは……」


「後輩を強くするという意味において、君の指導方法は正しいし、実際、彼女たちも強くなってる。しかしだ、それを彼女たちの実力だと思ったり、自分を過小に評価するのは間違いだ」


 やっと、お前(刀真)が紬くんを此処へ来させた理由が解ったよ。


「どうやら、君は刀真に試されたようだね」


「試された?」


「あいつにしては、ヒントに具体性が無さ過ぎると思ったんだよ。たぶん、あいつがインベイドに戻らなくても、君を此処に来させただろうね」


「え?」


「君は、一番大事なことが欠けている」


「大事なこと?」


「勝ちたいという強い意志さ」


「え? 勝ちたいとは思ってますよ」


「ぼんやりと思うだけで、是が非でもって程じゃなかったろ?」


「まぁ、確かに……」

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