第181話「付和雷同」

 究道学園の学生は、今年入学した中学1年の182名のみ。

 その内、138名が香川県出身で、残り44名が他府県の出身になっていた。


 究道学園から程近く在る学生寮は、廃業したホテルを改造したものになっていて、60名の受け入れが可能となっており、今年入学する他府県の44名、全てが受け入れられた。


 学生が住む部屋の広さは、6畳一間、エアコンとテレビ、机とベッドが完備されており、風呂とトイレは元ホテルなだけあって、男女に分かれた共同となっている。

 学園で給食が出ることから、寮での食事は、朝と夕の二食付き。

 これで、なんと月3万円という破格の値段だった。

 とはいえ、日替わりで男女2人ずつ計4名が、毎朝、風呂やトイレ、廊下や食堂の掃除をしなければならないし、毎食の食器の片付けや、服や下着などの洗濯も、学生が各自で行うことになっていた。


 寮母が用意してくれた朝食は、昨日の夕飯から察するに美味しいことは間違いないのだが、やはり、折角の美味しい食事も、一緒に食べる相手によって台無しになってしまう。

 昨夜、幸運の絶頂から真っ逆さまに堕とされた少年は、運命の神様よって与えられた試練に激しく抵抗していた。


「ゲーム部なんて、入らねー!」


「アンタね、このアタシが認めてやってんのよ!」


「はぁ? 何様だよお前!」


「上杉香凛様よ! 良く覚えておきなさい!」


「知らねーし、今後、覚えたくもないね!」


「ちょっと、近藤さん、今の聞いた?」


 香凛は、少し遅れて食堂へ現れた近藤陽こんどうひなたに、目の前の男子・加賀美右京かがみうきょうが、如何に酷い人間かを訴えた。

 来たばかりで、話の内容も知らないのに、急に話を振られて戸惑う陽。

 右京は、変な判決が下される前に、自己弁護へと入る。


「違うんだ、近藤さん。コイツが、しつこくゲーム部に入れようとするから……」


 陽は、右京の自己弁護よりも、その部の方が気になり、


「ゲーム部って、あれ? インベイドの?」


「そうだよ、ヒナちゃんも入らない?」


 こ、コイツ、いきなり近藤さんに渾名あだなを!


「うーん? でも、私、一回しかやったことないの。ほら、あれって凄い並ぶからさ」


「大丈夫、このアタシが教えるし、部活なら並ぶ必要も無いのよ! それに、ドライバーでなくても、オペレーターってのもあるし、なんなら、マネージャーとかでもいいよ!」


 近藤さんのマネージャーかぁ……、


 右京くん、おつかれさま!

 とか笑顔で言われて、

 飲み物とか、タオルとか渡されてたり?

 いつも、ありがとう。近藤さん……

 いや、ここは『ヒナちゃん』か『ヒナタちゃん』だな!


 そんな妄想が加速する右京に、急ブレーキが掛かる。


「ウッキーも入るんだし、ヒナちゃんも入ってよ」


「ウッキーって呼ぶな!」


「え? なんでよ!」


「あ、確か、ウッチャンなんだよね?」


「うん、そうだよ。ありがとう、覚えてくれたんだね!」


 覚えてくれたということは、もしかして、脈有りかぁ!?


「えー、ウッチャン?」


「なんだよ、他人ひとの渾名にケチつけんのかよ! 二度とウッキーって呼ぶな!」


「え? じゃ、呼ばないから入部決定ね」


「はぁ? なんでそうなるんだよ!」


「これで3人だから、あと2人だ!」


「おい、入るって決めた訳じゃないぞ! ねぇ、近藤さん?」


「どうしよーかな?」


 え? どうしようかな?


「入って嫌だったら、辞めてもいいんだからさ、入ってよヒナちゃん」


「そう言ってくれるなら……」


「えッ! 入るの!?」


「やったー! 決まりね!」


 だったら、このまま流れに乗っても、いいんじゃないか?


「ありがとう。じゃ、あと3人かぁ」


「しょ、しょうがねーなぁー」


「え? アンタ、入るの?」


「か、可哀想だから入ってやるよ。その代わり、嫌になったら辞めるからな! あと、二度とウッキーって呼ぶなよ!」


「あと二人かぁ……」


 そう言って、香凛が白いボールを握り締め、食堂にいる生徒を物色し始めたのを見て、右京が慌てて、それを握る右腕を掴んだ。


「なによ!」


「みんな、まだ食ってるだろうが!」


「判ったわよ、待つわよ」


「そもそも、それ投げるのヤメロ!」


「なんでよ! これは、入部テストなのよ!」


「あと二人なら、部にしてから、ゲームでテストしろよ。とりあえず、あと二人、俺たちみたいに、辞めてもいいからで誘うんだよ」


「イチイチ五月蝿いわねー、平部員の癖に」


「平部員?」


「そうよ、アタシが部長。ヒナちゃんが副部長、アンタが平!」


「え! 私、マネージャーじゃないの!?」


 ヒナタちゃん、おつかれさま!

 と、タオルを差し出す俺……、

 あれ? 意外と悪くない。

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