第143話「逆鱗」
なんや? 妙に引っ掛かる……。
対戦の準備が整うまでの間、スカルドラゴンは筐体の中で、MIYABIの自信がどこから来ているのかを考えていた。
勝つつもりなんわ、まぁ、えぇ。
やけど、掛け金を上げるほどの自信は、どっからや?
雅としては、再戦してもらうための見せ金だったのだが、返って違和感を覚えさせていた。
あのネーチャンと戦ってから、3ヶ月くらいか?
仮に、機体をGTRに変えて、みっちり練習した上で、相手してくださいってのなら、まだ解る。
同じ機体、しかも、新しい武器でもなんでもない装備、銃を二挺にしただけで、何が変わるんや?
「和也、ネーチャンが二挺にしたんは、いつからや?」
和也は、オペレーターPCを操作し装備状況の表を呼び出す。
「えっと、4月30日やな」
「それから、武器の変更は?」
4月30日から今日まで、日付をなぞるようにチェックしていったものの、変更点は見られなかった。
「無いなぁ、ずっとレーザーガンの二挺やわ」
「ずっと?」
5、6、丸二ヶ月もか……。
「あぁ、ずっとやよ。なんか気になるの?」
「対GTRってことなら、正解っちゃー、正解やが、二挺持ったっちゅうことは、もう武器は持てんから、言うなれば、接近戦は捨てたようなモンや」
「あぁ~」
「今日みたいなタイマンならまだしも、このゲームで接近戦捨てるっちゅうのは、幾らGTXでも正解やとは思えん」
「確かに……」
「お! すげー、MIYABIちゃん。今、87位やで。二挺でも、やれてるってことやない?」
「87位やと!? 和也、確か、前やった時、あのネーチャン250位くらいやったよな?」
「えーっと、ちょっと待ってよ……あった、278位やな」
「ペース的に、ワイらより早い? どういうことや?」
「えッ!?」
「どないしたんや?」
「最高順位、調べたんやけど……」
「87やないんか?」
「サーベルタイガーのイベントん時に、ヨハン墜として66位になっとる」
「はぁ? 待て待て! ワイらと戦ってからサーベルタイガーって、一ヶ月も経っとらへんやんけ! どういうことや!」
「一ヶ月で278位から66位かぁ、人が変わったとしか思えんよなー」
「網膜押さえたこのゲームで、そんなこと出来る訳……和也、オペレーター調べろ!」
「オペレーター? あ、そっか、制限あるけど動かせるもんな。でもやー、オペレーターが動かして66位って、そいつがドライバーせーよって感じや・な……えーーーッ!!」
突然の絶叫に、スカルドラゴンは一旦ヘッドセットを外すと、再び、掛けるや否や和也を怒鳴りつける。
「なに叫んどんじゃ、ワレーッ! 耳、潰れるか思うたぞーッ!」
「すんません。でもな、兄やん、驚くって!」
「はぁ? なんや?」
「シリアルキラーがオペレーターしとる!」
「なんやと?」
「でも、シリアルキラーが動かしたんは、最初だけみたいやな」
「当たり前じゃ。ずっと動かしとったら、66なんかで納まるかよ! あのバケモンをオペレーターにすりゃ、その順位でも低いくらいじゃ」
シリアルキラーが、オペレーターか……面倒やな……。
「あ、でも、兄やん。今日は違うみたいやで。前と同じ、SANAって娘だけや」
「あの時のリベンジって訳か……」
待てよ、そういやー、ラルフのヤツが確か……そうか、判った!
「うわぁーッ!」
再び、和也が絶叫し、慌ててヘッドセットを外すと、烈火の如く、怒鳴りつける。
「オドレ、シバくぞーッ! 殺されたいんかーーーッ!」
「あ、すんません……」
「まぁ、勘弁したる。和也、ワレが驚いた理由当てたろか?」
「え? 判りますのん?」
「サーベルタイガーが、オペレーターしてたんちゃうか?」
「な、なんで判ったん?」
「ラルフが言っとったやんけ、シリアルキラーは女子高生で、サーベルタイガーは部活の顧問って」
「あぁー、そうか! てことは、MIYABIちゃんも、そこの部員なんや」
「せやろな。シリアルキラーは教えを拒んどるらしいが、ネーチャンは受けたんやろ?」
「あぁ、で、強くなって、リベンジってことか」
「気に入らんな!」
「え? リベンジが?」
「ちゃうちゃう。あの野郎が弟子でも勝てる思うて、許可出したっちゅうことがや!」
「あぁ~」
「でもまぁ、丁度えぇ。和也、早速試すぞ」
「え! サーベルタイガーやないのに?」
「アホか、弟子やからこそ、試すんやろが!」
「あぁ~、でも、えぇの? サーベルタイガーに見せることになるで?」
「どこぞの手品師とちゃうんや。見られて困るようなモンやない」
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