第99話「挑戦権」

 良い読みだ。

 人読ひとよみかもしれんが、本能だけで闘っていたアイツにしては、上出来だ。


 人読みとは、格闘ゲーム用語で『同じ相手と対戦を繰り返すことによって知り得た相手の癖を、それに合わせて対応すること』を指す。


 その上出来と褒められた者の姉、東儀雅とうぎみやびは頭を掻き、苦笑いしながら、筐体から降りて来た。


「すみません、仕留められませんでした」


「その謝る癖、直した方がいいぞ。それに謝る必要なんてないだ。これは部活で、勝つことが目的ではなく、成長することが、目的なんだからな」


「そうですけど……すみません」


「ほら、また」


 そう指摘して、笑う刀真。


「それに、お前は良くやっている方だ」


「本当ですか?」


「あぁ、嘘吐いてどうする? お前は、一度決めたら、迷うことも躊躇ためらうこともなく、実行に移せる。それは教えても、なかなか身に付かない代物だ」


「え? でも、失敗してますよ」


「失敗は関係ない、思いっきりの良さってのは、時には悪手でも判断の速さでカバー出来ることもある。それにお前は、同じあやまちを繰り返さないじゃないか。事実、スカルドラゴン戦から機体のバランスを保つことを学んで、即実行できている」


「あ、先生も、やっぱりそう考えるんですよね」


「ん? どういう意味だ?」


「自分で気付いたんじゃなくて、飛鳥に指摘されたんですよ」


「本当の戦争だったら、それは重要な能力だ。死ぬんだからな。しかし、これはゲームだ。気付く気付かないは、大した問題じゃない。一度負けても、何度でもやり直せる。身に付いているか、付いてないかが重要なんだ」


「勉強と一緒ですね」


「その通り、良いこと言うじゃないか」


 そう言って笑っていたら、飛鳥が筐体から首を出して叫びだした。


「もぉぉぉぉ~、おぉぉ~、そぉぉぉ~、いぃぃぃーーーッ! まだぁぁぁーーーッ?」


「出て来ないと思ったら……飛鳥! ちょっと休憩させて!」


「えええええええええええええええーーーーッ!」


「勝ったのに、物足りないのか、アイツは?」


 性格を良く知る姉が、その理由を述べる。


「勝ち越してないからですよ」


「あぁ、なるほどね」


 筐体を降りた飛鳥は、駆け寄ってくるなり、刀真を指差し「次も、負けないんだからね!」と宣言する。


「随分と、敵対視されてんな」


「認められてるってことでしょ?」


 そう言って、クスクスと雅が笑う。


「なに笑ってんのよ! お姉ちゃんにも、負けないんだからね!」


「はいはい、そうですか」


「もぅぅぅ! 休憩・お・わ・りぃぃぃーッ!」


 紬は、そんな飛鳥の肩に手を置き、なんとか休憩を延ばそうと試みる。


「もうちょっと、休憩させてよ。アンタと闘うの、神経磨り減るんだからさ」


「あ! ツムちゃん! 凄かったよ! 驚いたよ! あの調子で、お願いだよ!」


 みんなが楽しく会話しているそんな中、暗い表情をみせる美羽に気付いた雅が、声を掛ける。


「あれ? どうしたの、安西さん」


「アタシだけ、成長してないなぁ~と思って……」


 その言葉を受け、雅から刀真へ鋭い視線が送られる。


 え? あぁ、フォローね。


「あ、安西、そんなことはないぞ」


「え? アタシ、なにか成長してました?」


「東儀妹へのロックオンの速さは、見事だった。あの距離で、あの速い動きに対応できるのは、そうは居ない。もしかすると、ゆくゆくはロックオンせずとも狙撃できるようになるかもしれんな、ヨハンのようにな」


 ランキング1位と同じ才能、それは当然、褒めたつもりだったのだが、美羽は少し不満そうに「えぇー、それだと他のプレイヤーから嫌われちゃう!」


 そう言って、美羽が周囲を笑わせた――そんな時だった。

 部屋の扉が開き、一人の男が入って来た。


「よお! ルイスじゃないか!」


「俺は、次のワールドカップで、選手兼監督になることになった」


「そうか、そりゃ、めでたいな」


「だから、ワールドカップが終わるまでは、サッカーに集中したい」


「そうだな、そうした方が良いだろう。他の使徒へは、俺が伝えておくよ」


「よろしく頼む。そして、あともう一つ」


「ん?」


 すると、ルイスは飛鳥の方を向き、


「シリアルキラー、お前と一騎討ちの勝負がしたい」


 飛鳥は喜び、それを受ける。


「いいよ! 今度は負けないからね!」


 更にルイスは、刀真の方を向いて、こう締めくくった。


「サーベルタイガーの挑戦権を賭けてだ!」


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