第152話「あなたの死を望みます」

 ジオラマに備え付けられた席に座り、対戦が始まるのを待ちながら、刀真は手に持ったスマートフォンを操作して、飛鳥の調整内容を眺めていた。


 一回り、小さくしたのか……、

 確かに、この調整なら俺より速くなるが、これで俺とのリーチ差を埋められるとは思えん。

 多少、強化しているが、ルイスのように手足が武器って訳でもないか……、

 まだ、調整途中なのか?

 それとも、技で俺を越えるってことか?


 だが、次に飛鳥が所持する武器を見て、驚く。


「なんだ、この武器は!?」


 突然発せられた驚きの声に、隣に座る雅が何事かと尋ねた。


「どうしたんですか?」


「飛鳥の武器なんだが、申請されたばかりの……」


「え? 先生、チェックしてなかったんですか?」


 雅にしてみれば、飛鳥から色々と聞かされていたこともあり、周知の事実という認識だったというのもあるが、常々、刀真から『彼を知り己を知れば百戦殆うからず』と教えられていただけに、刀真が知らないことに驚きを隠せなかった。


「次に対戦する時まで、わざと見ないようにしていたんだ……」


 実のところ叔父の調整に興味はあったが、勝手に脳内で再生される言われてもいない「アタシが怖いの?」が、まるでトラウマのようになってしまい、今日に至るまで見れなくさせていたのだ。


「そうだったんですか……」


 同意は得たようだが、その声からイマイチ納得してない様子で、こちらの表情を伺おうとする雅から目をらすように、武器の詳細を読み上げ始めた。


「ナックルダスターに、レーザーソード? しかも、ダブルブレードにもなるのかぁー」


「どうですか? 飛鳥のスノードロップ(武器)は?」


「流石、叔父さんって感じだ。武器で来ることも想定はしていたが、殴る斬るを合わせてくるとは思わなかったよ。今やれば、負けるかもしれんな」


「えーッ!?」


 雅の余りの驚きように、慌てて訂正を加える。


「同じ武器なら、負ける気はしないんだがな」


 出たよ、負けず嫌い。


「プライドが許しませんか?」


「そうだな。そういう意味も含めて、叔父さんに攻略されているってことだ」


 やっぱり、教わる必要がありそうね。

 嫌だけど……。


 すると雅は、何かを思い出したように微笑み、刀真にクイズを出す。


「あ、そうだ、先生。この武器、どうして、この名前なのか解ります?」


「スノードロップ……確か、そんな名前の花があったな?」


「おぉー」


「たぶん、考えたのは叔父さんだ。となると……花言葉かな?」


「当たりです」


「しかし、ここまでだ。流石に、どういう花言葉なのかまでは知らんよ」


「花言葉は『あなたの死を望みます』なんだそうです」


「それはまた、シリアルキラー(連続殺人犯)らしい名だな」


 難波の空が赤く染まり、カウントダウンが始まる。


「さて、いよいよ始まるぞ。おそらく、勝負は一瞬だ」


 この調整で、この武器なら……

 8.72秒って、ところか?


 GOの合図が出されるや否や、飛鳥は一直線にスカルドラゴンへと向かい、それに合わせてスカルドラゴンも間合いを詰める。

 そして、その距離が100mを切ったところで、スカルドラゴンがKEELをクルッと回すと、右手に掴んだKEEL1本に、残りのKEELが束になって繋がる。


「ボケがぁ! けれるモンなら、けてみぃーッ!」


 まるで散弾銃のように放たれたKEELが、飛鳥の周辺に飛び散る。

 だが、飛鳥は勢いを殺すことなく、飛んできたKEELの一つを掴んだ。


 やはり、気づいていたか。

 拾った武器は使える。

 使えるってことは、当然、磁力も。


「無駄じゃーッ!」


 まるで吸い寄せられるように、散らばった全てのKEELが飛鳥の方へと向かう。


 どうやら、掴まれるところまでは、想定していたようだが、甘かったな。


 飛鳥は、掴んだKEELで目の前の3本を弾くと、持っていたKEELを右後方へ投げ捨てた。

 すると、他のKEELも飛鳥を避けるように、それを追う。

 スカルドラゴンは、慌てて手元のKEELで、再び吸引しようとするも、すでに範囲外。

 想定していなかった飛鳥の行動に、和也が思わず叫んだ。


「なんでや、なんでそんなこと出来るんやーッ!」


 飛鳥は、スノードロップのブレードすら出すことなく、スカルドラゴンが放った左ストレートを潜るようにかわしながら、左のボディブローを放つと、渾身の右ストレートでコックピットを撃ち抜いた。


 叔父さん、アイツにボクシングまで教えたのかよ。

 8.32秒、予想以上だ。


「KEELに、あんな弱点が有ったなんて……」


「東儀。あれは、見た目ほど簡単じゃない」


「そうなんですか?」


「お前でも、KEELを掴むことは出来ただろう。そしてそれは、ヤツらも想定していたと思う」


「え? 弱点が解っていて?」


「あぁ、出来るヤツなんて居ないと思ったからさ」


「え? たぶん、あの距離でも掴むことは出来ますよ」


「違う、その後だ。あれを成立させるには、全てのKEELを誘導させる処理を一瞬で行う必要がある」


「あ!」


「しかも、その処理は、優先順位の問題で、オペレーターには投げられないんだ」


 このゲーム、攻撃の優先順位はドライバーになる。

 仮に、スカルドラゴンと飛鳥が1本ずつKEELを持ち、間に落ちたKEELを引っ付けようとすると、それは持ち主であるスカルドラゴンが優先される。

 しかし、操作しているのがオペレーターの和也であった場合、ドライバーが優先され、飛鳥の方に引っ付いてしまう。

 同様に、和也と紗奈が行った場合、武器の所持者である和也になるという訳だ。


「じゃ、もし、スカルドラゴンが全てを操作していたら?」


「操作速度もだが、反射速度でも、アイツを上回らないとイケナイ」


「先生なら?」


「今やれば、負けるかもって言ったろ? 俺とアイツは、操作速度も、反射速度も、ほぼ同じだ。そうなると、GTMと武器の性能差がモロに出る。とはいえ、10秒では終わらんがな」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る