第98話「68対32」
「お前、俺に黙って、なに楽しそうな対戦やってやがるんだ!」
「別にいいだろ? それより、ラルフは仕事しろよ」
「テンメー、それが社長に対して言う台詞か!」
「ほら、もう付き合いが長いからさ、友達みたいなモンだろ?」
「お前のそういうとこが、あのガキ(飛鳥)の教育に影響出てんじゃねーのか! ちょっと強くなったからって、いい気になりやがって……」
ガミガミと説教してくるラルフを無視して、刀真は行く末を見守る。
――124mで闘うと見せかけて、一気に詰め寄る。
な~んてズル賢さ、アイツには無いだろう。
お前の距離は、0mから527m。
当然、124mは、お前の
だがな、124mを気にしながら闘うってのは、お前にとってハンデでしかない。
しかし、それでも今のところ、それくらいで釣り合いが取れてる。
東儀が勝つには、妹より広い視野で、戦場を有効に活用すること。
妹の決めたルールに、お前が従う必要はないんだ。
エリアを広く使い、手数を増やして、キッチリ詰める。
東儀、読み間違えるなよ。
飛鳥の放ったレーザーが、雅の肩を掠める。
「あと13!」
「雅、飛鳥ちゃんの手数を13と思わない方が良いわ」
ほぉ~、良い気づきだ北川。
「どうして?」
「先生は、幾つもの攻撃で誘導して、完全に仕留めに来る感じだったけど。飛鳥ちゃんて、一撃必殺な気がするの」
確かに、そうだが……。
この話の流れで行くと……。
「そう言われれば、そうね。つまり、全て墜とすつもりで撃ってくるって、言いたいのね?」
「そう。だから、確実に仕留められると思ったタイミングでしか撃ってこない。防御という意味では、今の雅の攻撃は有効だと思うんだけど……」
「けど?」
「飛鳥ちゃんに勝つには」
「アタシから誘っての、カウンター狙い?」
「そう、危険だけどね」
ん~、やはり、そっちに考えが行ったか。
反射神経の勝負では、妹に
東儀が常にピークをキープしなければ、削られた末に、終わる。
勝率は、32%ってところか……。
だが、任せた以上、見守るしかないな。
「……つまりだ! お前たちを見守るのも、仕事の内なんだよ!」
「え? まだ続いてたの?」
「なんだと、ゴラァ! お前といい、あのガキ(飛鳥)といい! 俺を何だと思ってんだ! カァー! 根本的にタイガーの教育が悪いのか?」
「ハイハイ、ソウデスネー」
「キィィィーーー!!」
「いいのか、説教に夢中で? 対戦、終わっちまうぞ」
「ぐぬぬぬ、あとでタイガーの野郎を代わりに説教してやる! で、お前の見立てでは、どっちが勝つ?」
刀真は、雅たちに聞かれまいと、通話回線を落とし、ラルフの問いに答えた。
「ついさっきまでは、5分だったんだが、68対32で妹の方だ」
「どういうことだ?」
「作戦が悪い、反射神経で勝負しようとしている」
「だが、3割2分もあるんだろ? メジャーリーガーなら、良いバッターだ」
と言ったその時、刀真の表情が真剣になり、モニタに向かって
「いかん! 誘うにも程がある!」
その言葉で、ラルフもモニタを見つめる。
そこに映った光景には、空中戦をしていた雅が、突如としてブースターを切り、自由落下する姿があった。
飛鳥は、迷わず姉に照準を合わせ、レーザーを放つ。
「再びブースターを点け、それを避けたとしても、お前の妹なら……いや、違う?」
雅がブースターを点火させ、それを避けると同時に飛鳥は、その先に照準を合わせ、再びレーザーを放った。
しかし、雅が飛んだ先には、NTTドコモ代々木ビルが在り、その先端にあるアンテナを左手で掴むと、それを中心に回転する。
飛鳥が放ったレーザーは、間一髪のところでコックピットを避け、股を直撃したものの、致命傷には至らない。
「もらったーッ!」
今度は、雅がカウンターで放ったレーザーが飛鳥を襲う。
だが、飛鳥はそれを手にしたバスタードソードで、受け止めてみせた。
「ダメかー!」と嘆いたその時、警告音が鳴る。
「雅! 衝突警告ーーッ!!」
「え!?」
だが、何も出来ないまま、突如として現れたバスタードソードによって、雅のコックピットは貫かれた。
「なんで、ソードが? いつの間に?」
雅がブースターを再点火した際、飛鳥にはその先が見えていた。
そう、アンテナを掴んで回る速度まで。
飛鳥はレーザーを放ったと同時に、予測ポイントにソードを投げる。
しかし、その先に未だ雅が到着していないことから、雅の筐体も紗奈のPCにも、衝突警告は鳴らない。
そして、雅がアンテナを掴み、回転しきった時点で、ようやく、ソードの警告を受けるのだが、時既に遅く、間近に迫ったソードによって、ゲームは終了を告げたのであった。
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