第110話「Exhibition-2」

 今回のエキシビジョンは、参加がルイスグラナド、サーベルタイガー、シリアルキラーの計三名であることから、対戦形式は巴戦ともえせんとなっており、連続して二回勝利した者が優勝となる。

 そのことから、試合数を減らさない為に、第二試合は第一試合の敗者とサーベルタイガーが闘うルールとなっていた。

 第一試合が「ルイス対シリアルキラー」になったのは、抽選によるものではなく、オッズを決めたジムと、主催であるラルフの考えが一致したことによるものだった。

 彼らの中で、優勝候補筆頭がサーベルタイガーであることも要因の一つだったが、それよりも、刀真を先に対戦させてしまうと、その闘いが攻略法になってしまい、第二試合をツマラなくさせると考えたからであった。



 世界一、視聴者を抱える実況配信者ダニエル・フィッシャーは、いつものように軽快な挨拶から、放送を切り出す。


「やー、みんな! 良く眠れたかい? 俺は昨日、興奮し過ぎて、余りにも眠気が来ないもんだから、一杯飲んでから横になろうと思ったら、朝になっちまったぜ」


 ダニエルのように、実況放送する者は世界各地で居るのだが、ローレンスが場所を貸す条件として、ダニエルの放送を同時通訳できる者のみ、ミラー放送の許可を出すよう指示したことによって、同時通訳放送が溢れ返っていた。

 この時代、既に機械による同時通訳は出来ていたのだが、ローレンスは敢えて、人が関わることによって生まれる、何かを期待していた。


 通訳が間違っててもいいし、不平不満を言う場でも構わない。

 更に、このゲームへ、人を導く筈だ。


「さて、今日も此処、ゴーゴル社から第二試合の実況スタートなんだが……昨日に引き続き、ゲストにはローレンスと、更にスペシャルゲストを呼んだ!」


 ダニエルが手を差し出し、その新たなゲストと握手を交わす。

 カメラがそのゲストの顔を捉えると、放送史上かつて無いほどのスピードでコメントが流れ出し、ゲストがそれに応えるように手を振ると、更にコメントのスクロールを加速させた。


「ようこそ、ラルフ」


「君の放送に出るのは、去年のゲームショウで、インタビューを受けた依頼だったかな?」


「そうだね。あの時は、まさか半年後にGTWを発表するなんて思いもしなかったよ」


「すまんね。どうしても、新年に世界同時発表をしたかったのさ」


「いや、あれはあれで良かったよ。お陰でプレイヤーとして、視聴者と同じように驚けたし、感動も味わえたんだ。さて、挨拶はこの辺りにして、ラルフ、君にも聞いておかなければならない。やはり、君の予想も、サーベルタイガーなのかな?」


「聞くまでも無いだろ? オッズを認めた時点で、俺の予想は知れ渡ってるようなモンだ」


「だが、第一試合は外れましたよね?」


「そりゃそうさ、あくまで予想だからな」


「もし、今日、サーベルタイガーが負けると、最高値の8倍の可能性も出てきますよね?」


「損はするが、それはそれで面白い。今回、俺もこのエキシビジョンを楽しみにしていた一人なんだ」


「メーカーである前に、プレイヤーであれ?」


 ダニエルがインベイドの社訓を用いたことに、横に居たローレンスが笑う。


「その通りだ。なんせ、より楽しむ為に、昨日、シリアルキラーにルイスのスパーリングパートナーをさせたんだからな」


 なんだってぇー!


