第156話「策士、策に溺れる」
GTWでは、プロがログインすると、そのエリアに居る全てのプレイヤーたちへ、知らせが入るようになっている。
それは運営が順位を激しく入れ替えさせる為に実装した細工なのだが、それを非表示にすることも可能になっていて、大抵のプロはオペレーターにそれを担わせ、自身のモニタへは表示されないように設定していた。
また、その知らせは相手がプロでなくとも、相手のDID(ドライバーID)を登録しておくことで、それを受けることも出来き、狙ってるプレイヤーを登録したり、フレンドとの待ち合わせなどに利用されていた。
その一報は、ベルリンで対戦中のプレイヤーたちにとって、知らせというよりも警報だった。
「シ、シリアルキラーだーーーッ! シリアルキラーが来るぞ!」
同国ペナルティなど気にしない殺人鬼のログインに、直ちにログアウトを準備する者、身を潜め狙撃の準備をする者、そして、ポツダムに居たランキング13位シド・インダストリアも動かされることとなる。
「シド! シリアルキラーが来るわ!」
「位置は?」
「ベルリン、シュパンダウ要塞」
「ここから、40kmか……ローラは、そのままシリアルキラーを。ダイアナは、それ以外を警戒してくれ」
そう指示を出した直後、第2オペレーターのダイアナが、別の注意すべきプレイヤーを見つける。
「……待って、シド! ヨハンも居る!」
「なんだと?」
あのクソ野郎、さては俺を狙ってやがったな!
だが、怒りを吐き出す暇さえ与えられないほど、事態は急変する。
「シリアルキラーが、真っ直ぐコチラへ来ます!」
「チッ! 此処でやれば、ヨハンに狙ってくれと言ってるようなモンじゃねーか!」
シドは頭を激しく掻き
「キース! ハリー! ブランデンブルク(門)でシリアルキラーを迎え撃ちつつ、南のマーケットセンターへ
一方のヨハンも予想が外れたことで、混乱していた。
実践形式の対戦じゃないのか?
今なら、シドとシリアルキラーをまとめて始末することは出来るが、
そうすれば間違いなく、俺がサーベルタイガーに
戦場を
いや、違うな……
それなら、対戦モードを選べばいい。
だが、さらに予想だにしない行動をサーベルタイガーが
追っただと?
俺に、気づかなかったのか?
いや、それは、もうどうでもいい……
三人揃ったところで、撃ち抜いてやる!
「無敵時間の消費に、シドを選んだか? だが、そうはさせん!」
無敵時間の20秒もジッと待つことが出来ない飛鳥は、その相手としてシドを選び、一方の刀真もシドを自分の駒にすべく、飛鳥を追う。
間もなく、シリアルキラーと激突というところで、今度は第1オペレーターのローラが、ようやく別の脅威に気づいて叫んだ。
「シドーッ! シリアルキラーの後ろに、サーベルタイガーがッ!」
「なんだと!?」
組んでるのか?
そういやー、師弟関係とか言ってやがったな……、
どうする?
シドが作戦の組み直しを始めようとした時、突然、展開が変わる。
サーベルタイガーが、シリアルキラーを撃ったのだ。
無敵時間中であったことから、刀真を警戒していなかった飛鳥は、その攻撃がモロに背中へ直撃する。
勿論、その攻撃による損傷は無かったものの、飛鳥の怒りは買うことになり、怒りの赴くままに刀真との回線を開くと、文句を言い始めた。
「ちょっと! アンタ! 20秒も待てないの! 無敵中は、可哀想だから待ってあげてるのに!」
「頼んだ覚えは、ねーな!」と言って、さらに2発、3発と続けて発射。
飛鳥は当然のようにそれを避け、さらにその延長線上に居たシドもステップで、それを
照準をシドに合わせていたヨハンは、それが急に消えたことに苛立つ。
ロックオンさえしていれば、自動で追尾するのだが、自分が狙っていることを悟られないようにロックオンしてないため、再度、合わせ直す必要があった。
ヨハンほどの腕前なら、反射神経と予測で多少なら合わせられるのだが、刀真はそれすらも見越すような攻撃をしていたのだ。
今、お前が狙い易いのは、俺だけだ。
だが、撃てないだろ?
俺とランク差が在り過ぎて、得られるポイントはゼロだし、
シドと飛鳥を墜としたいお前にとって、俺は残しておきたい存在の筈だ。
「ヨハン、今ならサーベルタイガーをやれる!」
フレデリカが進言するも、刀真の思惑通り、ヨハンはサーベルタイガーを墜とす自信はあるが、名誉よりも金を優先する。
「金に成らないヤツに、興味はない!」
一体、ヤツは何がしたいんだ?
俺に、シリアルキラーを墜とさせる?
いや、違うな。
それなら、シドとの合流を黙って見ていた筈だ。
となると……、
俺とシドを利用して、シリアルキラーを自分が墜とす。
そんなところか?
だが、シドは俺が貰うぞ!
「フレデリカ、全軍をシリアルキラーへ」
そう命令して、ヨハンはシリアルキラーロックオンする。
「え!?」
もちろん、ヨハンが居ることには気づいていたが、ロックオンしてくるとは思わなかった飛鳥は、その怒りを刀真へぶつける。
「男らしくないわねー! なにヨハンと組んでんのよ!」
「組んでねーよ!」
ロックオンしたか?
流石だ、ヨハン。
俺の考えが、理解できたようだな。
だが、ヨハンは自分の兵が到着するまで、サーベルタイガーを援護し、私兵が着き混戦となったところで、ロックオンを外して、邪魔になりそうな高さの建物を
「な!?」
隠れる場所を失ったシドは、仕方なく狙いをヨハンに定め、疾走するのだが、
「悪いなシド、そっちには行かせねーよ」
刀真が放ったレーザービームが、シドの行く手を
「馬鹿か、テメーは! 俺がそっちに行けば3人ともヨハンにやられるだろうーが! テメーは大人しく、シリアルキラーとやってろよ!」
ようやく、抜け殻に魂が戻った帯牙は、戦況を見つめながら、甥の作戦を鼻で笑う。
「フッ、甘いな、刀真。俺が飛鳥ちゃんに、ヨハンの棋譜を教えないとでも思ったか? 例え、お前やシドのイレギュラーがあっても、今の飛鳥ちゃんには関係ない!」
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