第153話「高過ぎた防犯意識」

 対戦が終わり暫くすると、自信に満ち溢れたいやらしい笑みを浮かべ、飛鳥あすか帯牙たいがが、刀真たちのもとへと現れた。

 その姿を見て、飛鳥を除いた女子生徒たちが、素早く刀真の後ろへと隠れる。


 飛鳥の後方で「雅ちゅわぁ~ん!」と、キモい発音で名を呼び、手を振ったり、ウインクしたり、投げキッスしたりするド変態に、雅は悪寒を、紬と美羽は吐き気を、紗奈はいつでも殴れるように拳を固めていた。


 とうとう来たか……

 とはいえ、叔父さんにしては、一ヶ月もよく耐えた方だな。

 でも、なんでこのタイミングなんだ?


「刀真、どうだった? 飛鳥ちゃんの仕上がりは?」


「予想以上だったよ」


 すると満足気に「そうだろう、そうだろう」と、大きく頷く二人。


 なんだ?

 好きな女の前で、褒められたかっただけなのか?


 だが、帯牙の考えは、もっと先に進んでいて、


「どうだい? 雅ちゃんも、俺に教わらないかい?」


 雅は、刀真の背後から顔だけ出すと「間に合ってます!」と言って、すぐに引っ込み、覗き込む帯牙の視線を紗奈が塞ぐ。


「うぅ……刀真じゃ、時間掛かると思うよぉ~。俺の方が早いと思うんだけどなぁ~」


「確かに、叔父さんの方が教えるのは上手いかもしれん」


「せ、先生ーッ!」


 自分を育てたことや、飛鳥の調整を踏まえた上での正しい発言だった。

 しかし、言われた方にしてみたら、あんな変態に預けられたらたまったもんじゃない。

 雅は、刀真のシャツを何度も引っ張り、小声で「なに、言ってるんですか!」と必死に抵抗する。


「刀真、よく解ってるじゃないか! その通りだ! やっと、お前も……」


 そう気分良く続けて話そうとする帯牙の言葉を遮って、強く否定する。


「だが、許可する訳にはいかない!」


「なんでだよ!」


「ゲームよりも、東儀の身の方が心配だからな」


「おいおいおい、お前は、まだ、そんなことを……」


「どうして、東儀がスカルドラゴンと対戦するのが分った?」


「え?」


「え? じゃねーよ。なんで知ったんだよ!」


「ぐ、偶然?」


「タイガーさんのモニタに、此処、映ってたよ」


「あ、飛鳥ちゃーん!」


「やっぱりな。盗撮じゃねーか!」


 盗撮という単語で、一気に恐怖の眼差しから、軽蔑の眼差しへと変化する女子部員たち。


「と、と、と、盗撮じゃないよ! なに言ってんだよ! セキュリティだよ! セ・キュ・リ・ティ!」


「セキュリティ? 今、叔父さんはセキュリティと言ったか?」


「そ、そうだよ!」


「パッと見渡して、カメラ見つからないんだが? セキュリティ用のカメラなら、隠す必要ないよな?」


「そ、そ、そんなことはないぞ!」


「どうした? 叔父さん、暑いのか? 汗だくじゃねーか」


 そう言われ、袖で汗を拭う帯牙。


「飛鳥、カメラは何処だ?」


 絶対数感を持つ飛鳥なら、モニタに映っていた映像から角度や距離を割り出し、正確なカメラの位置が容易に分かる。


「えっと、あそこと、あそこと……」


「あ、飛鳥ちゃん! 言わなくていいんだよ!」


「なんで?」


「せ、せ、セキュリティにならないだろ?」


「なんでだよ! 住んでる人間が知ったところで、何の問題もないだろーが!」


 正論オブ正論に、ぐうの音も出ない。


「あと、あそこと、あそこと、あそこ!」


「この部屋に5つも! 随分と防犯の意識がたけーんだな!」


「じ、ジオラマが在るからな!」


「なんで、5つとも隠してんだよ」


「そういうセキュリティもあんだよ! 今の流行はやりなんだよ!」


 言い訳にも程がある理由に、刀真は呆れ、結論付ける。


「なんじゃそら? という訳で、叔父さんには任せられない!」


「という訳でじゃないだろ! 違うんだ、ホントに、信じてよ、雅ちゃん! 本当にセキュリティの為なんだよ!」


「日本でロリコンは、死刑になればいいのに!」


「罰が重過ぎる! し、しまった、いつものノリで……違う、違うだ! 俺はロリコンじゃないし、カメラも防犯の為なんだ! 信じてよぉ~!」


 飛鳥まで白い目で見始め、追い込まれた帯牙は、話を摩り替える。


「じゃ、こうしよう! 飛鳥ちゃんがお前に勝ったら、雅ちゃんは俺が教える。これでどうだ?」


「関係ねーじゃねーか」


「負けるのが怖いのか?」


 帯牙に便乗して、飛鳥も「怖いのか?」と、ニヤリと厭らしく笑うと、刀真の負けず嫌いに火が着く。


「はぁ?」


 その一言に身の危険を感じた雅は、刀真のシャツの裾を引き、懇願するように叫んだ。


「ダメー! 今やったら、負けるって言ってたじゃない!」


 だが、それは逆に、火に油を注ぐ訴えだった。


「へぇ~、今、やったら負けるって言ったんだぁ~」


 飛鳥の挑発的な物言ものいいに、刀真の頬がピクリと動く。


「やってやろうじゃねーか!」


 やぁ~、めぇ~、てぇぇぇ~!!

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