第114話「影なき故、その姿は見えず」
GTW《グランンドツーリングウォー》は、32のワークス(国)に分かれており、ランキング上位32名が各国の王として君臨し、その覇権を争うゲームだ。
もちろん、王たちはゲームが巧いからランキングの上位に居ると言いたいところだが、実はそうでもない。
初年度ということもあって、特別会員にのみ、ランキングを決めるポイントに、ある程度の数値を足していたのである。
それは、身内以外に賞金を与えたくないのではなく、24時間いつでもプレイできるプロのラインから、落とさないための処置だった。
最初は640人だが、その次に予定している3万2千人まで持てばいいと考えていたのである。
ラルフたち開発陣の予想では「一般会員がそのポイントを抜くには、早くても5ヶ月は必要だろう」と考えていたのだが、公開初日から、想像以上にランキングの変動が激しく、更に、プロ発表で加速することとなった。
プロになって長時間プレイし続ける者、大多数で仲間を組む者、地形を利用した戦術や戦略を考える者、プレイヤーが増える分だけ攻略法も増え、その誰もがプロを目指した。
嬉しい誤算であったため、ラルフもその後、特別会員に改めてポイントを足すことは止め、プロを増やすことの計画を早めることにしたのである。
そして、プロ公開から僅か1ヶ月足らず、特別会員以外の者が王となる。
その新たな王とは、銃器を持たず、剣一本で戦い、しかも、圧倒的な強さを見せたことから、プレイヤーたちから『剣聖』と呼ばれ恐れられていた、その者の名は――ネメシス。
現在、ランキング3位にまで登り詰めている。
そんなネメシスに勝ち越しているプレイヤーは、なんとたった二人。
一人は、現在ランキング1位であるヨハン・ポドルスキー。
そして、もう一人は、現在ランキング2位のルイス・グラナド。
「ネ、ネメシスだーッ! け、剣聖ネメシスが来るぞーッ!」
周りがざわつきを見せ、同国の仲間たちが逃げ惑う中、足を止め戦場に残る者が一人。
「あれが、噂の剣聖か……クリスティアーナ、ヤツの武器は?」
「日本刀タイプの剣だけです」
「日本刀か、いい趣味だな。それだけか、武器は?」
「はい。あ、でも、鞘があります」
「鞘付き? 居合いでもするのか? いやいや、調べれば武器の長さも判るこのゲームで、鞘なんて意味あんのか? ただの飾りか?」
特に答えを求めた訳ではない、そんなルイスの呟きにも、クリスティアーナは真面目に答える。
「剣のように斬れはしませんが、鈍器として使うことも可能のようです」
「そうか、まぁ、なんにしても警戒はしておくか」
そう言って、近づいて来るネメシスに向け、レーザーを放った。
ネメシスは、接近スピードを緩めることなく、それをヘッドスリップで
「ほぉ~、王になるだけのことは、ありそうだな」
「見つけたぞ! ランキング1位、ルイス・グラナドーッ!」
「これなら、どうだ?」
再び放たれたレーザーが、ネメシスの胴を狙う。
しかし、それを避けることなく、ネメシスは鞘に納まったままの刀で弾いた。
「クリスティアーナ、ヤツの刀の長さは?」
「8mです」
低い姿勢で潜り込むようにルイスへと近づくと、刀を抜きながら、横に振る。
「腕の長さも考慮して、10避けりゃ……」
ルイスは、ネメシスが刀を振った瞬間に、少し飛んで避け、振り切る前に詰め寄り、抜き手で仕留めるつもりだったのだが、思った以上に、刀を抜く速度が速く、コックピットを
「マスター! コックピットのダメージ量は22%です!」
「危うく、墜とされるとこだったな。だが、ようやく、試せる相手が現れた」
ルイスは、嬉しそうに笑うと、持っていたハンドガンをネメシスへ投げた。
「もう諦めたのか、ルイス! ならば、俺の
縦に振られた刀に、ルイスは合わせるように両手を挙げる。
「白刃取りなんぞ、させるかーッ!」
だが、激しい衝撃音と共に、刀が停止した。
「馬鹿な……斬れないだと!」
ルイスは、そもそも真剣白刃取りをするつもりはなく、両手をクロスさせ、刀を受け止めるつもりだった。
そして、それと同時に放たれた中段回し蹴りは、ネメシスの胴を薙ぎ払い、撃墜させる。
これが、ネメシスとルイスの初対戦であった。
その後、ルイスとネメシスは、時差の関係で対戦する機会に恵まれず、その為、ルイスの扱う拳法に対応が後れ、未だに負け越している。
とはいえ、戦績は7勝11敗と、その差は
また、ヨハンにおいても「接近戦なら敵ではないだろう。実質、最強はネメシスかもしれないな」とまで言われている。
「ネメシスが負け越しているのは、GTX555の手足が剣と同じだって知らなかったからだよ!」
「このゲームで知識不足を敗因にするのは、どうかと思うぞ。調べりゃ判るんだし」
ネメシス派、ルイス派が「最強は誰だ」を討論する際に、必ず出る台詞だった。
「でもさ、今回のエキシビジョン、せめてネメシスだけでも混ぜるべきだったよな」
「ルイスにとっちゃ、ネメシスは眼中に無いんだろ?」
「はぁ? なに言ってんだ、最近の対戦なら5連勝だぞ! 負けるの怖いから、混ぜなかっただけだろ?」と、ファン同士の対立は、今も激しい。
エッフェル塔の前にログインしたネメシスは、シリアルキラーを探していたのだが、そこに別の相手が現れた。
「ネメシス! 剣一本で、3位まで登りつめたんは褒めたる。せやけど、それもこれも、ワイがオドレの前に立たんかったからじゃ!」
スカルドラゴンのワイヤーが一斉に、ネメシスへと襲い掛かる。
「どないする? 剣一本で、8方向対処できるか? できんよな? よう肥えた鴨や、今、美味しく……」
勝利宣言している途中のスカルドラゴンに、そのオペレーターが水を差す。
「
「なんや、和也?」
「墜ちた……」
「はぁ?」
その疑問系の返事と共に、スカルドラゴンのモニタにGAMEOVERの文字が現れる。
「な、なんでや!? どっかから、狙撃されたんか?」
「違う……ネメシスに……」
「ネメシス!?」
「ネメシスに……斬られた」
「そんなアホな! アイツ、剣振っとらへんやんけ!」
「うん……で、でもな……コックピット、斬られてるねん」
スカルドラゴンは、悪い夢を見ているのかと、自分の頬を張ったが、その悪夢から目覚めることはなかった。
「俺の無影剣は、誰にも
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます