第183話「約束」

「あのね、スーちゃん。このゲームには、ジューヨーなポイントがあってね!」


「ジューヨーなポイント?」


 まるで、誰にも知られてはイケナイ機密情報のように、周りに人が居ないことを確認した後、真凰まおは、そのゲームのコツを小声で友達に語る。


「うん。スーちゃんは、落ちてきたヤツを見て、置くトコ決めてるでしょ?」


「うん」


「でも、真凰はね。ココにある、次に出てくるヤツを見た時に、もうドコに置くか決めてるの」


「あ、そうか!」


「シーッ!」


 スーは慌てて、両手で口を塞ぎ、誰にも聞かれてないことを確認すると、真凰に合わせ、小声でその重要な情報について話を進める。


「真凰ちゃんは、それだけ早く置く場所を決めれるってことだね!」


「そうなの。置いたの覚えとかなきゃダメだから、最初は難しかったけど、段々とね、出来るようになるの」


「凄いなぁ~、真凰ちゃん。自分で見つけたの?」


「えへへ。実は、パパに教えて貰ったんだ」


「なぁんだ、そうなんだ。真凰ちゃんのパパって、他のゲームも上手いんだね」


「うん、真凰のパパは、なんでも世界一なんだよ!」


「凄いなぁ~」


「でもね、いつかパパに勝って、真凰が世界一になるの」


「真凰ちゃんなら、きっとなれるよ!」


「ありがとう。スーちゃんも上手いから、えっと2位はパパだから、3位、あ! ママが居るから、4位……おばちゃんが居るけど、まぁいいか! スーちゃんなら、4位になれるよ!」


「え! ホントに?」


「ホントだよ」


「スーも頑張る!」


「うん、一緒に強くなろう!」


「約束だよ」


「うん、約束だね!」


 真凰ちゃんは、真凰ちゃんのパパとママのお葬式の後、お別れもできないまま、どこかへ行ちゃったんだ。

 でも、このゲームをしてたら、きっと、また、真凰ちゃんに逢えるよね?

 真凰ちゃん、私ね、強くなったよ。


 ゲームに限らず、上手い人間と続けていれば、おのずとその強さが身に付いて来る。

 世間では、スカーレット・イングラムの師は東儀雅と言われているが、本当の師は虎塚真凰だった。

 実は、兄のオペレーターをしていたのも、兄に押し付けられたものではなく、いつか真凰のオペレーターをしたいという考えからであった。


 スカーレットがドライバーとして転向する切っ掛けとなったのは、兄の卒業ということもあったが、最も影響を及ぼしたのは、桃李・サンフラシスコ校に、雅が講師として招かれた時の事だった。

 雅のGTW講義の後、真凰のことが気になっていたスカーレットは、思い切って、雅に真凰の現状を尋ねてみた。


「あのー」


「なに?」


「真凰ちゃんは、元気ですか?」


「ごめんなさい、随分と会ってないから分からないわ」


 久しぶりに聞く姪の名に、雅の表情が曇る。

 それというのも、雅は自分の跡を真凰に継いで欲しかったからなのだが、虎塚家に行っても、真凰に会うことは出来ず、また、彼女の祖母である虎塚早苗から「反対してる訳じゃないのよ。寧ろ、やってもいいわよって言ったんだけどね。あの子は『もうゲームはしない』って」と、聞かされていたからだ。


 あの子も、タイガーのように逃げたのね。


「あのー、じゃ、真凰ちゃんの住所か、電話番号を教えてもらえませんか?」


「ごめんなさいね。まだ、テロの標的かもしれないから、住所も電話番号もメールアドレスも、誰にも教えられないのよ」


 スカーレットは、泣き出しそうになるのを堪えながら、それでも僅かな可能性にかけ、雅に伝言を託すことにした。


「そ、そうですか……じゃ、もし、真凰ちゃんに会う事があったら『スーが、また対戦してね』って言ってたと、お伝えください」


 だが、雅はメッセージを伝えるという約束よりも、この少女が言った「また対戦してね」の言葉の方が気になってしまう。


「また? またってことは、あの子と対戦したことがあるの?」


「はい、エレメンタリー(小学校)に入ってから、ずっと色んなゲームで対戦してました」


「勝ったことはある?」


「いいえ、全然、勝てませんでした」


「でしょうね……」


 先生に勝ったことのあるあの子に勝てるなんて、先生以外じゃ飛鳥ぐらいよ。


「でも、お世辞かもしれませんが、スーちゃんも上手いよって褒められたことがあります。スーちゃんなら、4位に成れるよって」


 ただ、褒められたという幼い頃の小さな思い出を語っただけだったのだが、雅の逆鱗に触れてしまう。


「なんですって?」


 どうせ、自分が1位、パパが2位で、ママが3位なんでしょ?

 ということは、アタシは、この子に負けるってことね?


「スカーレット! 対戦筐体に入りなさい」


「え?」


「ドライバーは出来ない?」


「で、出来ます」


「5分後に、対戦を開始するわ」


「は、はい!」


 筐体に乗り込んだはいいが、ドライバーは初めてであった為、機体選びで悩んでしまう。


「どうしよう? 5分しかないから……あ! そうだ! これだ、これにしよう! えっと、武器は確か……これだ!」


 5分後、スカーレットの選んだ機体と武器を見て、雅は激怒する。


「イチマルに、スノードロップ!」


 まるで、雅の怒りがそのまま戦場の空に移ったかのように、サンフランシスコの空を赤く染め、カウントダウンが始まる。


 3・2・1・GO!


「ビルへ衝突する前に、墜とす!」

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