第168話「Extinvad」

 2025年、東儀雅率いる桃李成蹊女学院が下馬評を覆し、サバイバルゲーム世界大会で優勝すると、雅の人気と共に、GTWの登録者数は10億を突破する。

 内々に決まったことではあったのだが、雅たちが優勝したことで大義名分を得たインベイド社は、雅をインベイド社の広告塔として採用、また、インベイド社に留まらず、インベイド計画の関連企業のCMにも多く出演することになった。


 この年、多くの経済アナリストがゲーム内通貨ENに注目し「自国の通貨にするよりも、逆にENを購入した方が、インベイド社の関連企業でも使えて、経済的だ」と発言したことにより、電子マネーのように、購入というよりもチャージするといった感覚で、プロ以外にも広まり始めた。


 2026年、ルイス・グラナドにだけ実装されていたAIオペレーターシステムを一般に公開。

 それに伴い、人気声優ならびに俳優、また、遺族の了承を得て、既に亡くなった声優の声も選べるようになった。

 声優に支払われる報酬は歩合制ぶあいせいで、プレイヤーが声の使用料金を支払う形を取っている。

 その料金は、1日2EN(声優1EN:インベイド社1EN)と格安であるものの、仮に1億人が使用すれば、たった1日で1億ENが手に入る。

 声優の設定は、1日からの設定ではなく、基本365日になっており、プレイヤーが変更するか、使用停止を行わないと、プレイしなくとも料金が発生する。

 とはいえ、プレイヤーが支払う料金は年間730EN、仮にプロが1日12時間プレイし、そのプレイ毎に声優を変更したとしても、年間10万ENを超えることは無いと予測されていた。

 机上の計算では超えるのだが、超えない根拠として、もし、そんなペースでゲームオーバーを繰り返していたなら、その者はプロで居られなくなり、アマチュアに落ちれば1日のプレイ時間は最大30分になってしまうからである。


 そして、この年の9月には、更にこのコンテンツを盛り上げる『声優登録システム』が登場する。


 ある一定の言葉をスマートフォン、プロの場合は筐体内で発言することによって、AIオペレーターの声として登録することができ、それによって、素人でも使用されれば、収入を得られるようになった。

 さらに、ゴーゴル社制のスマートフォンやスマートスピーカー、カーナビゲーションなど、AIアシスタントの声としての併用も可能となっており、1ENも所持しない(ゲームをプレイしない)人でも、IDの登録と自国通貨をENに替えることで、使用を可能にした。


 余談ではあるが、ある国の人気俳優が「恋人の声をオペレーターとして使っている」と発言したことで、多くのカップルたちが、それを真似することになるのだが、一部の間で「付き合っているなら、そうするのが当然」といった『恋人からの強制』が問題になっていた。



 2027年、雅が高校を卒業するタイミングで、ラグナことジョニー・ラングフォードも表舞台に立ち、GTWの登録者数は15億を突破、プロの数も16万人となった。

 とはいえ、5万位以下のプロの収入では、満足に生活できるほどではないので、別で専業もしくは副業をしたり、配信者として収入を得ている者が多くなる。


 ホテル女王である鈴木米子は、このタイミングで亡き息子・たけしが考えた計画の第二段階へと移行する。

 それは、地方再生を目的とした計画で「第一段階では都市部にインベイドの施設を建設するが、その後、利用した人々は『この施設だけで生活の殆どが事足りる』と考えるようになるだろうから、どんなさびれた地方でもプレイヤーに受け入れられるだろうし、また、地方側にしても、住民を多く引き連れたショッピングモールが来るのを拒む理由も無いだろう」と、計画ノートにつづられていた。

 しかし、中には「平和で静かな村だったのに、犯罪が増える」と、誇大妄想する者たちも現れ反対運動を起こすこともあったが、そもそも、そんな場所に建ててやる義理もないので、反対運動を抑えられない地域は建設が見送られ、そうなってしまった村は、プレイしたい若者たちから見放される事となった。


 たけしは、ショッピングモールを作るというより、街を作ることを目指していたので、米子はそれも踏まえた上で、桃李成蹊女学院に幼稚園から大学までと男女共学を提案し、それが受け入れられると、各地に同校の地方校を隣接させた。

 これにより、2028年度から桃李成蹊女学院は、桃李成蹊学院と名称を変える。


 GTWのプレイヤーたちは、家族が居ても、何処に居ても、変わらずプレイ出来ることから、地方独特の店舗や景色などを楽しむ為に毎月のように引っ越しする者や、旅行気分で海外を巡る者も多くなっていった。



 2028年、インベイド会員(GTWのID登録者)によるeコマース(電子商取引)を開始する。

 これによって、インベイドの会員であれば、商品ページに登録して、何でも販売することが可能になり、玩具、家電、書籍、衣料品、映像や音楽などのデジタルデータなど、多岐に渡る商品が販売される。

