第142話「リベンジ」


 東儀雅から教えを乞われた当初、時間を掛けて自力を上げれば、自分の戦い方を教えなくとも、秋までになんとかなると考えていたのだが、ラルフに「春休みまでには、サバイバルゲームの世界大会をやる」と言われたことで、カリキュラムの変更を余儀なくされる。


 それは、正確なGTWのアップデート日を聞こうと、ラルフに電話した時だった。


「GTWアップデートの公式発表は、いつになりそう?」


「発表は7月12日で、施設の交換完了が15日まで、プロはプロの都合もあるだろうから、徐々に変更って感じだろうな。あぁそれと、サバイバルゲームの世界大会も一緒に発表する」


「は? それって、いつだよ!」


「冬休みか、最悪でも春休みまでにはしたいな。筐体が間に合うか判らんが、出来れば夏休みまでに配送を完了し……」


「夏休みまでって! 大丈夫かよ、ゼータですら工場ギリギリなんだろ?」


「ゴーゴルの回収が未だだから、なんとかなるんじゃないかな?」


「えッ!? まだ取り上げてなかったのかよ! つーか、それもゼータに回すべきじゃないの?」


「ローレンスが渋りやがってな。ゼータと交換じゃないと嫌だと、ヌカシやがった」


「は? 第4使徒の台詞とは思えんな」


 実は、ゴーゴル社にもイプシロン筐体が100台在る。

 ローレンスが抱えるオペレーターは1000人居て、そして、チーフオペレーターは、必然的にGTMの操作も覚えなくてはならない。

 常に才能を求めるローレンスは、それを使って『誰が動かすに相応しい腕の持ち主か』を社内で競わせており、一分一秒も離したくないというインベイド計画者の一人とは思えない我侭わがままだった。


「まぁ、先行でアイツにはゼータを渡すし、12日を過ぎれば、施設からイプシロンも戻ってくるから、なんとかなるだろ」


 ということで、名目上は『サバイバルゲーム世界大会』だが、それは勿論、インベイド社の広告塔になる雅の為の大会で、つまりは雅の活躍が必須の条件となり、その為の練習時間が必要になる訳で、リベンジどころではなくなってしまう。

 U-18であることから、高校在籍中の残り2年は、リベンジが出来なくなってしまう可能性が高く、また、下手すると雅の人気次第では、その後に年齢の枠を広げ、U-22に変更し兼ねない。


 デッドラインが7月12日となった今、その後の世界大会の事も考え、急遽、自分の戦い方を教えざるを得ない状況となってしまた。

 とはいえ、スカルドラゴンを分析した上で、本体とワイヤー8本、合わせて9つの敵を相手にするのだから、自分のプレイスタイルが合っているというのが、一番の理由でもある。


 雅のプレイセンスは良かったものの、やはり会得させるのに2週間では無理があり、当初予定していた6月初旬から、デッドラインギリギリの7月初旬へ変更し、現在に至る。


 紬と美羽の指導を終えた後、再び、雅たちの下へ戻った刀真は、ヨハン戦のデータを確認し、リベンジへのGOサインを出した。


「よし、これなら、いいだろう。リベンジして来い」


 そう言うと、二人は抱き合って喜んだ。


「おいおい、喜ぶのは勝ってからにしろよ」


「だって、サーベルタイガーに認められたんですもん。もう勝ったようなモンでしょ?」


「あのな、北川。俺の戦い方は、慣れた頃が一番危ないんだ。それにお前たちの腕は、未だ目標にしてた7割の勝率が出せるとも言えん」


「今だと、どのくらいなんです?」


「5割8分くらいだ」


「ちょっと越えたくらいかぁ……」


「まぁ、心配するな。余程のことが無い限り、初戦は勝てる筈だ」


「3本勝負とかしたら、負けるってことですか?」


「俺自身が再戦して無いからな、なんとも言えんが、ヤツの対応による」


「え? 先生でも3本勝負したら、負けるかもしれないんですか?」


「は? そんな訳ないだろ」


 全く、この人は……


「じゃ、先生に対して、私たちの完成度って、どのくらいなんですか?」


「1割3分だ」


「えぇぇぇーッ!」


「なめんな! お前ら『自分たちを倒したら1億EN』ってイベントされて、30分間生き残れる自信があるのか?」


「それは、ないですけど……」


「まぁ、当分の間、俺と比較するのは止めにして、練習を続けろ。もっと強くなるのは、保証してやる」


「いつか先生にだって、追いついてやりますからね!」


「いいぞ、その調子だ。ただし……原チャリで、スーパーカーに追いつけると思うなよ」


 そう言って、刀真は笑うのだった。



「店長! 虎塚さまからお電話です!」


「え!? 副社長から?」


 施設完成以来だな、なんだろう?

 ゼータの件かな?


 7月12日にプロ増員が予定され、その受け入れ施設も増設のため、働いている社員たちを責任者として、各新施設へ配属することになり、新宿施設の一般スタッフだった宮崎は、昇進して店長になっていた。


「代わりました、店長の宮崎です」


「MIYABIの担当をされていた宮崎さんですか?」


 MIYABIさん? どういうこと?


「え、あ、はい、そうですが……あれ? 副社長じゃないんですか?」


「あぁ、すみません。甥でインベイドの社員でもある、虎塚刀真と申します」


 刀真は宮崎に、事の経緯いきさつを話し、スカルドラゴンとの再戦を希望しているが、その日をセッティングしてもらえるかという相談の電話だった。


「解りました。では、聞いて参りますので、しばらくお待ちを」


 ――数分後。


「今日でも構わないそうですが、如何しましょう?」


「では、コチラから新宿へ繋ぐ設定を行いますので、そちらで許可をお願いします」


「了解しました」


 今から対戦が始まると伝えると、雅は長い黒髪を後ろで結び、頬を叩くと、筐体へと入った。



「兄やん、MIYABIちゃんですって!」


 スカルドラゴンは、ニヤついた弟分のデコをはたいた。


「なに、ニヤニヤしとんねん! この童貞が!」


「今日は、童貞言われても腹立ちませんわー。実際に違うしー」


「そんなことよりもや。マネーマッチの額を上げてきよった。運営も、よう許したな。そんなに自信あんのか?」


 雅は、再戦を飲んで貰う為に、50万まで引き上げたのだ。


「あれ? 兄やん」


「なんや?」


「GTX1800のままや」


「はぁ?」


「あ、ちょっと違ってる……銃が二挺になっとる」


「二挺? 二挺ならワイヤーが切れるとでも思ったんか? 浅はかやな」


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