第112話「答え合わせ」
刀真なら間違いなく、フェイントの癖に勘付いた筈だ。
それとも、やり過ぎたのか?
いや、それならあの時、ドンピシャのタイミングでフェイントを避けたのは、何故だ?
まさか……あれすらも、俺に撃たせるための罠だったのか?
そうだな、そうとしか考えられん!
でなければ、飛鳥も逃げれなかった二撃目を、
自分のフェイントが何故バレたのか、1年半ほどゲームの世界から離れるにしても、是が非でも聞いておきたかったルイスは、最上階の会議室へ入るなり、刀真に駆け寄り、問い詰める。
「何故だ! 何故、判った?」
「おいおい、なんだいきなり? 八極拳を撃ってくるタイミングのことか?」
「それもそうだが、それよりも、フェイントの方だ」
「フェイント? あぁ、それは撃って来ないと思ったからさ」
「ちょっと待て! 今の言い草、お前……あれをフェイントだとは、思わなかったってのか?」
「ん? そう言われれば、フェイントだったのかなぁって……」
「待て待て待て、じゃ、何か? 俺は無駄にフェイントしてたのか?」
「無駄に? そんなにやってたのか?」
「はぁ? じゃ、なんで撃ってくるのが判ったんだ? 他に癖でもあったのか?」
「他に?」
どうも刀真と会話が噛み合わないルイスは、順を追って説明していく。
八極拳での踏み込む際に、悪い癖があったこと。
スパーリングで、飛鳥にそれを指摘されたこと。
そして、それを修正したこと。
更に、その上で敢えて、その悪い癖を試合中に、何度も罠として見せていたこと。
「そんなことしてたのか」と、笑う刀真。
それを聞いて、一気に疲れが波のように押し寄せ、ルイスは疲れとショックで肩を落とした。
無理もない、罠を張っているつもりでやり続けていたのに、相手は気づきもしなかったのだ。
「あぁ、すまんすまん。悪いが、俺はその癖に気づかなかった」
「じゃ、何処で見分けをつけてんだ?」
「そいつと俺では、見る所が違ったってだけの話しさ」
「やはり、他に癖が?」
「いいや、癖じゃない」
「じゃ、何を見てるんだ?」
ルイスが質問者であるにも関わらず、刀真はルイスの奥に立つ飛鳥の方を向き、
「体軸の移動速度だ」
すると飛鳥は、慌てて隣に立つ姉に、小声で質問する。
「たいじくって、なーに、おねーちゃん」
「知らないわよ、言った本人に聞きなさいよ」
「体の軸だ、体の芯と言ってもいい」
「し、し、知ってますぅー! おねーちゃんが知ってるかどうか、試しただけですぅー!」
雅は呆れ返り、刀真は小馬鹿にするように「ソウデスカー」と
キィィィィィーーーッ!!
「しかし、あの闘いの中で、そんな余裕があったとはな……」
「いや、余裕とかじゃないんだ。自然と見えて来るんだよ」
「ハァー、なるほどね、お前さんが今まで無敵だったのが、何となく理解できたよ。で、こいつもいずれ、そうなるのか?」
そう言って、親指で後方に居る飛鳥を指差す。
「そいつ次第だな」
「な、なに、上から言っちゃってんの! アタシだって、出来ますぅー!」
「ほぉ~、それは明日が楽しみだな」
そう言って笑う刀真を、キィッと睨み付けながら、ルイスの袖を引っ張り出した。
「もう、こんな奴ほっといて、ルイさん行くよ!」
「こ、こんな奴だと! てめぇー、教師に向かって……」
そんな刀真の肩を掴んで止めたラルフが「日頃の教育が悪いな」と、
「え? 行くって、何処に?」
「決まってるでしょーが! 今度は、アタシのスパーリングでしょーが!」
「えーッ! もう俺、二敗したから、イタリアに帰ろうかと……」
「はぁ? なに言っちゃってんの! アタシは、付き合ってあげたでしょーがぁ!」
「付き合ってあげたって……お前、ただ勝負がしたかっただけだろ?」
キィィィィィーーーッ!!
「解かったよ、解かったから、袖が伸びるから放せ!」
その言葉に納得すると、見慣れたアッカンベーをして、飛鳥はルイスの袖を引いて部屋を出て行った。
「あぁ、もう、折角パイロットスーツ脱いで、シャワーまで浴びたってのに!」
「女々しいこと、言ってんじゃないの!」
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