第158話「Ready, Fire, Aim」

 ラルフ・メイフィールドは、頭を悩ませていた。


 筐体のバージョンがイプシロンからゼータへとアップされ、本来であれば3日ほど特別休暇と行きたいところだったが、そうも行かなくなっていた。

 それは、ゼータの公式発表で「U-18のサバイバルゲーム世界大会をやる!」と、言ってしまったものの、未だにルールが決めれないでいるからだった。


 無論、その原因というのは、東儀飛鳥というバケモノの存在。


 数え切れないほどルールを書き出してみたが、あからさまに飛鳥だけにハンデを背負わせるのも可笑しな話だし、じゃ、ランクに合わせたハンデを設けたとしても、それは他のランカーへの足枷あしかせとなるだけで、かえって飛鳥を有利にさせる行為に感じた。

 社内コンペにも掛けてみたが、やはり、どれもこれも自分と変わらないアイディアばかりで、ヒントにすらならない状況が続いていたのである。


「あぁー無理! 小学生のバスケ大会に、一人だけNBAのプロ選手を混ぜて、大会として成立させるようなモンじゃねーか!」


 この大会、名目上では『在籍している高校の許可さえ下りれば、どの校でも参加ができるインターハイスクールチャンピオンシップ』なのだが、本来の目的は『東儀雅に注目を集め、ユーザーを増やす』というインベイド計画の一端でもあった。

 普通に広告塔としてCMなどで起用するよりも、一旦、プレイヤーとして注目させてからの方が伸びると考え、敢えて遠回りすることに決めていた。

 しかし、桃李ゲーム部のための大会ではあるものの、流石に、全試合、圧勝はイタダケナイ。


 たまに、圧勝することはあってもいいんだ。

 だが、限度ってモンがある。

 飛鳥が混ざれば、間違いなく、そうなってしまう……。

 やっぱり、観戦ってヤツはゲームにしろ、スポーツにしろ、力が均衡してる方が面白い。


 DID(ドライバーID)やプレイヤー名を伏せる(隠す)というアイディアも出たが、替え玉の危険性や、そもそも、そんなことをすれば、雅を前面に押し出せなくなってしまう。

 他にも『飛鳥のドライバーでの参加を禁止し、オペレーターで参加させる』という意見もあったが、それでも「勝ったのは、シリアルキラーのお陰」というレッテルを貼られる可能性が高い。


 言い方は悪いが、どうせ利用するなら、雅を最大限に活かしたい!


「ジム、雅をサーベルタイガーの弟子ってことで宣伝しようと思うんだが……」


 インベイドの金融を任せているジム・アレンに、雅の広告展開について相談したところ、強く反対される。


「駄目だ! あの娘は、このゲームが産んだアイドルにする。後々、ヤツの弟子だと知られる分には構わんが、余計な装飾を今は付けたくない。あの娘は、間違いなく金になる。下手すると、ラグナよりな」


 テメーの妹(マリア)でも、そう断言しなかったジムが、あそこまで言い切ったんだ。

 間違いなく、雅は大金を産むだろう。

 どうすりゃいいんだよ、全く!

 一層いっその事、飛鳥を禁止にするか?


 これが一番、バランス良い選択肢なのだが、そうなると桃李が勝てるかどうか怪しくなってくる。

 雅だけなら、十分に強い存在ではあるが、サバイバルゲームはチームプレイ。

 柔道のような勝ち抜き戦なら兎も角、戦術・戦略・プレイヤースキルなど、総合力が物を言う。

 凡ミスで一回戦負けなんてことになったら、雅の露出が減り、広告塔にする意味を無くしてしまう。

 これだけは、避けなければならない。


 せめて、決勝トーナメントまでは行ってもらわないと。

 アイツ(刀真)は、ちゃんと育ててんだろうな?


 心配になって、雅の戦闘履歴を覗いてみれば、ランクは上がっているものの、スカルドラゴンのリベンジは失敗に終わっており、不安は膨らむ一方だった。


「おいおい、勘弁してくれよ~。逆に、もっと下手だったら、他にも手があるんだが……」


 他の手段とは、雅にゲーム実況させること。

 ゲーム実況者には、必ずと言っていいほど、アドバイスをしたい者が現れる。

 野暮な話だが、特に女性には多く集まり、更に実況者が「教えてほしい」と望めば、集団で指導者が現れ、時に、教え方の違いなどで、視聴者同士で言い争いが勃発することもあるほどだ。

 だが、そうすることによって、その実況者は『みんなで(俺が)育てたプレイヤー』と認識され、仲間意識であったり、恋愛感情を抱いたりと、固定ファンとして定着してしまう。


 上手くなければ、助けてくれる王子たち(姫プレイ)は、ワンさと現れるからな。

 とはいえ、雅の性格上、下手を演じてくれるとは思えんし……。

 こうなったら、飛鳥を……いやいや、無理だ。

 あいつは、万人ウケするほどじゃないし、

 何より、あの人見知りが、そんな大役を出来る筈もない!

 帯牙に相談……


 ――俺の嫁なんだぞ!


