第141話「試し斬り」

 なぜだ……なぜ、ヤツとダブって見える?


 すでに戦いは10回を数え、全てヨハン・ポドルスキーが撃破しているものの、その対戦相手は彼を不快にさせていた。


「気に入らんな……」


「どうしたの、ヨハン? 墜としてるのに、何が気に入らないの?」


「恐らくだが、俺を訓練相手として利用してる」


「え!? 訓練? 嘘でしょ? それほどの腕じゃないし、私たちに辿り着いてるのだって、偶然としか……」


「お前には、偶然に見えたのか?」


「え?」


「まぁ、仕方ないか、あれはそういう風に見せるからな」


「まさか、そんな芸当……」


「そうだ、真似て出来る芸当じゃない……」


「真似? 真似って誰の?」


「サーベルタイガーだ」


「ちょっと待って。幾らなんでも、前の対戦から2ヶ月も経ってないのよ」


「そういえば、前の対戦も、その前も、シリアルキラーが居たな……」


 シリアルキラーとヤツは師弟関係……

 となると、やはり、答えは一つだな。


「間違いない、MIYABIを教えてるのは、サーベルタイガーだ!」



 ヨハンへの10回目の挑戦が終了し、雅は筐体を降りると、早速、紗奈とジオラマを見ながら、1戦目から自分の動きを検証する。


「ココ、もう少し、コッチ行った方が良かったかな?」


「そうね。その後、すぐ4人に囲まれて、処理に遅れた感じがするから、あ! でも、待って、その前の~、この時点! 此処で下へ行った方が、楽に戦えたんじゃない?」


「あ、ホントだ。下かぁ~、もっと立体的に見るようにしないとダメね。ついつい、平面で見ちゃう癖を直さないと」


 以前に、ヨハンのポーンの処理は聞かされていたものの、それは飛鳥がやった場合における対策であって、雅の場合はそれと違いサーベルタイガー用、つまり、戦場を支配するプレイを心掛けていた。


 虎塚邸で部活をするようになって、最初の内は失敗を繰り返し、溜め息ばかりの毎日だった。

 ようやく、その片鱗を見せたのが12日目。

 なんとなくではあったが、動かせている感覚を味わったことで、心を折らずに済んだ。

 そして、23日が過ぎ、形になってきたと判断した刀真は、最終テストとばかりに、ヨハンと対戦するよう指示したのである。


「やっぱり、1位は伊達じゃなかったわね」


「そうね。一対一で勝てないのもそうだけど、10回やって、ポーンの攻撃パターンが8つ……増やしたのかな?」


「きっと違うんじゃないかな? 飛鳥が引っ掛かるから、同じパターンを続けてたような気がする。アタシたちは抜けたから、その度にパターンを変えたんじゃないかな?」


「となると、もっと在るのかな?」


「どうだろ? そこは、今のアタシたちに、余り関係ない気がする」


「そうね。今は、一つでも多く自分たちの棋譜きふを増やす方が大切ね」


 ヨハンに負けてはいたものの、自分たちの思い描く展開で戦えており、二人は今まで積み上げた成果を感じとっていた。



 同刻、ロンドン。

 戦場は、すでに荒野と化しており、瓦礫の山の中、たった2機のGTMが対峙している。


「なんなんだ、お前はーッ! 一体、何様のつもりなんだーッ!」


 ネメシスは、そう叫ばずにはいられなかった。

 相手が使う武器は、まだ申請が通ったばかりで、それをランキング2位である自分に試してきており、さらには使いこなす為に、手を抜かれているようだった。


 怒りに狂ったネメシスは、冷静さを失い、徐々に動きが荒くなって行く。


 限界か、そろそろ、負ける頃だな?

 それにしても、試し斬りに、兄さんを選ぶとはね。

 しかも、自分の練習の為に、墜とせるのに、墜とさない……。

 全く、兄さんでなくとも、怒りたくなるよ。


 だけど、そんなことよりも、問題なのは兄さんの方だ。

 ただでさえ、世間では『ルイスが居なくなって2位になれた』呼ばわりなところへ、この後、間違いなくやって来る敗北。

 サーベルタイガーに敗北し、そして、お前にまで負ければ、兄さんのプライドはズタボロだ。

 全く、面倒な話だよ。


「無影剣だ! 無影剣を撃つぞ!」


 恐らくは、通じないな……。


「解ったよ、兄さん」


 どうせなら、飛燕ひえんを試してみるか?

 いや、今の兄さんで使うには、勿体無いな。


 そう考えながらも、幾つかのフェイントを混ぜた後、見え難い角度から無影剣を放った。

 てっきり、破られるならサーベルタイガーのように、透明なワイヤーを斬られるかと思ったのだが、シリアルキラーは刀身を弾き返してきた。


 おいおい、まだ練習したいのかよ。

 勘弁してくれよ。


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