第144話「2025年7月5日 仏滅」

 東儀がスカルドラゴンに勝てば、長かったウチでの部活も今日で終わり、平穏だった毎日に戻れる。

 土日に朝から来ようとしていたのを「昼飯を一緒に喰うハメになるかもしれんぞ!」と脅し、拒否ったのも、今となっては懐かしい。

 叔父さんが、一度も現れなかったのは、めちゃくちゃ気になるが、最早、知る必要さえ無い。


 午後4時25分、インベイド施設の宮崎から接続完了と「30分に対戦開始する」との連絡を受け、刀真はオペレーター用のPCから内線を開いて、それをコックピットの中に居る雅へと知らせた。


「対戦は、30分ちょうど開始だそうだ」


「了解です」


「これはお前たちの戦いだ。例え、負けそうになっても、俺が口を出すことないからな」


「もちろんです」


「油断はするなよ。これも訓練だと思え」


「はい」


「北川もな」


「はい」


 対戦開始3分前のアラートがコックピット内、そして、オペレーターモニタに表示され、カウントダウンが始まったその時、オペレーターとしての準備をしていた紗奈が、驚きの声を上げる。


「えッ! ちょっと待って!」


「どうした?」


「先生、コレ!」


 紗奈が指差すモニタには、スカルドラゴンの新しい武器が映し出されていた。


「新武器!? 申請中だったのか……」


 しまった! なんで気づかなかったんだ!

 俺とネメシスに敗れて、ヤツだって見直さない訳が無い!

 クソー、思いつかなかった、自分に腹が立つ!


 刀真は、オロチ時代も含め、今日に至るまでスカルドラゴンのデータを収集し、武器を変更した場合においても検証していたのだが、武器の申請まで気が回ってはいなかった。


「どうかしたんですか?」


「スカルドラゴンの武器が変更されている」


「えーッ!?」


「しかも、今日付けの新しい武器、KEEL《キール》という名の多節棍たせつこんだ」


「たせつこん?」


「お前も、見ておいた方がいいな。そっちに武器の詳細を映すぞ」


「はい」


 KEEL、本来の言葉の意味は、船の船首から船尾にかけて船底に通す構造材のことなのだが、それを日本語にすると『竜骨りゅうこつ』と訳される。

 画面に映ったその武器は、その翻訳のように、白い骨が幾つも繋がったようなデザインの長い棍棒だった。


「な、なに? コレ……」


三節棍さんせつこんという武器は知ってるか?」


「あ、はい。ヌンチャクの一つ多いヤツですよね?」


「そうだ。ヤツの新しい武器は、1m毎の節が32本ある多節棍だ」


「32? てことは……リーチ入れても、50mも無い?」


「いや、違う。詳細説明に『ふし同士が磁力で結合されていて、それぞれが100mまで伸びる』とある。つまり、ヤツの最大射程は、3132mだ!」


「えッ!? 3km!?」


「しかも、付け外しが自由となっているから、分割で使用することも出来る。以前のワイヤーのように、8本にして使うことも可能だろうな」


「ということは、ワイヤーから変えた意味って、長さだけですかね?」


「いや、一番は耐久値だろう。剣と同等だから、まず、破壊できないと思っておいた方がいい」


「あと、磁力だから切れないってことですね?」


「そうだな。だが、それよりも厄介なのは、100m以内なら磁力で回収も可能になってることだ。おそらく、飛ばして、回収するような攻撃を仕掛けてくるだろう」


 残り時間が1分を切ったところで、雅は覚悟を決める。


「考えられる攻撃パターンとしては……」


「先生!」


「どうした?」


「ここから先は、紗奈とアタシで」


「そうか、解った。行って来い!」


「行って来ます!」


 ログインし、雅が目の当たりにした対戦ステージの光景は、超高層ビルが点在し、多くの建物が密集する世界だった。

 そこは、前回と同じ大阪市中央区であったものの、戦闘開始地点は道頓堀ではなく、そこから少し南に位置する難波だった。

 新武器とはいえ、似たようなイメージを持っていた雅は疑問に感じ、それを口にする。


「川じゃない……武器が違うから? それとも、この地形を利用する?」


「そうね。勝った癖に、またホームを選んでるから、気をつけた方が良いわね。私も、33体居るつもりで対応するわ」


「お願い」


 大阪難波の空が赤く染まり、対戦までのカウントダウンを始める。


 これも、訓練。

 アタシの距離を守る。

 平面で見ちゃダメ、立体的に見る。

 

 3・2・1・GO!

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