第159話「第三使徒」
――ボクも、一緒に夢を掴みたかった。
物心ついた時から、勉強勉強の毎日で、ボクにそれを拒否する権利はなかったんだ。
学校から帰っても、寝る時間まで家庭教師に付き添われ、寝る以外の時間は勉強ばかりだった。
学校のクラスメイトたちは、いつも楽しそうに、ゲームやテレビの話をしていて、その輪に入りたかったが、何一つ知らないボクの休憩時間は、校庭を眺めることだったんだ。
でも、やっぱり寂しから、ボクは「ゲームがしてみたい」と、ママにお願いしてみたんだ。
だけど、ママは馬鹿にしたように「貴方に、ゲームなんて必要ないわ!」って言った。
「でも、ボク……学校でいつも独りなんだ、友達が欲しいんだよ」
そう言うと、ママは鼻で笑って、
「今の貴方に、友達なんて要らないわ! 友達は、東大に入ってから作りなさい」
その言葉にショックを受けたボクは、急に息が苦しくなって、世界がどんどん狭くなり、真っ暗になった。
次に目が覚めたら、ボクは病院のベッドで寝かされていて、そして、ママは優しくなっていた。
ママは、ボロボロと涙を流し、ボクに「ごめんなさい」を繰り返した。
なんのことかよく解らないボクは、ママに喜んでもらおうと、
「ボク、帰って勉強するよ」って言ったんだけど、
「いいの、
それから、ボクは禁止されてたゲームやテレビを見れるようになり、友達も出来るようになった。
ある時、ネットの友達が何やら作戦のような話をしていたので、チャットウインドウを開き、キーボードを叩いて聞いてみた。
『なに、そのインベイド計画って!』
そして、その全容を聞いて、ボクはワクワクが止まらなかった。
『ねぇ、ボクも混ぜてよ! ボクも役に立つように、頑張るからさ!』
この時、ボクはホテル女王の息子だとは言わなかった。
ボクは、ボク自身の力で、友達の、仲間の、役に立ちたかったからだ。
『いいぜ、KEN。一緒に世界を征服してやろうぜ!』
『ありがとう、ラルフ!』
それから、一所懸命に勉強した。
東大には入れなかったけど、そこそこの大学に入学することも出来た。
それから、ボクたちは色々な計画を練って、その内、ボクは自分が出来そうなことを思いつく。
「あのさ、ラルフとタイガーはゲーム作るんだろ? ボクは違う角度から、インベイド計画をサポートすることにするよ」
「え? 違う角度? なにすんだよ、KEN」
「今は、まだ内緒だよ」
ボクは、ノートいっぱいに『インベイド計画』が上手く進むような、土地開発構想を練った。
そして、その為に色々な資格も取った。
「ママ、ボクね。ママの跡を継いでホテル王に成りたいんだ。でも、今のボクじゃ、まだまだだからさ。いっぱい修行して、いつかママを越えてみせるよ」
そう言うと、ママは大粒の涙を流して喜び、抱きしめてくれた。
「鈴木君、あの土地どうなった?」
「部長、なんとか買収できそうです」
「そうか! よくやった! オリンピックまでには、なんとかなりそうだな」
――数日後。
「なんで、気づかなかったんだーッ!」
「すみません、責任を取って辞めさせて……」
「ふざけるな! お前の首一つで、60億が返ってくんのかよ! それとも何か、お前の母ちゃんが返してくれんのか?」
「え……」
「知らないとでも思ったか? お前みたいな二流が、実力でウチに入れたとでも思ったのか? これだから、ボンボンは……だから俺は、コイツみたいなのを入れるのは、反対だったんだよ!」
その日、夕陽が沈むよりも早く、鈴木健の身は地へと落下する。
「ラルフ、タイガー……ボクも、ボクも、君たちと一緒に夢を掴みたかった……」
愛する一人息子を失った苦しみで、鈴木米子は絶望の淵に立っていた。
仕事をする気も、食事さえ取る気にもなれなくて、ただただ、息子の部屋で泣き崩れる毎日だった。
――ママ。
幻聴だったのか、息子に呼ばれたような気がして振り返れば、机の上に置かれた表紙に『インベイド計画』と書かれたノートを発見する。
そこには、斬新なホテル計画や、その為のアイディア、必要とされそうな資格など、息子の夢がいっぱい詰まっていた。
初めは、息子の死を息子の仲間に伝えるために、息子のPCを起動したのだが、米子は息子が夢中になったゲームが、どんなものなのか知りたくなった。
息子を演じて、ラルフやタイガーと共に、毎日ゲームを楽しんだ。
日に日に、騙しているような感覚にもなり、罪悪感が押し寄せるのだが、伝えることが出来ないでいた。
いつか、言わないと……、
「なぁ、タイガー。KENのヤツ、ちょっと可笑しくねーか?」
「お前も気づいたか」
「いや、気づくだろ! 下手だし、喋んねーし」
「だけどな、待ってやってくれないか? 彼女が言い出すまで」
「彼女? どういうことだよ」
「この前、日本であった地面師事件って、知ってるか?」
「あぁ、あの60億も詐欺られたやつだろ? それと何の関係が……」
「おそらく、それで自殺したのが……」
「ちょ、ちょっと待て! どういうことだ!」
「実はな、俺、KENの本名知ってたんだよ」
「同姓同名かもしれないだろ!」
「俺も、そう願ってたんだ……だが、ログインしてきたのは……」
「いやいやいや、俺は信じねーぞ! ブランクだ、きっと、ブランクで下手に……」
「ラルフ!」
ラルフは、激しく部屋の壁を殴った。
「ラルフ、お前に頼みがある」
「言うな! 言わなくても解ってる! 俺に任せろ!」
日本の警察のサーバーをハッキングしたラルフは、そこから犯人の顔写真を入手すると、事件当日から現在に至るまで、全世界の空港にある監視カメラデータを引き抜き、顔認識システムを利用して、一致する人物を探し見つけ出した。
犯人が捕まったことで、踏ん切りがついた米子は、ようやく、息子が亡くなったことをラルフたちに伝える。
「ごめんなさい、今まで黙ってて……」
「謝らないでください。息子さんのお墓参りがしたいのですが、案内してもらえますか?」
「ありがとう、喜んで案内するわ」
「お、俺も行くよ!」
「え!? アメリカから?」
「もちろん、仲間ですもん」
息子の墓前で、息子が描いた夢を彼らに差し出した。
「なるほど、ゲーム機のレンタル展開で、置けない者のサポートとしてホテルをか……すげーじゃねーか、KEN。ありがとう、絶対にお前の夢も、実現してやる!」
「そうだ、KEN。お前は、いつまでも、俺たちの仲間だ」
「私にも、手伝わせてもらえないかな?」
帯牙は優しく微笑んで、それを条件付きで了承する。
「いいですよ。だけど、貴女はあくまで、KENの代理です」
「ありがとう。健、貴方は、本当に良い仲間に恵まれたわね」
後に、墓石には新たに、こう刻まれる。
インベイド第三使徒・鈴木健、此処に眠る。
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