第100話「Casino」

「ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、ど、どういうこと!」


 言葉に詰まりながらも、飛鳥は刀真の袖を何度も何度も引っ張り、問い詰める。


「ねぇ! どういうこと! どういうこと! どういうことなの!」


 もう、誤魔化すことは……出来そうにないか……。


「ねぇ! ねぇ! ねぇーって、ばぁーッ!!」


「え、もしかして……まだ、言ってなかったのか?」


 秘密にしていたのは、ルイスも聞いていた。

 しかし、アメリカ合宿で伝えると聞いていただけに、すでに知っているものだとばかり思っていたのだった。


「いい加減、袖を離せ! 伸びるだろ!」


「本当のこと言うまで、離さないーッ!」と言って、さらに袖を引っ張る。


 刀真は、面倒臭そうに頭を掻きながら、仕方なく白状する。


「あぁ、そうだよ。俺がサーベルタイガーだ」


 すると、袖から手を離し、刀真の顔を指差して叫んだ。


「アタシと勝負しなさいよ!」


「言われなくても、してやるよ」


「今すぐ! 今すぐ、勝負だ!」


「おいおい、ちょっと待てよ、その前に俺だろ?」


 飛鳥は、親指を立て、それをルイスに向ける。


「モチロン、ルイさんともやる!」


「る、ルイさん?」


「コイツ、三文字以上は略すんだよ」


「苗字だったら、グラさんだったな」と、ルイスは笑う。


「あのさぁ、挑戦するための勝負なんて、しなくてもいいじゃん! 普通に、何回でも戦えばいいんだよ!」


「あ、言われてみれば、それもそうだな」


「ダメだな」


「ちょっと! なんでラルさんが、ダメって勝手に決めんのよ!」


「フを付けろ! お前らの対戦は、たった今、公式戦として公開することに決めたからだ」


「は? なに言ってんの? 好きに戦わせてよ!」


「あ! GTWの会員を更に増やすために、利用するんですね?」


「半分は当たりだ、紗奈」


「半分?」


「そうだ、だが、俺の考えを実行するには、その前に首脳会議を開かなければならない」


「ん? サーベルタイガーのイベントですら会議を開かなかったのに、態々わざわざ会議に掛けるということは、使徒でも意見の割れてるアレか?」


「そうだ、ルイス。そろそろ、カジノを解禁しても良い頃だと思ってな」


 ラルフは振り返り、秘書のマリアに指示を出す。


「マリア、全使徒に『今からカジノ決議を行う』と伝えてくれ。ルイスと刀真は、使徒専用会議室へ」


「あの~、会議の見学に行ってもいいですか?」


「う~ん?」とラルフは、左手を顎に当て、暫く考えたのだが「すまん、ダメだな」と結論付けた。


 深く考えられた末に出された答えではあるのだが、その理由は、とても馬鹿馬鹿しいものだった。

 もし、聞いてきたのが雅ではなく、他の部員であったなら、OKを出していたかもしれない。

 そう、その理由とは、インベイド副社長、虎塚帯牙(ロリコン)が会議中、雅に目を奪われ、真剣に考えない可能性を懸念したのである。


「君たちは、ここで合宿の続きでもするなり、買い物を楽しむなり、自由にやってくれ」



 ――インベイド本社ビル最上階、使徒専用会議室。


「済まないな、急な召集を掛けて」


「構わんぞ、俺は賛成派だからな」とモニタの向こうで笑う、第六使徒シナン・ムスタファー。


 会議室の席には、第一使徒ラルフ・メイフィールド、第四使徒ローレンス・ミハイロフ、第五使徒ルイス・グラナド、第十七使徒マリア・アレン、第十八使徒虎塚刀真の計五名。

 残りの使徒たちは、ビデオチャットによる参加となっていた。


「では早速、俺の見解から言わせてもらう。現在、IDの登録数は3億2千万を超えており、これは全世界の人口5%に当たる。また、登録者の年齢平均が32歳であることから、世界を支えている中心世代と考えていい」


「実数的には人口の5%だが、なんらかの権利を有する者に限定すれば、世界の10%を占めていると言いたい訳だな」


「その通りだ、タイガー」


「しかし、公開してから未だ半年も経ってない。少し、早くはないか?」と心配する刀真。


「全てをオープンにする訳じゃない。今回は限定的なモノで、カジノ解禁への布石にする」


「限定? どういうものを考えてるんだ?」


 ギャンブル好きなシナンが、ルールに興味を示す。


「サーベルタイガー、シリアルキラー、ルイスによる総当りで、1位から3位まで決める三連単だ」


「おいおい、6分の1じゃねーか!」


 仮にサーベルタイガーを①、シリアルキラーを②、ルイスを③とした場合、三連単とはいえ、その種類は以下の6種類しかない。

 ①-②-③・①-③-②

 ②-①-③・②-③-①

 ③-①-②・③-②-①


「俺にとっては、2分の1だがな」


「2分の1? 俺がシリアルキラーに負ける可能性があると?」


「さぁてね、俺が負けるのかもしれないぜ?」


「負けるつもりなんてない癖しやがって、どの口が言ってやがんだ!」


 だが、刀真がそう言うのならば、あれからアイツは成長したってことだな。



 特に反対意見が出なかったことから、ラルフは最後に、最年長の鈴木米子に確認する。


「米子さんは、どう思う?」


 いつも米子は会議の際「私は、貴方たちが決めたことに賛成する。18人では多数決にならないからね」と奇数にするために、意見は言いつつも、敢えて投票には参加しないでいた。


「人数的には、申し分ないわね。遅かれ早かれ、邪魔は入るでしょうから、それを気にしても仕方がないと思うし、それに貴方が言う以上、もう準備は整ってるんでしょ?」


「もちろん」


「じゃ、反対する理由はないわね」


「では、反対する者が居ないようなので……」


「ちょっと待ってくれ!」


「ジム……」


「いや、反対するって訳じゃない……いや、条件を飲まれなければ、反対させてもらうかな?」


「なんだ?」


「賭け金は、ENを使用してくれ。一般(非登録者)が参加する場合、ENを買わせてから、そのENでクジを買わせる。それが俺の条件だ」


「了解だ。では、その調整と宣伝に2日もらうとして、試合は3日後に行う」

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