第147話「Xscape」

 ――きっと、動かすルートを決めてる筈!


 2~3本ならまだしも、複数を同時に反射神経のみで対応することは出来ないだろうと考えた雅は、必死でKEEL《キール》をかわしながら、その攻撃パターンを探っていた。

 しかし、その攻撃が余りにも複数な上に不規則なため、雅は混乱するばかりだった。


「一体、幾つパターンが有るのよ!」


 肝心な推測が間違っている。

 この攻撃にパターンは無いんだ、東儀。

 裏目に出なければいいんだが……。


 思わず出た愚痴を聞き、その間違いを指摘したくなる衝動をグッと抑え、もどかしく感じながらも、刀真が出来ることは、静かに戦況を見守ることだけだった。


 刀真の推測通り、このKEELの攻撃にパターンは無く、完全な反射神経のみで行っている。

 対戦前に、スカルドラゴンがオペレーターの和也に言った『どこぞの手品師とは違う』は、見られたところで対策など出来ないという自信のあらわれだった。

 とはいえ、32本のKEELを全てスカルドラゴンが動かしている訳ではない。

 実のところ、攻撃の主はオペレーターの和也が行っており、外れた場合のフォローや崩れた檻の再形成をスカルドラゴンが担う、分業制なのだ。


「MIYABIちゃん。KEELは、真っ直ぐ飛ぶだけじゃないんやでぇ」


 和也はそう言って、引き寄せるKEELを切り替えた。

 すると、直線だった軌道が、突然、向きを変え、弧を描くように雅へ襲い掛かる。

 回避するため、咄嗟に撃ったことが功を奏する。


「そっか、壊せなくても、弾くことは出来るんだ!」


 ようやく、気づいたか……

 だが、それだけでは、そこから逃げられんぞ。


 迫り来るKEELを次々と弾いて行くのだが、刀真の心配は的中し、弾かれたKEELをスカルドラゴンが回収し、再び放って、檻を形成する。

 そんな中、KEELが曲がったのを見て、同じように静かに戦況を見守っていた、美羽みうがボソッと疑問を口にした。


「なんで、あっちは動かないんだろう?」


 いい指摘だ、安西。


「なにが?」


 いいぞ、南城。

 出来れば、声のボリュームを上げて、北川に気づかせろ!


 しかし、戦いの邪魔をする訳には行かないと考えていた二人は、そのままボソボソと会話を続けてしまう。

 なんとか、紗奈に気づかれないように、二人に聞こえるように言うんだとばかりに、刀真はジェスチャーをするのだが、それに気づいた美羽がつむぎに、反対の答えを伝えてしまう。


「あ、喋って邪魔しちゃ、ダメだって……」


 微かに聞こえてきた間違いに、刀真は大きく首を振りながら、胸元で大きく×印を両腕で描く。


「え?」


 不思議に小首を傾げる美羽に対して、紬は刀真の考えを理解する。


 あ! そうか! 解った!

 これの答え、攻略になっちゃうんだ!


 まるで空気の読めない人間のように、紬は声のボリュームを上げる。


「確かに美羽の言う通り、あれって磁石なんだから、片方だけ動くのって、可笑しいよね?」


「ちょ、ちょっと、紬ちゃん」


 慌て注意してきた美羽に小声で「いいんだよ、ほら」と、指差した先には、親指を立て、大きく縦に頷く顧問の姿が在った。


 だけど、問題は此処から……。

 アタシたちで、答えを出すか、

 これを聞いた紗奈先輩が、答えを出さないと。


 ようやく、美羽の方も理解し、自分なりの答えを搾り出す。


「電磁石だから、引っ張った後、電気切ってるのかな?」


 惜しい、それだけだと40点だ。


 そんな3人の想いに、紗奈も気づいていた。


 先生が答えを言わないのは、きっと、この会話の先に、現状を打破するヒントがあるのよ。

 二人で戦いたいと言ったんだから、その答えはアタシが見つけないと……、

 動かないKEELに、一体、何があるの?


 答えを出せないまま、このKEELの攻撃は、第二段階へと移る。


 なんで?

 速くなってる!? 


 KEELに、ブースターなどの推進装置が付いている訳ではない。

 雅が速くなったと感じているのは、スカルドラゴンが回収と放出を繰り返しながら、徐々に檻の間隔をせばめていたからだ。


 このままじゃ、やられる!


 その時、突然、奇声のように「解ったー!」と、紗奈が叫んだ。


「え? な、なにが?」


「雅、飛んで来ないKEELを撃って!」


 正解だ、北川。


 この攻撃におけるKEELの役割は3種類あり、1つ目は攻撃用の飛ぶKEEL、2つ目が飛ばす方向を決める引き寄せるKEEL、そして、檻を維持させるために、引き寄せる役割のKEELを動かさないようにしているKEELだ。

 雅は、飛んで来ないKEELを撃つと、それは磁力の範囲外へと弾かれ、地面へと落下する。


「ほぉ、初見でそれに気づくとはな。やけどネーチャン、撃つことばかり気を取られてると、痛い目に会うで」


 まるで籠の中の鳥へ、剣を突き刺すように、手に持ったKEELで雅を突きに行く。

 すんでの所で、それをかわした雅だったのだが、


「もう、忘れたんか? 突くだけがKEELの芸当やない」


 突かれたKEELのもとへ、全方向からKEELが引き寄せられ、次々と雅を襲う。

 

 今だ!

 地を転がるエリア外のKEEL。

 そして、アタシへと集中するKEEL。

 突くために、伸び切ったKEEL。

 今、アンタを守るKEELは、手の中の一つだけ!


 雅は、一気にブーストを吹かせ、スカルドラゴンへと向いながら、二挺の銃で連射する。

 コックピットを堅く守っていた左腕を飛ばし、勝利を確信したその時、突然、雅の画面に衝突警告のアラートが鳴る。


「惜しかったな、ネーチャン。引き寄せられるんは、なにもKEELに限ったことやないんや」


 突然、飛んで来た軽自動車が右脇腹へ激突し、体勢を崩した所へ、無残にも幾つものKEELがGTX1800を串刺しにして、ゲームは終了する。




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 タイトルのXscape、ご存知の方も多いと思いますが、マイケルジャクソンが亡くなった後に出された曲の一つです。

 言葉としては存在しませんが、意味はEscapeと同様です。

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