第167話「一番になって」

「ちょっと伸びたかも!」


「どうかな?」


 今年こそは「パパを倒したい」と、毎日のようにGTW筐体へ乗り込むのだが、エレメンタリースクール(小学校)に通い始めたばかりの真凰まおには、まだまだ操縦席は大き過ぎて、その手足は届かない。


「パパ、ラルさんに、小さいの作ってって、言っといて!」


「あぁ、言っとくよ……」


 実は、親馬鹿をこじらせた刀真が、幼児用筐体を本社で提案したことがあったのだが「ガキなんて、ドンドン成長するんだ。その度に、変化させる必要が出てくる。10歳くらいで乗れるようになるんだから、それまで我慢するんだな」と、既にラルフから断られていた。


「じゃあさ、パパのお膝に乗って、パパがするの見る?」


「ヤダ!」


 ちょっと前までは、それでもキャッキャと楽しんでいたのだが、やはりプレイがしたいようなので、


「あ、そうだ。昔のゲームしてみようか?」


「昔のゲーム?」


「そうだよ、昔のゲームだって面白いんだぞ」


 押入れの奥から古いテレビゲームを出して来て、対戦型のパズルゲームで遊ぶまでは良かったのだが、負けると悔しくて泣いてしまうし、わざと負けると、


「真凰のこと好きだからって、わざと負けちゃダメ!」と怒られる。


 飛鳥から聞いた「パパ、ママと結婚したくって、わざと負けたのよ」という風評被害が悪影響を及ぼしており、簡単に勝ったと喜んでくれない。

 ならばと、ギリギリのラインで負けてみたのだが、どうやら真凰には、それが解ってしまうようで「もう、本気でやって!」と、おこられる。

 仕方なく本気でやると、それはそれは大人気おとなげない結果を招く訳で、呆気なく勝って、号泣されるのだった。


 どうすりゃ、いいんだよ……


「も、もう、やめよっか?」


「ヤダ!」


 誰に似たのか、負けず嫌いは人一倍強く、このままでは「勝つまで止めない」と言い兼ねない。

 だからといって、高校時代の飛鳥に似て「教わりたくない派」という厄介な性格でもあった。

 そこで刀真は、教えるであったり、勝ち方などという言葉を使わないように気を使いながら、ゲームのコツを教える。


「真凰、いいかい? このゲームには、重要なポイントがあるんだ」


「ポイント?」


「真凰は、落ちてきてから、何処に置こうか決めてるだろ?」


「うん」


「でも、パパは此処、真ん中にある次ぎに出るヤツが見えた時に、それを何処に置こうか、もう決めちゃってるんだよ。そうすると、パパは真凰より、早く置けるって訳さ」


「ズルイ!」


 本当なら、ズルイって言葉を否定したいところだが……、


「な、ズルイだろ? 知ってると知らないでは、その位、差が出来ちゃうんだよ」


「他には、何があるの?」


 よしよし、いいぞ。


 色々な積み方、消し方のタイミングなどを教えると、真凰はドンドン吸収して行き、呆気なく負けることはなくなり、長く続けられるようになった。


「あ! 負けたー!!」


「凄いよ、真凰! 今日だけで、こんなに長く戦えるようになってるって、凄いことだよ!」


「ホントに?」


「本当さ。それだけ、真凰が上手くなってるってことだよ」


「次は、負けないからね!」


「よし、来い」


 そして、遊び続けること2時間。


「今のは?」


「手を抜いてないよ、真凰の勝ちだ」


「やったー! パパに勝ったーッ!」


 その声に驚いて、台所で料理していた飛鳥がリビングに入ってきた。


「えッ!? ホントに? 手を抜いたんじゃないの?」


「抜いてないよ、ホントに負けた。真凰まおは、才能あるよ」


 エヘヘと褒められたことを恥ずかしそうにしながらも、嬉しそうに笑う。

 飛鳥も、嬉しそうに真凰の頭を撫でながら、


「アタシたちの血を引き継いだのね」


「いつか、本当にGTWでパパを倒して、一位になるんじゃないかな?」


「パパ、それまで誰にも負けちゃダメだよ!」


「え! ママにも負けちゃダメなの?」


「ママにも!」


「はい、頑張ります!」



 初年度の2025年は、スタートが遅かったこともあり、ヨハンにポイントを離され過ぎていたこともあって、刀真が2位、飛鳥は5位に留まった。

 とはいえ、そもそも順位に興味の無かった刀真と飛鳥は、自分たちの対戦こそがメインであって、順位はオマケと考えていたため、翌2026年も最強と言われながら、刀真は再び2位、飛鳥は6位だった。


 そんな二人の気持ちに変化が起きたのは、飛鳥の妊娠による産休。

 飛鳥は、大きなお腹を擦りながら、


「ねぇ、一番になって!」


「え? いや、お前のお腹もそんなだし、俺も協力したいからさ、今年はチョット休もうかと……」


「ダメ。この子にね、パパが世界で一番だって、自慢したいの」


「解った。パパが世界で一番だって、証明してやるよ」


 こうして、2035年の現在に至るまで、刀真は飛鳥との約束を果たす。

 勿論、飛鳥との対戦も欠かさず行っており、その通算対戦回数は、73782回。

 その内、刀真の勝ち数は46136回で、飛鳥の勝ち数は27646回だった。


 虎塚飛鳥こづかあすか、そのプレイスタイルから、シリアルキラー(連続殺人鬼)と名付けられ、恐れられた最凶のプレイヤー、享年27歳。

 サーベルタイガーこと虎塚刀真こづかとうま、その生涯を閉じるまでGTW界で最強であり続けた、享年34歳。


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