第136話「人の調整」

「調整ってのは、なにも機体に限ったことじゃないんだ。武器や防具、そして、最後に行うのが、人の調整だ」


「武器や防具は解るけど、人の調整ってなに?」


「じゃ、その説明をする前に、まずこれを見て」


 そう言うと、帯牙はキーボードを操作し、オペレーター用のモニタに武器の3D図面を映し出した。

 映し出された武器は、少し扇形をした棒状の横に4つの穴が開けられている。

 飛鳥は、その見覚えのある武器の名を思い出そうとするのだが、一文字しか出てこない。


「えーっと、なんて言うんだっけ、これ? メ・メ・メ……」


「メリケンサック」


「そうそう! メリケンサック! で、これがなに?」


「正式には、ナックルダスターって言うんだけどね。飛鳥ちゃんの為に考えた、新しい武器だ」


「新しい武器? これ持って、剣も持てるの?」


「実はこれ、剣でもあるんだよ。今見てもらってるのが、剣の握り部分になる」


「え?」


 帯牙がマウスを操作すると、ナックルダスターからレーザーの刃が現れた。


「あ、なるほど! これ一つで、斬ったり殴ったり出来るんだね!」


「そうなんだ。刃の部分をレーザーにしたのは、自由に点けたり消したり出来るから、インファイトになった時、より格闘の幅も広げられると思ってね」


「おぉー!」と感動したのも束の間、先ほどのテストで腕が飛んだことを思い出した飛鳥は、不安を口にする。


「でもさ、手は壊れないけど、腕は飛ぶんじゃないの?」


「その心配はないよ」


「ホントに?」


「確かに、さっきのテストで、拳が壊れただけじゃなく、攻撃の強さに肩が堪えられず弾け飛んだよね?」


「うん」


「でもね、飛鳥ちゃん、よーく思い出して。勢いよく飛びながら、剣で攻撃したことあるだろ?」


「うん、ある」


「それで腕が飛んだことないだろ?」


「ない」


「実はこのゲーム、リアルな部分と、そうでない部分があるんだ」


「そうでない部分?」


「本当の世界だったら、高速で飛んでる最中に敵を斬ったら、剣を持ってた腕にも負荷が掛かって、吹き飛んでもおかしくない。でも、ゲームではそうなってないんだ」


「なんでリアルと違うの?」


「その方が、ゲームとして楽しいからだよ」


「ふぅ~ん。あ、でも、耐久値が下がることあったよ」


「それは、武器同士が当たった場合だ」


「あぁ~、そういえば……」


「つまりね、このゲームにおいて、武器で攻撃してる限りは、機体に負荷が掛からない」


「あ、解った! それも武器だから、腕が飛ばないんだ!」


「その通り!」


 帯牙が作った武器は、判定プログラムを逆手に取ったモノだったのだ。


「とはいえ、まだ申請中でこれが通るかどうか解らないんだけど……」


「えぇー! 副社長なのに、そこはバーンと通せないの?」


「ゲームにおいて、俺にしてもラルフにしても、みんなと同じ平等だよ。まぁ、この程度の武器なら、すんなり通るだろう。問題なのは、他の部位だ。ひじであったり、足であったり」


「使えないの?」


「蹴れるように調整はしてるけど、威力のある蹴りは無理だね」


「えぇ~、じゃぁさ~、足にも、こういうの付けれないの?」


「それだと、ルイスと変わらない攻撃力なのに、リーチの長い武器を4つ持つことになるだろ? 今度のレギュレーション変更が7月にあるんだけど、それでもダメだろうね」


「う~ん?」


「でもさ、幸か不幸か、飛鳥ちゃんがメインで使ってる八極拳は、足技が少ないから、まだマシだと思うよ」


「え? そうなの?」


 飛鳥は、ルイスの真似をしていただけなので、何が八極拳で何が違うのかは解っておらず、飛鳥にとってしてみれば、八極拳や酔八仙すいはっせん拳や詠春拳えいしゅんけんを使っているというよりも『ルイス拳』を使っているという感覚なので、つまり、足技は有るのだ。


「そもそも、今回やった足の補強も蹴る為ではなく、八極拳の踏み込む強さに堪えれるようにしただけなんだよ」


「ふぅ~ん」


「まぁ、でも、またいつかレギュレーションの見直しは来るだろうから、それまでお預けだね」


 そう言って、帯牙はケーキを一口頬張ると、飛鳥も忘れてたとばかりに、それに合わせて頬張る。

 帯牙は、それをゆっくりと紅茶で流すと、いよいよ話は本題へ。


「さて、ようやく『人の調整』についてだ」


 再び、帯牙がキーボードを操作すると、レーザーソードが入れ替わるように、上から下へ。


「えッ! 反対側からも出るの?」


「そうなんだよ。この武器は、レーザーをどちらからも、出せるようにしてるんだ」


「両方、同時に出せないの?」


「出せるよ。ホラ」


「うわぁー、カッコイイ!!」


「だろ?」


 自慢の武器が褒められ、ほくそ笑む帯牙であったが、話の途中だったのを思い出し、慌てて本題へ戻す。


「おっとイケナイ、話を戻すよ。で、さっき、お兄ちゃんは『肘が使えない』って言ったけど、こうすれば、肘の代わりになるよね?」


 お兄ちゃんという言葉に引っ掛かるも「う、うん」と頷く、飛鳥。


「つまり、人の調整ってのはね。武器や防具、闘い方に合わせて、練習することなんだよ」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る