第149話「Experience Difference」

 刀真は、筐体に備え付けてあるキーボードを操作して、オペレーターの呼び出し音を鳴らした。

 ジオラマで見学するつもりだった部員たちは、各々席に着き、対戦が始まるのを待っていたのだが、呼び出し音に気づいた雅が、先ほどまで紗奈が座っていたオペレーターPCへと駆け寄り、ドライバーとの回線を開いた。


「はい、なんですか?」


「操作はしなくていいから、みんな、オペレーターに座れ」


「操作しないのに、ですか?」


「そうだ。自分なら『どのタイミングで、どう伝えるのか』を考えて欲しい。実際に、指示を出しても構わないが、無視することになるだろう。しかし、そこは気にせず、続けてくれて」


「了解です」


「あぁ、すまん。東儀、お前は別だ」


「あ、はい……」


「お前は、コックピットウィンドウを開いて、どう動かしてるかを頭の中で描くんだ。筐体と違って、360度見れる訳じゃないが、レーダーも合わせて使えば、今のお前なら、それでも十分可能な筈だ」


「解りました、やってみます」


「さて、手本というからには、同一機種、同一調整、同一装備、そして、反応速度もお前に合わせる」


「え!? 反応速度もですか?」


 機体をGTX1800にするというのも驚いたが、それ以上に反応速度も合わせる事の方が衝撃的だった。


「あぁ、じゃないと手本にならんだろ?」


「ですが……大丈夫ですか?」


 雅が心配するのも当然で、避けるのも攻撃するのもギリギリに感じていたし、対戦内容が惜しかったとはいえ、同じ戦法なら、次は間違いなく対応されてしまうだろう。


「大丈夫だ、俺が負けることは無い。それよりも、咄嗟に対応して、お前の反応速度を超えてしまわないかの方が心配だ」


 そう言って笑うと、刀真はさらに続ける。


「それに、この対戦はお前の仇討ちじゃない。手本であると同時に、お前の負けた理由が能力が足りなかったのではなく、経験の差だったってことを証明する為でもあるんだよ」


「経験……棋譜ですか?」


「それもあるが、今回の場合は、相手の武器を見て、攻撃パターンの発想が少なかったことにある」


「先生なら、車のことも予測できたと?」


「もちろんだ。車だけでなく、鉄柱や看板なんかも注意してたよ。エリア選定の時点でな」


 GTWでは、基本、建物であったり、設置物など、何でも武器や防具だけでなく、道具としても使うことが出来る。

 逆に、使えないモノを言う方が早く、例えば、GTWでは『砂を掴んで投げる』ということが出来ない。

 それはGTMの大きな手で、砂を掴めば、その中に何億個の粒子単位のポリゴンが必要になってくるし、さらには、その全てに当たり判定を設けなければならなくなるからだ。

 しかし、砂埃すなけむりを上げるような演出は行っている。


 読者の皆さまは、覚えているだろうか?

 飛鳥とタイガーチームが戦った際に、ビルが崩れ、GTMが隠れるほどの煙が出ていたのを。

 実は、あの煙に当たり判定はない。

 あれは、ビルが崩れれば、コレくらいの煙が出るだろうという演出であって、煙やガラスの破片など、細かいモノに当たり判定はないのだ。

 つまり、煙は一定の演出で動いている為、仮に手であおいだとしても、その煙が移動することはないのだ。

 とはいえ、ビルの破片など、大きなモノには当たり判定が存在する。



 一方、新宿にあるインベイド施設では、スカルドラゴンが筐体の中で怒声を発していた。


「1800で、レーザーガン二挺やと!? ナメやがって!」


にいやん、落ち着いて!」


「解っとる! 大丈夫や」


「ホンマに?」


「しつこいぞ、大丈夫や」


「なら、えぇんやけど……」


「さっきは、すまんかったな。ワイとしたことが、あおりで負けるとはな」


 謝れるほどの冷静さを取り戻したと、ホッとする和也。


「よかった、冷静になったみたいやな」


「まぁ、ムカつきはするけどな」


「サーベルタイガーに、おりは通用せんと思うんやけど、どう思う?」


「そうやな、ネーチャンにも当てられんかったからな」


「あ、たぶん、同じように、KEEL撃ってきそうやな」


「せやな。となると、やっぱり、お前が言ってたアレがメインになるか?」


「いや、メインじゃなくて、トドメじゃないとアカン気がする」


「おいおい、バレたところで避けれへんやろ?」


「そう思いたいけど、MIYABIちゃんに使わんかったとはいえ、あれだけ避けられて、その師匠やからな……」


「まぁえぇ、例え、負けたとしても、そん時、また考えたらえぇんや」


「せやな」


 そんな気は、毛頭ないのだとしても『負けたとしても』という言葉を使ったことで、より冷静を取り戻していた。


 難波の空が赤く染まり、カウントダウンが始まる。

 3・2・1 GO!


「さぁ、見せてもらおうか、師匠の実力ってヤツを!」

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