第180話「Enigma」

 桃李・新宿ゲーム部の順位決定方式には、3種類ある。


 1.勝ち上がり

 2.リーグ戦

 3.指名制による5ごさき


 対戦となる戦場は、全階級共通で、決着をつけ易くするために、縦横高さ200mの立方体になっており、その内部の空間設定は、街・海上・山岳など、ランダムで選定される。

 200mの立方体とはいえ、決着がつかないこともあるのだが、その場合、挑戦者(下位者)の敗退となる。



 1つ目の『勝ち上がり』とは、BからF級の者が対象で、その勝敗によって順位を入れ替えるという至って単純明快な方式だ。


 まず、入部希望者とF級15位が、F級14位とF級13位が……といった具合に、B級3位とB級2位までが対戦を行い、その勝敗によって入れ替えを行う。

 次に、B級1位とB級2位が……F級14位とF級15位が戦い、その勝敗によって入れ替えを行う。

 ここまでが1セットになっていて、4セット毎に休憩が5分間与えられ、これを終了時間まで繰り返す。


 休憩時間が有るには有るのだが、少し厳しい設定になっていて、その間に、トイレや水分補給を済ませておかなければならないのだが、1秒でも遅れると不戦敗となり、また、試合中に具合を悪くして休憩する場合においても、不戦敗となる。

 更には、病欠に関しても不戦敗となり、1日休めば間違いなく、退部まで追いやられていた。

 これに関して、厳しいという意見も多かったが「無理してでも、部活に来い」というのではなく、実力があるなら「1日で元の順位まで戻れるだろうから、休め」というのがゲーム部としての公式発表であるが、あんに「実力無き者は去れ」と言っているのである。


 F級15位、つまり、最下位の者が入部希望者に敗れた場合、退部を言い渡され、入部希望者が敗れた場合は、その日の挑戦権を失う。

 勿論、翌日になれば、敗退した入部希望者も、退部になった者も改めて、入部の挑戦できる。



 2つ目の方式は、A級の15名のみが対象の『リーグ戦』によるポイントを争う。

 勝者は2ポイント獲得し、引き分けの場合は、上位者が1ポイント獲得する方式になっている。

 総当りの総合得点により、順位を振り分け、同点の場合、順位の高い者が優先される。

 15名による総当りとなる為、その総数は105試合となり、まず、休日でない限り、1日では終わらない。

 平日は、月曜にリーグ戦が始まり、土曜に終わるを繰り返していた。


「なるほど~。A級に挑戦するには、A級のリーグ戦が終わるまで待たないとイケナイんですね」


「そうだよ。それまで、B級1位を維持できないようであれば、A級15位に挑戦する資格なし、なんだそうだ」


「リーグ戦って、いつ終わるんです?」


「今は、春休みだから2日毎になっていて、今日、終わったばかりだから、明後日だね」


「そうですか……15人×5級の、1試合5分くらいだから、待ち時間とか合わせると……8時間越しちゃいそうだなぁ。じゃ、またにします。教えてくれて、ありがとう」


 本当は、Aすら要らないんだろうなぁ。

 でも、ゲーム部は人気だから、入部希望者の相手をBからFまでにさせて、その道程みちのりが遠いことで、諦めさせる効果もあるってところかな?


 新宿には大行列ができるという噂を聞いていた沖田は、素直に4月まで待ってたら、入学者たちの長蛇に巻き込まれ兼ねないと、春休みの内にSまで駆け上がろうと考えていた。

 しかし、列に並んでいた在校生から詳しい説明を聞き、BからAへ上がるのにタイムラグがあることを知ると、1時間ほど並んでいたのだが、惜し気もなく列から抜け、帰宅することにした。


 帰りの電車に揺られながら、木更津きさらずから通うことも、否定的になっていた。


「やっぱ、片道2時間はヤだなぁ。学校に近いインベイドのマンションに空きがないか、探してみるか……師匠、EN貸してくれるかな?」


 2041年現在、プロの数が増えたこともあるが、それよりも、ENによるeコマース(電子商取引)が爆発的な広がりを見せていた。

 歌を販売する者、漫画や小説を販売する者、ゲーム内で使える衣装などを販売する者、また、デジタルデータに限らず、色々な商品の取引を行っていた為、ゲームのプロでなくともENを稼ぐ者が多数現れていた。

