第154話「負けず嫌い」
まるでオヤジ狩りのような雰囲気で、飛鳥を除く他の部員たちは、睨みながら刀真を囲い始める。
特に北川紗奈は、まるでヤンキー漫画に出てくる不良学生のようなガンの飛ばし方で詰め寄って来た。
「ちょっと、先生?」
「お前ら、落ち着け! 大丈夫だから!」
「なにが大丈夫なんですか! 負けるって言ってたじゃないですかーッ!」
「そうだけれども……」
デュフフ・フ・フ。
今のお前じゃ、無理だね、刀真。
幾らお前でも、今から勝つための調整なんて、すぐには出来る訳が無い。
どうせお前のことだ、同じ調整、同じ武器は、絶対使わんだろ?
お前の性格じゃ、使いたくても、使えんよな?
そういうところは、兄貴にソックリだ。
さらに、飛鳥ちゃんに仕込んだのは、ボクシングだけじゃない!
決まりだな!
例え、お前が銃を使っても、飛鳥ちゃんには勝てんよ!
勝利を確信した帯牙は、その視線を甥から、僅かな隙間からチラチラ見える愛しき女性へと移す。
やっとだ、長かった、ホント長かったよ。
君との愛を成就させる為とはいえ、長過ぎたくらいだ。
今は君も、年の差カップルに理解の無い者たちに騙され、
あの時の、運命的な出逢いの記憶も薄れ、
俺の事を誤解してるようだけれども、
少しでも話すチャンスさえあれば、気づく筈なんだよ!
俺と君との小指に繋がった、赤い糸に!
だが、これで、ようやく、よ・う・や・く!
その誤解も解ける!
そして、手取り足取り、教えて行く中で、君は気づくんだ!
「なんて素敵な人なの! アタシ、騙されてたわ! やっぱり、馬鹿社長(ラルフ)やポンコツ教師(刀真)のネタに付き合ってただけだったのね! そうよ、この人がロリコンな訳ないじゃない! だって、こんなにも、紳士的で優しいんだもの!」
俺の溢れんばかりの優しさと、
俺の
そして、底が見えないほどの深い愛情に気づき、
「ダーリンって、呼んでいい?」
「あぁ、いいとも、ハニー!」
こうして、俺と雅ちゃんは結ばれるのだ!
という訳だから、刀真、サッサと負けちまえ!
随分長く待たせちゃったね、ハニー。
今、俺の熱い
結婚は……流石に卒業まで……いやいや、俺たちの愛に学業などという壁はない!
ジューンブライド(6月の結婚)は、過ぎちゃったから……、
と、まだまだ加速しそうな帯牙の妄想に、突然、急ブレーキが掛かる。
「対戦はしてやる。だが、賭けは無しだ」
「はぁ? お前、なに勝手にそんなこと決めてんだよ!」
その提案に怒りを
「対戦するのに賭けは、必要か? 飛鳥?」
「うん、要らない」
「あ、飛鳥ちゃぁーん!! なに言ってんのさ!」
「だって、要らないじゃん」
「飛鳥ちゃん、よーく考えて! 刀真じゃ、お姉ちゃんを強く出来なかったろ?」
「うん」
「うんじゃねーよ! 勝てなかっただけで、強く出来てる!」
「もし、あのポンコツ教師じゃなく、このお兄ちゃんだったなら、スカルドラゴンに勝たせることが出来たんだよ」
「誰が、お兄ちゃんだよ。オッサンじゃねーか!」
「五月蝿い! お前は黙ってろ! いいかい? 飛鳥ちゃん、このままじゃ、お姉ちゃんはスカルドラゴンに勝てないんだよ」
「言い切ったよ、この腐れロリコン!」
「よーく聞いて、飛鳥ちゃん。あのポンコツ教師こそが、ロリコンなんだ!」
「えーッ!?」
「えーッじゃねーよ! なわけねーだろ! 身に覚えあんのかよ!」
「う~ん? あ! 手を無理やり繋がれた……」
それはアメリカ合宿の最終日、ゴールデンウイークの延長を飛鳥がゴネ時の出来事。
「あれは、すぐに日本に帰るためだろーが!」
「えー、無理やり? それは怖かったろ?」
「うん」
「うんじゃねーよ! 冤罪つくってんじゃねーよ!」
「解った、飛鳥ちゃん? 賭けは必要だろ?」
「う~ん?」
「お前が負けた時の言い訳に、賭けを残すのか?」
あ、そうだよ!
アタシを守るために、飛鳥が
だが、姉の期待とは裏腹に、その言葉が癇に障った妹は「はぁ?」と、刀真を睨みつける。
無かったみたいね……。
「飛鳥ちゃん! ポンコツ教師の罠に乗っちゃダメだよ!」
「いいんじゃないか? 賭けが在っても。お前は、どうせ負けるし、姉を守るために負けてやったんだって言えるんだから!」
「やってやるわよ! 賭け無しでやってやろうじゃない!」
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