 視聴者の驚きの声が、ラルフ登場の時よりも速く、画面を流れる。

 

「しかもだ、32勝24敗で、ルイスの方が勝っている」


「と、なると、再試合の可能性もありえるんじゃ!」


「そうだな。そうなるよう、ルイスには踏ん張ってもらいたいね」


「さぁ、時間だ。ラルフ、開始の挨拶を」


「Ladies and gentlemen, start your engines.」



 ルイスは、筐体という名の暗い部屋の中で眼をつぶり、イメージトレーニングを繰り返していた。


「マスター、心拍数が上がってます。深呼吸して落ち着いて、マスターなら出来ますよ」


「ありがとう、クリスティアーナ」


 オペレーターの指示に従って、ルイスが呼吸を整えていると、その心拍数を上げさせた相手がログインして来た。


「マスター、サーベルタイガーがログインして来ます」


「武器は?」


「レーザーソード、2本です」


「銃を持って来なかったか、お前らしいといえばらしいが、舐められたもんだな。ん? レーザーソード? イベントの時と変えてきたか……何か理由でもあるのか?」


「データ上、攻撃力に差はありませんが、バスタードソードとは重量が違います。マスターの動きに遅れを取らない為に、攻撃判定の大きさより、軽量で速く振れるモノを選んだのではないでしょうか?」


「なるほど、確かにそうだろうな。やりはしないと思っていたが、同じ手(飛鳥の飛び蹴り)は使わないと考えていいようだな。まぁ、二度と喰らわんがな」



 三宮の空が赤く染まり、カウントダウンが始まる。


「詠春拳で崩し、八極拳で仕留める!」


 カウントが始まると同時に、ルイスが先に仕掛けた。

 このエキシビジョンには、本来の20秒間の無敵は無い。

 しかし、カウントダウン中は無敵であるため、ルイスの仕掛けの早さが気になったダニエルが、それを指摘する。


「おーっと! どうした、ルイス? まだ無敵時間中だぞ! なにか考えがあるのか? それとも、焦っているのか?」


 その疑問に、代わりにローレンスが答える。


「無敵時間中とはいえ、当たり判定は在り、体勢を崩すことも可能だ。ゼロと同時に必殺技を放てば、それは有効になる」


 5


「ローレンスの言うように、一撃で決めるか? ルイスゥーッ!」


 4


「あ、アイツ!」


 ラルフが、何かに気づき、思わず椅子から立ち上がったその時、ルイスの放った蹴りが、刀真に当たる!


 3


「おっと、ルイスの蹴りがヒット!」


 遅れて、ローレンスもラルフの考えに気づいた。


「このタイミングだと、少し早くないか? まさか、アイツ、わざとか!」


 2


「格闘家の悪い癖だ。体で覚えてしまった為に、連続技のルートから外れることが出来ない」


 ルイスの掌底しょうていがコックピットの左側にヒットするが、無敵時間中のためダメージを負わず、更に刀真が右足を軸にしていたことから、勢い良く回転し、そのまま流れるように右手に持っていたソードで、ルイスの首をねに行く。

 しかし、ルイスもそれが解っていたとばかりに前方へ転がると、ソードは頭上スレスレを通過する。

 更にルイスは、只の前転にとどまらず、浴びせ蹴りをするような形で、そのソードを振った右腕をかかとで狙いに行く。

 当たるかと思われたが、刀真は回転の勢いを殺すことなく、左足でルイスの胴を蹴って、刀真もまた前転し、その攻撃を回避した。


 開始早々の攻防に、視聴者たちは、それぞれの空間で雄叫びをあげる。


「さ~て、今度は俺の番だ!」


 まだ身を起こしたばかりのルイスへ、ブースト効かせ、一気に詰め寄りながら、剣を振る。


「マスター!」


「解っている!」


 ルイスは、振られた剣をはたくように押さえ込むと、その流れに乗って、回し蹴りを放つ。

 動きの変化を察知した刀真は、地面を蹴って後方へ飛び、その攻撃をかわした。


「JKDか!」


 ――いいですか、ルイス。十中八九、サーベルタイガーは、詠春拳えいしゅんけん截拳道ジークンドーと間違える筈です。


「どうせお前のことだ、ありとあらゆる拳法を隅から隅まで調べたんだろ? だがな、時として、広げた知識があだとなることも、覚えておくがいいーッ!」

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