 インベイド社は、その人々に、ENで豊かに生活できる空間を与える都市開発も進めており、沖田が言ったマンションも、その一部だった。


 沖田は、プロとして食べていける腕を持っていたのだが、師から禁じられており、未だに1ENも所持していないのである。

 だが、生活の殆どは、その師が面倒をみているというよりは、出世払いという形で、無利子で貸しているのであった。


「し、師匠、お願いが……」


「なんだ?」


「練習時間を増やしたいと思いまして、新宿の方で生活がしたいなぁと……」


「ENを貸して欲しいのか?」


「はい!」


「それは構わないが、お前プロじゃないのに、どうやって筐体なしで練習するんだ?」


 やっぱ、行く場所、間違えたよ……。


 二日後、眠い目を擦り、始発に乗って新宿へと向かい、部活が始まる20分前に着いた。

 既に、数人の入部希望者は並んでいたが、数えられる程度だった為、沖田は参戦を決意し、列に並ぶ。


「4月に木更津きさらずから編入する沖田です。希望は……なんでもやれますが、とりあえず、アタッカーで」


 沖田は、参戦するとみるみる順位を上げ、あっという間にB級1位になり、Aリーグが終わるまで、B級1位の座を待った。


「今日中にとは思ってたけど、呆気なかったなぁ。それにしても、B級とはいえ、毎年、優勝してる学校のレベルがこの程度とはね。Aなら、もっと楽しめんのかな?」


 Aリーグが終了し、入れ替え戦が行われるも、あっさりと沖田が勝利して、この日を終える。

 

 更に2日後、沖田はAリーグを全勝で制覇してみせた。

 未だかつて、ストレートでA級を制覇した者が居なかった為、注目を浴びる。


 チョット、目立ち過ぎたかな?


 とはいえ、再び、リーグ戦をする気にもなれず、あっさりとS級に昇格する。



 3つ目の方式である『指名制による5ごさき』とは、S級者のみが対象で、毎週日曜日に、1位以外が戦いたい上位者を指名し、先に5勝した者が下位者であった場合、その順位を入れ替えるというもの。

 仮に、15位と1位が勝負して、15位が勝てば1位になり、1位だった者が15位となる。


 S級の順位決定が週に一度なのは、そもそも、サバイバルゲーム世界大会に出場するためのレギュラー選手であり、普段はチーム戦を主に練習しているからだ。


「神谷さんで、お願いします」


「おい、ルーキー(15位)! 運良くストレートで此処まで来たからって、調子に乗るなよ!」


「杉田! ルールなんだ、構わん」


 決まりではないものの、暗黙の了解として、一つ上を指名するのが常識になっていた。

 過去に、一つ二つ飛ばす者が居たこともあったが、いきなり1位というのは過去に例が無く、S級15位は、A級1位と対戦し落ちる可能性もあるため、少しでも安全圏に行きたいと、当然、14位を指名すると思われていた。 


 沖田は、スキップしながら筐体へ向かい乗り込むと、モニタに現れた戦闘開始ボタンを押す。


「さて、サーベルタイガーの再来が、どんなモンか見せてもらいましょうか?」


 GTX1000を相手にするのは、テストでも初めてで、噂に聞く、その速さに驚きはしたが、サーベルタイガーやシリアルキラーの戦闘映像と比較すると、明らかに劣って見えた。


「ダウングレード? それでも、速いけど……」


 神谷の射撃を器用にけながら、沖田も応戦する。


「ガッカリだなぁ。その程度で、よくそいつに乗ることを決めましたね、神谷さん。ボクなら恥ずかしくて乗れませんよ。だけど、今は、勝たせてあげますよ。今はね」



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[補足]


さて、タイトルのEnigma《エニグマ》といえば、ナチスの暗号機であったり、ジョジョのアニメに使われてた「Modern Crusaders」が有名だったりしますが、


謎という意味になります。


沖田は、なぜ新宿に来たのか?

沖田の師匠は、誰なのか?

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