第146話「DRAGON'S CAGE」

「エライかしこうなったやんけ、ネーチャン」


 雅はスカルドラゴンの攻撃を警戒しながら、自分の領域テリトリーを守り、出来る限り止まらないように心掛けていた。

 逃げる位置を悟られないように、ビルを蹴って逃げる方向を変えたり、ビルの陰に隠れたりしていたのだが、KEELが雅を追いかけながら、次々と建物を破壊し、隠れる場所さえも失っていく。


「クッソ、オモんない!」


 スカルドラゴンが愚痴った『オモんない』とは、ゲームが面白くないという訳でも、MIYABIの戦法が苦手な戦い方という訳でもなく、実力を認めていた相手の仕上がりがあまりにも悪く、むしろ以前より劣化しているとさえ感じたからであった。

 前回の対戦は、苦もなく勝利を収めたが、足を斬った思いっきりの良さと、すきあらば突っ込んで来る大胆さは、スカルドラゴンも一目いちもく置いており、しかも、その師がサーベルタイガーとなれば、さらに楽しめるに違いないと期待していただけに、その落差は大きくなっていた。


「何を教わったんや? それとも、ネーチャンも教わっとらんのか?」


 離れはしないものの、近づこうともしない、攻撃も撃っているだけという印象しかない。

 そんなMIYABIの攻撃に、スカルドラゴンは嫌気が差し始めていた。


 一方の雅も、それに苦しめられていた。

 間合いを詰めに行ける場面は何度もあり、攻めに行きたい衝動にも駆られる。

 だが、124mより距離を詰めるという行為は、同時に自分の能力を下げる行為であると解っているだけに、勝てる確証でもない限り、おいそれと踏み込めない。

 にもかかわらず、相手のガードは堅く、それを崩すのに124mという距離は、あまりにも遠く感じられた。


 どうすれば……、

 先生なら、どうする?


 答えが出ないまま、時間だけが過ぎて行き、そして、ついにそれを考える猶予ゆうよも与えられなくなる。


「ワイヤーやったら、持久戦に持ち込めば勝てる……そんな、トコか?」


 MIYABIが出してであろう勝算を導き出したスカルドラゴンは、相方に戦いの終わりを告げる。


「終わりにすんぞ、和也!」


「あいよ」


 甘いな、甘過ぎるわ。

 よくもそんなザマで、勝てると思ったな!

 ワイヤーやったとしても、今のお前じゃ、無理や!


 斜めに振り上げられたKEELを上昇してかわそうとする雅、だが、直前でKEELが折れ、まるで巻き付く蛇のように、雅へ向かい螺旋を描く。


「え!?」


 なんとかからみつかれる前に、その隙間を抜け、かわしたのも束の間。


「雅ーッ! 別の8本が来てる!」


 瞬時に、飛来してきた8本が当たらないと判断し、再び、正面を向こうとした視界の片隅で、KEELの先が角度を変えたように見えた。


 イケナイ!


 慌ててGTMを戦闘機に変形させ、ブーストを一気に吹かして、その場から離脱する。

 すると、間も無くして、その場所にKEELが雨のように降り注いだ。


「逃げるんだけは、一人前やな」


 雅は、一旦、大きく距離を取ろうと、倒れたスイスホテルの上を通って南下し、再び、人型に戻して、JRAウインズ難波のヘリポートに降り立った。


 危なかった……、

 気づかなかったら、終わってた……。


 まるで此処まで自分が飛んで来たかのように、緊張が雅の息を荒くさせる。


「大丈夫?」


「ハァ、ハァ、大丈夫。それより、紗奈。武器よりも、本体が何をしたかだけを伝えて」


「え? どうして?」


「どうやら、あの武器は、どれにどれを付けるとか、自由に出来るみたいなの」


「え!? それだと余計に……」


「いや、それだと手遅れになるのよ」


「どういうこと?」


「あれの引っ付ける距離が……」と言ったところで、今度は、24本のKEELが襲い掛かる。


「不味い!」


 思わず、危険を口にした刀真を反射的に振り返ってしまう紗奈。


「すまん、北川。モニタから目を離すな!」


 声を出してしまったことを謝罪しながら、モニタを見るよううながした。

 紗奈も慌ててモニタに目をやり、KEELの位置を確認して、雅へと伝える。


「大丈夫、当たるヤツは、1本も無いよ!」


 違う、そうじゃない、北川!

 東儀は、気づいてるようだが、逃げられるか?


 飛来してくるKEELは、雅を中心にして24方向、無論、その直径は100mになっていた。

 それを危険だと察知した雅は、その円から抜け出ようと試みるのだが、逃げた方向へ、新たにKEELが放たれ、そして、攻撃が始まる。


 有りと有らゆる角度から、次々と雅に襲い掛かるKEEL。

 KEELの磁力は、吸着力だけでなく、反発力も兼ね備えており、受けるKEEL、飛ばすKEELが複雑に切り替わる。


「そうか、雅は、これが言いたかったのね」


 KEELの吸着距離は100m、それは雅の適正距離124mよりも短く、そんな範囲内で位置を教えられたところで、返って邪魔になる。

 まして、今のKEELは、複雑に位置を変え、平面から立体へと変化を遂げていた。


 落ち着け。

 落ち着け、アタシ。

 避けれない速さじゃない!

 ヨハンのポーンも、抜けられたじゃない!


「凄げーな、MIYABIちゃん」


「関心してる場合か、童貞! KEEL増やすぞ!」


「はいはい」


 スカルドラゴンは、更にKEELを5本放出し、雅を追い詰める。


「生きておりから、出られると思うなよ!」

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