 もちろん、国によっては法律違反になるような薬物などは、IDから国を識別し、販売も購入も出来ないようになっている。

 また、年齢制限があるアダルト商品なども、出品が可能であるものの、薬物と同様にIDから年齢を識別し、対象年齢以下であれば、それを登録することも、購入することも、閲覧することも出来なくされていた。


 ユーザーのeコマース参加にあたって、個人情報は非公開にされており、誰が何を売ったのか、誰が何を買ったのかを知ることは出来ないものの、売り手にはインベイドの個人IDとは別に、販売用のIDが設けられ、評価を付けられるようになっていた。

 もしも、ユーザーが販売登録および購入において、インベイド社との規約に違反すれば、追放という重い罰が待っていた。


 発送に関しては、インベイド計画の使徒の一人である物流王フレディー・デービスが、一手に引き受けている。

 当然のことながら、独占禁止法に掛からないように、他の物流企業の参加も募ったが、送料がENで支払われるため、自国の通貨換金の際に、インベイド社に手数料を取られるわ、自国での所得税も掛かるわで、余計に送料が掛かってしまう為、何処も手出しが出来なかった。


 使徒および関連の企業全てにおいて、全て給与はENになっており、したがってフレディーの会社も換金の必要が無い為、他の企業のように困ることが無かった。


 プロゲーマーにしても、インベイド計画の関連企業にしても、それぞれの国で税を払ってはいたのだが、ENが国際決済通貨に名を連ねたことで、問題視され始める。



 インベイド計画が着々と進む一方で、その光が大きくなればなるほど、暗い影も色を濃くしていく。


 ゲームが生まれた時代から、少なからず偏見を持つ者は居た。

 ゲームを愛する者でも「長時間プレイをすれば、目も悪くなるだろうし、勉強そっちのけでずっと遊んでいたら、頭も悪くなるだろう」と、その部分に関しては理解できることもある。

 しかし、凶暴になり易いであるとか、脳が破壊され痴呆が進むであるとか、犯罪や戦争が無くならないのはゲームの所為だとまで、最早、偏見というより虚言癖ともいえる言動が目立つようになってきていた。


 あるテレビ局で『ゲームの危険性について』の討論会に、ラルフ・メイフィールドが参加する。


「まるで、ゲームが生まれる前は、イジメも、DVも、犯罪も、戦争も無かったかのように仰っているが、貴方たちは歴史を学んで来なかったのか?」


「そんなことを言ってるんじゃない! 犯罪が増えると言ってるんだ!」


「人口が増えれば、犯罪も比例して増える」


「ゲームが増やしてるんだ!」


「その根拠は?」


「実際に、犯罪件数は増えているじゃないか!」


「増えている? ちゃんと調べましたか?」


「他人に言う割りに、アンタ自身が調べてないのか? FBI(米連邦捜査局)が統計を出してるだろうが!」


 ラルフは、大きくため息を吐き、質問を続ける。


「その内、ゲームが原因なのは何件で、どのくらい増えていってるんだ?」


「……」


「どうした? 調べたんだろ?」


「そんな細かいこと……」


「はぁ? ろくに調べもしないで『増えた増えた』と、よく騒げるな!」


「……」


「いいか? 我々が、2025年にプロ化に着手して以降、ゲームが原因による犯罪は、世界規模で減っている。それは何故か? そもそも、犯罪に手を染めてしまう最も多い原因が、貧困だからだ! 是正すべきは、そこだろ? 違うか? そういう意味において我々は、社会に貢献しているといっても過言ではない」


「お、お前のところには、シリアルキラー(連続殺人犯)を英雄視させている!」


「あれは、ただの渾名あだなだ。アンタこそ、リアルとゲームの区別が付かないのか?」


「なにを馬鹿なことを!」


「だって、そうだろ? 俺たちは区別が付くんだ。ウチのユーザーで、連続殺人犯シリアルキラーが出てないだろ?」


「こ、これから、出ないとも限らないじゃないか!」


「あぁ、そうだな。区別が付かないアンタのような人間には、ゲームをして欲しくないな。自分が罪を犯すかもしれないから、ゲームを禁止にしてくれって言ってるんだろ?」


 この時のやり込めてしまったことが原因だったのか、インベイド社を目のかたきにする過激な組織が生まれてしまう。


 Extinvad


 テレビゲームによって犯罪が増え、非道徳な世界になったと主張するアンチゲームを掲げる団体『Exterminating the invaders』の略称で、その略称自体でも絶滅を意味し、世界各地で過激な抗議デモや、暴動の煽動せんどうなども行っていた。

 ゲームよりも、ENの国際決済通貨や、経済の中心がインベイド社になることを恐れた国や企業家たちが、その活動を支援していたことは言うまでも無い。

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