第117話「飛鳥vsネメシス」


「和也! いつや、いつ喰ろうたんや!」


 コックピットから降りるなり、スカルドラゴンはオペレーターに問い掛け、その呼ばれた者はというと、既に戦闘履歴からネメシス戦を選び、眺めていた。


にいやん、これ見て」


「はぁ? なんやこれ?」


 オペレーター用のモニタに映し出された映像には、剣を振るネメシスの姿と、それを簡単に喰らう自分の姿が在った。


「待て、待て、待て、なんやこれ! バグっとんのとちゃうか?」


「いや、たぶん、あってると思う」


「阿呆言え! アイツ、剣振っとらんかったやんけ! お前も見てたやろうが?」


「思い出してよ、兄やん。なんで、ネメシスを後回しにした?」


「はぁ? それは、アイツが……そうか、つまり、ルイスがやられたんは偶然やヘマした訳やなく、同じ技、喰らっとったってことか?」


「間違いなくそうやと思うわ……知らんけど」


 攻撃力も防御力も高く、中でもネメシスが振る剣はGTW界最速で、それは銃を持たないというハンデによる調整だった。

 そんなこともあって、ネメシスは決して銃を持つことはなく、鹵獲ろかくで手にすることさえもしなかった。

 スカルドラゴンもネメシスの強さは認めていた、認めてはいたがそれでも尚、ネメシスを鴨呼ばわりしていたのは、負ける要素が無かったからだ。


「ルイスみたいに、踏み込ませるようなヘマはせえへんし、幾ら速く剣振れても、同時に8本は斬れんやろ?」


 そういう考えで、美味しく狩れる順位になるその時まで、待っていたのである。


「もしかしたら……」


「なんや和也、なんか判ったんか?」


「いいや、まだ想像の域から出てへん。せやけど、ネメシスはもしかすると、剣聖というより――」



 一方その頃、飛鳥は対戦を楽しんでいた。


「凄い! また止めたよ! んじゃ、コレは?」


 次々と繰り出される攻撃に、ネメシスは苛立ちを隠せないで居た。


「何も考えず、剣を振ってるだけで、いつか当たると思うなよ!」


 だが、ネメシスが繰り出す、攻撃もまた、飛鳥には届かない。

 その攻防をジオラマで眺めながら、刀真は感心するように声を漏らした。


「剣聖と呼ばれるだけのことはあるな」


 ネメシスを認める発言をしたことが気になり、雅は刀真に問い掛ける。


「先生でも勝てませんか?」


「いや、今のところ、負ける気はしない」


 はぁ?

 認めてるの? 認めてないの? どっちよ!

 ただの、負けず嫌いなのかしら?


 そう考えた雅は、対象を変えてみることにした。


「飛鳥は、勝てそうですか?」


「う~ん? ヤツの必殺技が、どういうモノか解らんが……」


 それは先生も一緒なのに、貴方は負けないんですね!


「このまま行けば、お前の妹が間違いなく、勝つだろうな」


「え! ま、間違いなく?」


 確かに、2位のルイスは倒している。

 しかし、そのルイスも最近では5連敗していると聞く相手だ。

 にも関わらず、刀真が言い切ったことに、雅は驚いた。


「あぁ、いい相手だ。明日が楽しみになった」


「は?」


 あぁそうか、ということは、つまり……、

 先生を喜ばせるくらい、あのを急成長させてるのね。



「兄さん、不味い。徐々に、ヤツの反射速度が上がってきている!」


「なに!?」


「最速は、0.021秒だ。このまま上がり続ければ、ヤツの攻撃を返せなくなる」


「笑わせるな! 幾ら速くとも、こんな素人の振りに……」


 そう言った矢先、飛鳥に大きな変化が起こる。


「なに!?」


 何度もネメシスと剣を交わしている内に、ネメシスの剣術を覚えてしまったのだ。


「ダメだ、兄さん! もう、無影剣を使うしかない!」


「だが、こうも近くては……」


「イケナイ! 兄さん、飛んで!」


 反射的にオペレーターの指示に従いジャンプすれば、さっきまで居た場所に分厚いレーザーが突き抜ける。

 ネメシスは腰から下を失い、シリアルキラーは姿を消した。


「ヨハンか……」


 俺は、ヨハンに助けられたというのか!


 ネメシスは、血がにじむほどに、唇を噛み締めるのだった。


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