第145話「龍の骨」

 磁力の調整によって、まるでペーパーヨーヨーのように伸び縮みするKEEL《キール》。

 スカルドラゴンはKEELを二つに分け、両手を激しく振り、雅に攻撃する時間を与えない。


「サーベルタイガーに教わったんわ、逃げることだけかーッ!」


 二つのKEELが雅を追い掛け、次々とビルや家屋を破壊していく。


 32mから、3132m。

 攻撃された瞬間に、その射程距離を知ることは、今の東儀には無理だろう。

 その事から、全てを避けている東儀の判断は、悪くは無い。

 悪くはないんだが、やはり全てとなると、無駄な動きが多くなって、応戦も中途半端だ。

 

 ――剣と同等だから、まず、破壊できないと思っておいた方がいい。


 あれは、余計なアドバイスだったかもしれんな。

 破壊はできなくとも、方向を変えることはできる。

 言ってさえいなければ、当ててそれに気づけたかもしれん。

 気づきさえすれば、もう少し、マシになるんだが……。


 刀真は、アドバイス出来ない歯痒さ感じながら、じっと戦況を見守っていた。


「雅、回収してないKEELに気をつけて!」


 スカルドラゴンは、建物を破壊しながら、判らないようにKEELをその中にひそませていた。

 もしも、対戦前にKEELの仕様を読んでいなければ、残されたKEELの一部を以前の切られたワイヤーのように『もう使えない武器』と、勘違いしていたかもしれない。

 しかし、紗奈はそれを罠と考え、雅に注意をうながしたのである。


「ほぉ、気づきよったか?」


 仕掛けた罠にMIYABIが近づかないことから、スカルドラゴンは片方のKEELで攻撃しつつ、もう一方でそれを回収していく。


「メガネのネーチャンも、やるようになったな」


 以前の対戦では、川の中にひそませたワイヤーに気づくことが出来なかったが、今度は罠の初期段階で察知してみせた、そんなMIYABIのオペレーターSANAの成長をスカルドラゴンは褒めた。


「やけど、仕様を見た程度で全てが理解出来る程、このKEELは甘いモンやない!」


 鞭のようにしならせながら、斜めに振り上げられたKEELが突如として切り離され、4本が並ぶように飛来する!


 弾速としては、銃のそれよりも若干遅いものの、当たればダメージを受けることは間違いない。

 反射的に下へ逃れた雅を、更にもう一方のKEELが狙う!


「今度は、下?」


 雅は、それを避けるべく、ブーストを使ってその場に停止し、それをやり過ごした。

 下を通過した8本のKEELが、そばそびえ立つ『スイスホテル南海大阪』へ突き刺さる。


「もろうたーッ!」


 その勝利宣言と共に放たれたKEELが、空中で静止する雅へ向かう。

 間一髪、身をじらせることで、それをかわし、ホッとしたのも束の間、雅の瞳に映ったのは、こちらへと倒れてくる超高層ビル!

 そう、先刻の下へ放たれたKEELは、雅を狙ったものではなく、ビルの倒壊が目的だったのだ。


「此処に誘われたことには、気づかんかったようやな。終わりじゃぁーッ!」


 北は倒壊してくるスイスホテル、西はスイスホテルと同等の高さを誇る『なんばスカイオ』が立ちはだかり、南にはスカルドラゴン、残された東も、スカルドラゴンのKEELによってふさがれた。


 どうする?

 一か八かで、突っ込む?

 迷ってる暇は無い!


 雅が覚悟を決めたその時、紗奈が叫んだ。


「雅ーッ! 下の駐車場を撃ち抜いて、変形してもぐって!」


 言われるがままに、下を撃ち抜くと、狭いが入れそうな空間が現れ、そこへ飛び込んだ。


「なに!? なんばCITYの中やと!?」


 GTWは、地形や建物を寸分すんぶんたがわず再現されているのだが、本来、中に在る筈の店舗までは再現されていない。

 つまり、ハリボテではないものの、その中は空洞になっているのだ。

 とはいえ、柱やエスカレーターなどは存在する為、雅は障害となる物を撃ち抜き、通路を広げながら、なんばCITYを北上し外へ出た。

 すると、すぐ目の前に大きな建物が現れ、そこに見慣れたマークを発見する。


「あ! こっちにも、マルイって在るんだ」


 景色が、よく見えている。

 どうやら、冷静のようだな。

 それにしても、北川、よく気づいたな、いい判断だった。


 実は紗奈、東京生まれ東京育ちでありながら、この場所だけは詳しい。

 それは、親から英才教育を受けたサラブレッドなオタクだからだ。

 毎年、親に連れられ『日本橋ストリートフェスタ』に参加しており、難波から日本橋、そして、恵美須町に掛けて、地元と呼べるほど詳しくなっていた。

 とはいえ、少しでも歩いたコースを外れてしまうと、全く知らない土地でもあるため、土地勘があるとまでは、言えない場所でもある。


「ありがとう、紗奈、助かったわ」


「いいのよ、お礼なんて。それより、今、抜けて来たので天井や床に擦っちゃって削れたみたい。ダメージ損傷は、12%になってる」


「墜ちるよりは、マシね」


「それもそうね」


「機動力に問題は?」


「羽根も少し削れてるから、2%落ちてる」


「了解」


「ねぇ、間合いを広げなくていいの?」


「大丈夫、引き続きお願いね」


「了解」


 本当なら、間合いは広げたいところだけど、

 アイツのガードを崩すのは、124mでさえ遠く感じる。

 どうすればいい?

 先生なら、どうするんだろ?


 雅は、答えを見つけられないまま、再び、スカルドラゴンと対峙するのだった。


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