 駄目だ……、

 今のアイツは、役立たずの腐れロリコン!

 協力する訳がない!

 そうだ!

 帯牙の弟子である刀真なら、何か良い考えを思いつくかもしれん!


「本当なら、アイツもゲームをしたいだろうに、今は雅を育てるのに大変だろうからな」


 そう呟きながら、気になって刀真の戦歴を見てみれば……


 おい! 順位がべらぼうに上がってんじゃねーか!

 生徒より、自分のランク優先か!

 それでも、教師かよ! 顧問かよ!


 刀真が劇的にランクをアップさせたのは、飛鳥と対戦を何度も重ねていたからである。

 だが、その中にラルフが驚く戦歴も刻まれていた。


 あれ? アイツ、負けてやがる!?



「やはり、接近されてからでは、間に合わんな……」


 飛鳥が望んだタイマン勝負でも、刀真は地形を利用した罠を張り巡らせ、善戦していたのだが、次第にそれも学習され、罠を張る前に接近を許し、敗戦を重ねていた。

 だが、刀真が想像していたよりも、負けたショックは少なく、寧ろ、どうやって攻略するかを楽しんでいた。

 しかし、飛鳥はその上の楽しみ方を提案する。


「ねぇ! 同じ調整、同じ武器で勝負しなさいよ!」


「いいのか? お前、勝てなくなるぞ」


「はぁ? なに言ってんの! やれるもんなら、やってみなさいよ!」


「あぁ、解った。機体調整は今がベストだから、武器だけ使わせてもらうぞ」


 飛鳥は、親指を立て、それを了承した後、すぐにその指を床へ振り下ろした。


「全く……顧問への敬意の欠片もないヤツだな」


 刀真の言う通り、戦績は刀真へと傾き、飛鳥も善戦するのだが、その勝率は2割まで下がった。


「な、言ったろ?」


 もちろん、悔しさもあったが、それよりも、飛鳥は対戦の楽しさに満足していた。

 勝率は悪いが、勝てない訳でもなく、負けてもギリギリの闘いが、飛鳥をワクワクさせていたのである。


 刀真も同様に、飛鳥との勝負を楽しんでいる自分に、気が付いていた。

 スノードロップの新しい使い方を見せれば、飛鳥もそれをすぐにそれを吸収し、時に、突拍子も無い攻撃が来ることもあって、刀真をワクワクさせていた。

 もちろん、雅や他の部員たちの指導も怠ってはいないものの、いつの間にか、刀真は飛鳥の専属コーチのようになっていた。


「次は、負けないからね!」


「次も、俺が勝……あ、ちょっと待て、電話だ」


 スマートフォンの画面に映るラルフの写真をタップすると、いきなり罵声を浴びせられる。 


「てめぇー、なにやってんだ!」


「は? クラブ活動中だけど?」


「飛鳥と遊んでんじゃねーよ!」


「これも部活の一環だよ」


「雅、育てろって言っただろうがぁ!」


「育ててるよ」


「嘘吐け! スカルドラゴンに負けてんじゃねーか!」


「あぁ、それは思ったより、アイツが強かった訳で……」


「言い訳してんじゃねー! こちとら、サバイバルゲームの世界大会のルール決めんのも、一苦労してるっつーのに!」


「え? なんでだよ?」


「飛鳥が強過ぎるからだよ! しかも、そんな飛鳥をより強くしてんじゃねーよ!」


「桃李が勝った方がいいんだろ?」


「限度ってモンがあるだろうが! リトルリーグに、プロチーム混ぜて面白いか?」


「それは最初っから……」


「決めた! 飛鳥抜いても、勝てるようにしろ!」


「え? 飛鳥、抜くの?」


「それが一番妥当だと、今、結論付いた」


 自分の名前が出たので、気になった飛鳥は刀真の袖を引き「ねぇ、なに?」と尋ねる。


「お前が強過ぎるから、お前はサバイバルゲームの世界大会に出るなとよ」


「えーーーッ!」と、嫌な表情を見せたものの、しばらく考えて「まぁ、いっかー」と返事する。


 てっきり、電話を代わらされ、ラルフに文句でも言うのかと思ったら、素直に従ったのを不思議に思い「お前、本当にいいのか?」と念を押すと、顔を指差され、


「その代わり、アンタ! 一生、アタシと勝負しなさいよ!」


「お、おぅ……なんか、まるでプロポーズみてぇーだな」


「な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、な、なに言ってんのよ! そんな訳ないでしょ!」


 恥ずかしいからか、それとも、怒りからなのか、耳まで赤くさせていた。


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あとがき


タイトルの「Ready, Fire, Aim」は、そのまま訳すと「構え、撃て、狙え」になります。

え? 撃ってから狙うの?って思いますよね。

これは、ビジネス用語として使われることが多い言葉で、

「まずは、やってみろ、目標は後でも修正できる」といった感じです。

「行動こそが大切だ」という教えなのです。


ルールが決められないと、ずるずると延ばし来年にするくらいなら、失敗しても今年開催し、落ち度があれば、その修正は来年に持ち越せば良いということです。


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