第160話「First Contact」

 毎年、毎年、優秀なヤツは来るんだが……、

 どいつもこいつも、退屈なヤツばかりだ。


 そう考えたローレンスは、広く優秀な人材を募集するため、自社のWEBサイトに、入社試験を出した。


 これが解けたら、本来の入社試験をすっ飛ばして、次は最終の社長面接だ。

 年齢、性別、学歴、国籍、人種も問わない、アメリカに住んでいなくてもいい。

 ゴーゴル社、社長ローレンス・ミハイロフ。



「お前、答えを教えてもらったろ?」


「いえ、自力で導き出しました!」


「自力で?」


「はい!」


「俺が流した、答えなのにか?」


「え……」


 こんなクイズを出せば、余計な輩が解いて、自慢気にそれをネットに晒すことは、容易に想像できた。

 そこでローレンスは、それを自ら装い、とある電子掲示板に答えと導き方を書き込んだのである。

 ローレンスは、大粒の汗を掻き、震え出した受験者をさらに追い込む。


「一字一句、改行まで同じ、まるでコピペしたようにしか見えないコレを導き出したと? では、お前にチャンスをやる。これを導き出す方法は、一つじゃない。他の方法を答えてみろ」


 だが、言葉を失った受験者は、頭を振り、涙を流しながら、社長室から立ち去った。


 全く、馬鹿か!

 それで入れたところで、どうする?

 社内競争に負け、辞めるのがオチじゃねーか。

 そんなことも解らず、ノコノコ来てんじゃねーよ!

 せめて、図太さでもありゃー、営業職にでもと思ったんだが、

 全く、どいつもこいつも……。


「やはり、本当に優秀なヤツは、起業するか……」


 そうボヤいた後に入って来たのは、Tシャツに軽めのジャケットを羽織り、ジーンズとスニーカー姿の学生らしき男だった。


「お前、スーツは持ってないのか?」


 すると、受験者は笑って、こう言い返す。


「年齢、性別、学歴、国籍、人種も問わないのに、服装は問われるのか?」


 ローレンスは、噴出すように笑い、その受験者の理屈を受け入れる。


「お前の言う通りだ。いいだろう、その服装は認めてやる。では、答えを聞こうか?」


 やっと、面白いヤツが現れたな。

 生意気な餓鬼だが、悪くない、馬鹿でも雇いたい気分だ。


 だが、この受験者も、自分が流した答えを口にする。


 はぁー、コイツもか……。


「で、お前は、自分でそれを導き出したのか?」


 それに対し、受験者は質問を質問で返す。


「アンタ、ゲーム好きだろ?」


「ん? それがなんだ? 答えになってないぞ」


「いいや、答えになってるんだよ。この答えは、ネットに出てたぜ。アンタが流したんだろ?」


「どうして、そう思った?」


「この答えには、暗号が隠されていた。『馬鹿は来るな』ってな。どうだ? 何人か、馬鹿は現れたか?」


 クックックッ、そっちに気づくとはな!

 やるじゃねーか、餓鬼!


「よく解ったな」


「まぁ、優秀なんでね。俺の質問に、未だ答えて、もらってないんだが?」


「あぁ、馬鹿は数え切れないくらい現れたし、お前の言う通り、俺はゲームが好きだ。なんだ? ウチでゲームでも作りたいのか?」


「いいや、作るとしたら、検索エンジンだな」


 全世界が認めたウチの検索エンジンを……コイツ!


「ウチのエンジンに、何が足らない?」


「曖昧さだ」


「曖昧? 正確でなくてか?」


「あぁ。人の記憶ってヤツは、曖昧なモンだ。アンタも身に覚え無いか? 歌詞の一部は思い出せるのに、タイトルが思い出せなかったり、その記憶していた言葉でさえも、合っているかどうか定かでなかったり……」


「言わんとしてることは解る。だが、そんな膨大なデータを……」


「できりゃ、誰も他の検索エンジンを使わなくなる。独占だぜ?」


「夢は幾らでも語れる! お前の発想には、現実味が無い!」


「そうか? じゃ、ヒントをやるよ」


「ヒントだと?」


「電力コストだ」


 電力コスト……ウチが、一番に抱えてる問題じゃねーか!

 つまり、コイツは電力コストを削れば、その分、サーバーが見込めるって言いたいんだな。


「あぁ、忘れてた。そろそろ、俺が導き出した答えを言っても、いいかな?」


「いや、構わん。それが正しかろうが、間違いであろうが、もう関係ない。合格だ!」


「合格か……」


「なんだ? 入るだけじゃ不服か? 役員のポストでも、欲しいのか?」


「悪いな、俺は入る気はないんだ」


「なんだとーッ!」


 ローレンスは、力いっぱいデスクを叩いて、立ち上がる。


「お前は、此処へ何しに来んだ!」


「今日は、ただの挨拶だよ」


「挨拶?」


「こうでもしないと、大企業の社長であるアンタに会えないと思ったからね」


「どういう意味だ?」


「俺は、いずれ世界一位の企業家になってみせる」


「俺を抜いてか?」


「そうだ」


「なんだ? 宣戦布告でもしに来たのか?」


「いや、違う。ローレンス・ミハイロフ、俺と組まないか?」


「既に世界一位の俺が、お前と組むメリットが有るのか?」


「あぁ、さらに高みへ連れて行ってやるよ」


「随分と生意気な餓鬼だな。お前みたいな餓鬼、嫌いじゃないが、俺と組みたきゃ、それなりに成ってから来い」


 すると生意気な餓鬼は厭らしく笑って、席から立ちあがり、退席する。


「おい、もういいのか?」


「あぁ、アンタとの次のアポイントは、今取れたからな。ローレンス、次に会う時は、世界征服の話でもしようぜ!」


「待て、お前の名は?」


 だが、クソ生意気な学生は、名乗ることも、振り返りもせず、後ろ向きに手を振って、部屋を出て行った。

 ローレンスは、内線ボタンを押し、秘書を呼び出す。


「ナンシー、今のは誰だ?」


「え? 社長、お忘れですか? 経歴は問わないから、資料も要らないって……」


「しまったー、そうだった……」


 ローレンスは、頭を抱えながら、雪崩落ちるように椅子へ座り、天井を仰いで、経歴書を出させなかったことを後悔したが、


「いや、いずれ判るか」と、呟いた。


 全く……優秀なヤツほど、起業する。


 これが、第一使徒ラルフ・メイフィールドと、第四使徒ローレンス・ミハイロフのファーストコンタクトだった。


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