第96話「なくて七癖」
「もう1回! もう1回! もう1回! もう1回! も~いっかいぃ!!」
筐体から勢いよく飛び出してきた飛鳥は、両手両足を激しくバタつかせ、再戦を顧問に懇願する。
「高校生にもなって、
すると今度は、笑う刀真の
「キィィィィィ~!」
「あぁ~もぅ! 対戦は続けるから、騒ぐな!」
それを聞いて安心すると、刀真の顔を指差し「今度は、負けないからね!」と言って、再び筐体へと走り出す。
一人サッサと筐体へ乗り込もうとする飛鳥に「作戦を立てるから、3分後な!」と言ったが、聞こえたかどうか、定かではない。
「なんか、済みません」
「いや、あれだけ悔しいということは成長する可能性が高い」
「それにしても、上手くいきましたね。でも、なんで飛鳥、一瞬だけど止まったんだろ?」
「太陽光が、眼に入ったのさ」
「え?」
「お前の妹には、反射神経が良過ぎることから起こる、悪い癖がある」
「そういえば、前にもそんなこと言ってましたね。どうして、良過ぎるのに悪い癖なんです?」
「良過ぎるからこそ、レーダーに映っても、気にならない距離があるんだ」
「気にしない距離?」
「そうだなぁ、例えば、小学生がお前を殴ろうとしていた場合、どの辺りから警戒する?」
「2mくらいでしょうか……え? それって、飛鳥にとってアタシたちって、小学生ってことなんですか?」
「解り易く説明するための例え話ではあるが、要するに、そういうことだ。50m先で小学生が拳を振り上げてても、気にしないだろ? アイツにとってのそれが、直線にして2km以上になるんだ」
「あれ? でも、ヨハンは?」
「ヨハンは、ロックオンしないからな」
「2kmの場所で、ロックオンしなければ?」
「もちろん、当たる。だが、アイツのように動き回ってる相手に対して、ロックオンせずに当てるのは、至難の業だ」
このゲームのロックオンは、二種類ある。
一つは、追尾機能を持ったミサイルを撃つため、敵を捕捉するモノ。
もう一つは、レーザーガンなどで照準を合わせた際に、ロックオン機能を用いることで、相手の動きに合わせ自動で腕などを振って、補正を行うモノである。
「ヨハンのようなヤツは、まず居ないから、それ以上を警戒する必要がない」
出来る人間に、まず居ないと言われても、説得力に欠けるのよね……。
「警戒するのは、2km圏内でのロックオンなのだが、それさえも、確認さえすれば避ける自信があるんだ。ロックオンされれば相手の位置が判る、相手が撃ったタイミングもレーダーで警告されるから、補正の掛からない撃った後に、少し動けば当たらないってことだ」
全く、貴方も出来るからでしょうけど、難しいことを簡単に……。
「つまり、安西さんに2km前後で太陽を背にして待機させ、ここぞというタイミングで2km圏内に踏み入ってロックオンさせ、飛鳥に確認させたと」
「そうだ」
「でも、どうして、飛鳥がそうだと解ったんです?」
「俺も昔、そうだったからさ。ガキの頃、叔父さんに、それで何度もやられてな」
「え! 先生がやられるって、先生の叔父さんって、凄いんですね」
「まぁ、俺の師匠みたいなもんだからな」
「あれ? でも、確か、飛鳥に負けてましたよね?」
「俺も、今は叔父さんに負けないよ……だが、今でも叔父さんが強いのは確かだ。アイツも認めたくらいにな」
「あぁ、確かに。もう一度対戦したいって言ってましたね」
「最低でも、この癖を直さない内は、アイツと対戦できんな」
雅と刀真の会話に違和感を覚えていた紬が、その糸口となる言葉に反応する。
「対戦?」
「あぁ……知ってるヤツが二人も居ると、つい口に出ちまうな」
「もう知らないのは、ウチの妹だけで良いですよね?」
「あぁ、そうだな」
「え? なになに? なんなんです?」
後ろに居た美羽も気になり、首を出すと、紗奈がその答えを告げる。
「先生がサーベルタイガーなのよ」
「えーーーーーーーーッ!!」
「まぁ、そうなるわよね。アタシもそうだったし」
すると美羽が「あ!」と言って、或る事を思い出した。
「だからあの時、ラルフさん『初見ならお前も……例え、お前がサポートしても』って、変な言い直ししたんだ。なんか可笑しいと思った」
「あぁ、あの時は、マジでバレたと思ったよ。お前らの勘が鈍くて、ホント助かった」
「あれ? ちょっと待って、ローレンスのオペレーターって話は?」
「あぁ、それは……」と刀真が真実を話すより早く、紗奈が止めに入る。
「な、南城さん! そんなトコだけ、勘を鋭くしないで! そ、そんなことよりも、作戦の時間は3分なんですから、もうあと1分ですよ!」
「あぁ、特に作戦は無い」
「は?」
「作戦があると言ったことで、アイツは何か有ると思い、ほんの少しだけだが、判断が鈍るようになる」
「ほぇ~」
「だが、安西の太陽を背にする戦術は、もう一度やる。きっとアイツは、偶然だと思ってるだろうからな」
「また、勝ちそうですね」
「いいや、今度は負けるだろうな」
「もう通用しないと?」
「あぁ、手加減してた訳じゃないだろうが、もう様子を見ることはないって、ところだろうな」
刀真が「そろそろ行くか」と言おうとした時、飛鳥が筐体から首を出し叫ぶ。
「おぉぉ~、そぉぉぉ~、いぃぃぃーーーッ!!」
「随分とお待ちかねのようだし、行くとするか」
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