第182話「ゲームが嫌いな娘」
「じゃ、とりあえず、今日は部の申請を目標に、二人確保するまでにしよう。俺が男子に声を掛けるから、お前と近藤さんは女子に……」
「ちょっと! なんで、
「じゃ、お前が一人で集めるのか?」
「……じゃ、こうするわ! アタシとヒナちゃんで女子に声を掛けるから、アンタは男子に声を掛けなさい!」
「それ、俺が言ったのと、何が違うんだよ!」
「そんな細かいこと言ってるから、アンタはモテないのよ!」
「も、モテないって、決めつけてんじゃねーよ! だいたいねー、お前というヤツは……オイ、コラッ!」
香凛は、
こうして、俺たちは食堂に居るヤツから、部員を探すことになったんだ。
フフフッ、うまくいった。
なにがって?
俺は、真面目に集めるつもりがないからさ。
なぜって?
それは、勿論、恋のライバルを増やしたくないからだよ!
あと2人なら、ヒナタちゃんたちが見つけて来るでしょ。
そして、俺とヒナタちゃんが付き合ってから、男子を入れれば良いんだ。
ハッ!
上杉が居るから気づかなかったが……、
これって、伝説のハーレム展開じゃないのか!
『ツイてないと思っていた俺だったが、中学受験を切っ掛けに運が回り始め、ゲーム部を作ったら俺以外が全員女子!? あれよあれよという間にハーレム生活』
6年間に渡る長編大作ラノベが、書けそうじゃないか!
イカン! イカンぞ、右京、贅沢は!
やはり、俺はヒナタちゃん一途でないと!
『決まった彼女が居るのに、男子部員が俺一人の所為で、毎日のように俺の取り合いに! もうこれはゲーム部じゃなくて、ハーレム部』
どういうことだ?
どう分岐しても、ハーレムになってしまう!
これは最早、宿命としか言いようが……、
ハッ!
しまった!
今は、妄想、いや、未来予想図を描いている場合ではない!
幾らなんでも、数人には声を掛けておかないと、後で何言われるか解ったモンじゃない!
とりあえずは、運動部に行きそうなガッチリ目のヤツから声を掛けていこう。
「ごめん、俺、野球部に入ろうと思ってるんだ」
「(デスヨネー!)そっか、他当たるよ」
次は、あそこに居る見るからに格闘系へ入りそうな坊主。
「あれだろ? 入学式に吠えてたヤツの?」
「そ、そうだけど……」
「悪いけど、遠慮するよ」
「そっか、(そういう断られ方もあるんだ!)解った。他を当たるよ」
よし、よし、いいぞ、この調子だ!
順調な?右京とは違い、女子チームの方は難航しているようだった。
「だから、何度も言うけど、私はゲームに興味がないのよ」
「は? 興味がない? ナニイッテルンデスカ?」
ゲームが大好きな香凛には、全く理解し難い言葉で、まるで異星人を相手にしているような感覚だった。
「私は、ゲームがキ・ラ・イ・な・の!」
「はい? あぁ、下手だから嫌いになったのね。大丈夫、アタシが教えてあげるから」
下手という発言に、勧誘されている女子は嫌悪感たっぷりに反論する。
「飽きたのよ。私より強い相手が居なくてね」
香凛は、小馬鹿にするような笑い方をした後、
「とんだ、井の中の蛙さんね。でも、良かったわね、退屈しないですむわよ。ア・タ・シが居るから」
なにやら、揉めてる気配を察知した右京は、一石二鳥とばかり、男子の勧誘を止め、香凛たちの方へやって来た。
「オイ! どうしたんだよ!」
「この子が、ゲーム嫌いだっていうのよ」
居座る理由が解らない右京は、その女子に謝罪する。
「そうか、なら無理強いは駄目だろ。ゴメンよ、他を当たるよ」
右京は、香凛と陽の手を取り、足早に立ち去ろうとするのだが、香凛はその手を強引に振り
「オイ! この子は、嫌がってるんだから……」
「そんなに強いんならさ、アタシと勝負しなさいよ!」
「嫌よ」
「アタシに負けるのが怖いの?」
「ゲームはしないって言ってるでしょ? 見るのも嫌なのよ」
「下手な言い訳ね」
「もう、いいだろ? 上杉、しつこいぞ!」
「五月蝿い! アンタは、黙ってて!」
ゲームを愛する余り、嫌いだという人間を放っておけない香凛は、自分が尊敬するゲームプレイヤーの言葉を引用する。
「一回で良いからさ、偏見なしに、コントローラ握って……」
だが、その言葉は、少女がテーブルを激しく叩いた音で掻き消された。
これ以上、話をしたくない少女は、立ち上がって、香凛を睨みつけ、
「二度と、アタシを誘わないで!」
そう言って立ち去る少女に、まだ納得のいかない香凛は、
「ちょっと、アンタ待ちなさいよ!」
「オイ、止めろ! 上杉!」
力いっぱいに振られた右手から放たれた白いボールが、一直線に少女を襲う。
だが、当たるかに見えたその瞬間、少女は振り向きざまに、それを右手で弾き返し、勢いを増したボールが香凛の頭にヒットする。
「二度と私の前に現れないでね、カエルさん」
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