第150話「Quod Erat Demonstrandum」

 まるで、雅との対戦をなぞるかのように、二つに分けたKEEL《キール》で激しい突きを繰り出し、刀真を追うスカルドラゴン。

 一方の刀真は、124mをキープしながら、襲ってくるKEELを次々とかわしつつ、反撃も行っていた。


「いいか、東儀。射撃は、何も撃墜するためだけに撃つモノじゃない。防御させることで、相手に攻撃の隙を与えなかったり、こんな風に相手を動かす目的で撃つこともある」


 そう言って、スカルドラゴンの右脇辺りを撃ち、左に移動させる。


「アメリカ合宿で、アタシが行き止まりに誘われたようにですね」


「そうだ」


「あ、そっかー。相手を誘うことや、避けることばかり気にして、マップを頭に入れてなかったんだ」


「お前には、北川が居るんだ。その判断は、北川に任せればいい」


「そうよ、それはアタシ任せて!」


「さっきの、なんばCITYへ逃げた時の判断は良かった。十分、任せられるんじゃないかな?」


「先生、実は……その場所、何度か来たことあって知ってたんです」


「そうだったのか。でも、それでも、気づけたことに違いはないし、知っていても気づけないことだってある。そういう意味でも、十分、任せられると思うぞ」


「ありがとうございます」



 MIYABIと比べれば、攻撃回数は多いものの、その差は五十歩百歩と感じたスカルドラゴンは、さっきの仕返しとばかりに、外部スピーカーをONにして、サーベルタイガーをあおり始めた。


「偉そうなこと言う割りに、ネーチャンに毛生えた程度やんけ!」


 すると、それに応えるように、刀真も外部スピーカーをONにする。


「童貞といい、君は、程度の低い下ネタが好きなんだな」


「はぁ?」


「知らんのか? 毛とは陰毛を指してるんだよ」


 その発言が終わるや否や、向こうのスピーカーから「最低!」とさげすむ、複数の女子高生らしき声。


「し、知るかーッ! ボケーッ!!」


 分が悪いと思ったスカルドラゴンのオペレーター和也は、外部スピーカーをOFFに切り替え、兄貴分を制する。


にいやん、煽るんは止めましょ。ペース乱されますわ」


「ボケがーッ!」


「勝ちゃぁーえぇんよ! 勝ちゃぁー」


「せやな」


 ちなみに、この『毛が生えた程度』の語源は諸説あって、毛一本ほどの差しかないという意味の方が主流で、当然、刀真も知っているのだが、敢えて煽れる方を選んだのである。



「ねぇねぇ、飛鳥ちゃん。雅ちゃんは、毛が……」


 ナイフのような鋭く冷たい眼差しが、帯牙たいがの喉に突き刺さり、それ以上の発言を許さない。


「そんなことより、アイツ、なにチンタラやってんのよ!」


「仕方ないよ。お姉ちゃんに、手本を見せるためなんだからさ」


「それにしても、遅いよ!」


「飛鳥ちゃんなら、銃でどのくらい掛かりそう?」


「え? 銃で? も、もう、終わってるんじゃないかなー?」


 若干の怪しさを感じつつも、そこには触れず、改めて聞き返す。


「じゃ、今の武器なら?」


「10秒も掛からないね」



 十分に相手の動揺を誘えたことで、刀真も外部スピーカーのスイッチを切り、再び、雅へ指導を始める。


 解説しながら戦闘を続け、そして、それがまるで予言のように実現していく。


「次は、左に移動させる。次は、誘って前へ移動させる。次は……」


 雅も含め、他の部員たちも感動するばかりで、指示を出しても構わないと言われていたものの、邪魔してはイケナイ気分の方が上回り、指示を出すことに臆病おくびょうになっていた。

 そんな中、一人だけ、自分の実力を試そうと、それに挑戦していた者が居る。


「いいぞ、安西。今のは、良い指示だ」


 その褒め言葉で、ようやく自分たちもやってみるべきだったんだと指示を出し始めたのだが、その後、褒められた者が現れることはなかった。


「時には、自分の罠を完成させるために、相手の誘いに乗ってやってもいい」


「ボケが、弟子と同じ罠に引っ掛かりよった! 今度は、なんばCITYなんかに逃がさんぞ!」


 先に、なんばCITYへの入り口を破壊し、スカイホテルを破壊しに行こうとした――その時。


「アカン! 兄やん! 後ろ下がって! ウインズが倒れる!」


「なんやと!」


 なんばパークスに陣取っていたスカルドラゴンの左側にそびえ立つ、JRAウインズ難波が倒壊し始めたのだ。

 慌てて後ろに下がるスカルドラゴンを二挺で激しく連射する刀真、しものスカルドラゴンも防戦一方にさせられる。


「アカン! 兄やん、右に飛べ!」


「今度は、なんや!」


 まるで待ってたましたとばかりに、今度は南に位置してたタワーマンションが、時間差でスカルドラゴンの方へ倒れきたではないか。

 避け切れないと感じたスカルドラゴンは、咄嗟にKEELをタワーマンションへと向けるのだが、ガラ空きになったコックピットを見逃す刀真ではなかった。


 刀真が罠を仕掛けていたことに気づかなかった者たちは、まるで、決められた台詞のように、同じ言葉を口にする。


「いつの間に!」


「いいか、東儀。作らされた罠ってヤツは、気づき難いモンなんだよ」


 そう、これは刀真が作った罠ではなく、スカルドラゴンの攻撃を避けることによって生まれた罠だった。



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あとがき


タイトルの「Quod Erat Demonstrandum」は、Q.E.Dと書けば解ってもらえるかな?

証明終了、つまり、刀真による「負けた理由が能力が足りなかったのではなく、経験の差だったってこと」の証明が終了したという意味なのです。


さて、スカルドラゴンの隠していた技が気になった方も多いと思いますw

それは、次回です。


― 次回予告 ―

「アイツが闘ったんだからさ、アタシも闘っていいよね!」

戦いたくなった飛鳥が、今度はスカルドラゴンと対決する。

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