第148話「龍虎、再び相搏つ」

 スカルドラゴンは、ゲーム終了と共に外部スピーカーをONにし、そこに居るかどうか分からない相手へ向け、えた。


るんやろ、サーベルタイガー! 出て来いやーッ!」


 突然の呼び出しに臆することなく、刀真は「気づいてたか……」と呟いて、紗奈が操作するオペレーターPCへと歩み寄ると、マウスを操作して回線を開く。


 GTWのチャット回線は、ゲームオーバーになっても、一方が対戦部屋から離脱しない限り、対戦相手と会話が出来るようになっている。

 それは、対戦後にアドバイスなどをすることもあるだろうと考え、実装されているからだ。

 このゲームには、他にも任意のドライバーだけに回線を開くモードもあるのだが、別で外部スピーカーを入れた目的は、煽る事によって相手の動揺を誘う戦法があっても良いだろうという考えと、ロボットアニメのように、熱い台詞を交えた対戦も楽しいかもしれないというオタク趣味的要素として実装されている。


 スカルドラゴンが外部スピーカーを使った理由は、直接の回線だと、雅の許可が必要であることと、出た後に「サーベルタイガーに代われ」という二手間がわずらわしかったからだ。


「なんだ?」


「ワレが、サーベルタイガーか?」


「そうだ」


「しょーもない戦い方、教えやがって」


 対戦の申し込みでもしてくるのかと思えば、クレームかよ。

 

「お前には、そう見えたのか? なら、勝ち越すのも時間の問題だな」


「なんやと?」


「優秀なトレーナーほど、ディフェンスから教える。知らんのか?」


「逃げだけで、ワイに勝てると思ったんか?」


「あぁ、だが見積もりが甘かったよ」


「当たり前じゃ!」


「いやいや、お前じゃない。俺が見誤ったのは、オペレーターの腕だ。考えていた以上に、優秀だった」


「お! サーベルタイガーのにいやん、解っとるやん!」


「黙れ、童貞ーッ!」


 二人のネタを知らない刀真は、その単語に思わず噴出し、腹を抱えて笑い出す。


「笑うなーッ! 童貞ちゃうわーッ!」


「クククッ、お、オロチくん。べ、別に、恥ずかしい事じゃないよ」


「だ、誰が童貞じゃコラーッ! シバクぞ!」


 オロチの名を和也に預けているだけなので、つい自分のことを言われたと思い、怒り出すスカルドラゴン。


「で、言いたいことは、済んだか?」


「いや、まだや。ワイと勝負せーや」


「いいのか? 俺は、KEELを見たぞ」


「はぁ? どこぞの手品師とは違うんや。見られて困るようなたねは無い。破れるモンなら、破ってみろや!」


「で、何か賭けなくていいのか?」


 賭けを自分から、提示してきたやと!

 つくづく、かんさわる野郎やな!


「100万で、どうや?」


「低いな。自信が無いのか?」


「ふざけんな! 1000万、いや、億で勝負したろうやないか!」


「兄やん! それは幾らなんでも!」


「和也! 俺が負けるとでも思ってんのかーッ!」


「落ち着けって、兄やん! サーベルタイガーの思う壺や。乗せられんなよ!」


 やはり、優秀なようだな。

 しかも、スカルドラゴンも意地を張らず、それを理解して黙り込む。

 いいコンビだ。


「サーベルタイガー、額面はMIYABIちゃんと同じ、50万でえぇやろ? アンタが勝てば、MIYABIちゃんへの請求はチャラにする。どうや?」


「いいだろう。接続準備が必要だから、それが終わり次第、恐らく17分後だ」


「了解、んじゃ、17分後に」



 回線を閉じて、振り返ってみれば、落ち込んだ様子の雅の姿があった。


「すみません、負けてしまいました」


「また、謝る。悪い癖だぞ。それに謝らないといけないのは、むしろ俺の方だ」


「いえ、そんなことは……」


「そんなことはあるんだよ。ヤツにも言ったが、オペレーターを計算に入れてなかった。俺も焦ってたのかな? ゼータや世界大会の件もあって、お前に急がせ過ぎたな。すまなかった」


「いえ……」


「負けはしたが、お前はよくやったよ。最後も悪くなかった。ヤツの手が、一つ多かっただけだ。だから、気にするな」


「はい」


「さて、今からヤツと戦う訳だが……手本を見せるんだが、恐らく無駄になる」


「え? 無駄?」


「あぁ、負ければ、あれでは勝てないと、考え直すだろうからな」


「先生には、KEELの攻略法が有るんですね」


「う~ん? それもあるが、お前に、お前の可能性を見せてやる」


 そう言うと刀真は、接続準備のため、自分の筐体へと向かうのだった。



 一方その頃、虎塚邸での別階で帯牙が怒りをあらわにしていた。


「あいつは、何を教えてたんだー!」


「ふぉんとらよぉ!(ホントだよ)」


 ケーキを頬張りながら、飛鳥も激しく同意する。

 盗聴から雅が対決することを知った帯牙が、急遽、ケーキタイムを設け、戦いを鑑賞していたのは言うまでもない!


「飛鳥ちゃん、今からスカルドラゴンをボコりに行こうか?」


「それが、ダメなんだよ。お姉ちゃんから『アタシの獲物取らないで!』って言われちゃってるからさ」


「そうなのかー。だったら、だったらね! 飛鳥ちゃんから、お姉ちゃんに言ってやってよ。お兄ちゃんなら、勝たせられるよって」


「えぇー、それはチョット……」


「なんでさー」


「だって、お姉ちゃんに会ったら、変態さんになるでしょ?」


「やだなー、ならないよ! そんな訳ないじゃん! それに、それにだよ。いずれ、結婚することになるんだから、なんの問題も無いんだよ!」


 その『結婚』という単語を聞き、余計に会わせる訳にはいかないと思う飛鳥だった。

 その時、突然、帯牙が眉をひそめた。


「ん!?」


「どうしたの?」


「どうやら、刀真がスカルドラゴンと戦うらしい」


「えーッ! なんでアイツなら、いいのよ! もぅ、早く映してよ! 早く!」


「ど、どうせならさー、上のジオラマで見ない?」


「ダメ! 早く、映して!」



 ――17分後。


 スタッフから接続完了の報告を受けた、スカルドラゴンは筐体へ乗り込み、和也はオペレーターPCを操作して、サーベルタイガーの情報をモニタに映し出した。


「に、兄やん! サーベルタイガーの機体!」


「1800で、レーザーガン二挺やと!? ナメやがって!」

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