第95話「欠点」

 オペレーターをすると言ったは良いが、現状でアイツに勝つのは難しいだろうな。

 攻撃か防御のどちらかでも、全権委ねてもらえばマシになるんだろうが、そうも行かない。

 手持ちの銀将・香車・桂馬の駒三枚で、アイツをどこまで詰め寄れるか?

 出来なければ、アイツの訓練にならず、ただ楽しませただけになってしまう。

 さて、どうしたものか……、


 少し瞼を閉じて考えた後、再び、瞼を開いて、刀真は部員たちに指示を出す。


「東儀、軽量な盾……S124を2つ、両肩に付けて行け。銃の選定は、お前に任せる」


「はい」


「南城は、レーザーガン……ハンドタイプのG93を、盾はS71を1つ」


「OKでーす」


「安西、お前は狙撃用のライフルG50を、盾は……大き目のS54にしておこうか」


「了解です」


「先生って、武器や防具のデータが頭に入ってるんですか?」


「北川、全てとは言わんが、いつかお前もそうなるようになれよ。俺を超えたければな」と言って笑う刀真。


「は、はい」


 紗奈が自信なさ気に返事したのには、理由がある。

 それは、GTWに登録されている武器や防具の種類が、この5月の時点で、なんと既に12万件を超えていたからだ。

 勿論、このゲームに賞金総額100億円のデザイン大賞があるからなのだが、プレイヤー、もしくはデザインのみの参加者によって、投稿された数も多いのだが、それよりも、実在する武器メーカーが、自社の武器を全て登録した結果、12万件というトンでもない数値になってしまったのである。


「東儀、そして、北川。さっきの対戦より距離を詰め、110m前後で戦え」


「え? 大丈夫なんですか?」


「タイマンでなら不味いが、なんとかなる筈だ。他の者もそうだが、これは全員の訓練でもある。各自、墜とされることよりも、自分の成長を気にするように動いてくれ。それでは、始めようか」


 はい、了解でーす、解りましたなど様々な返事の中、紗奈がストップを掛ける。


「ちょっと待ってください、先生! 作戦とかってないんですか?」


「少人数での対戦で、スタートポジションは皆バラバラになるからな。先に作戦を立てていたとしても、おそらく無駄になる。作戦は、その場その場で考え伝えるから、特に北川は、漏れのないよう注意して欲しい」


「了解しました」


「それでは、開始する」



 新宿の空が赤く染まり、カウントダウンが始まる。


 さて、俺がアイツなら、誰から狙う?

 いや、違うな、俺で考えてはダメだ。

 おそらく、アイツなら……

 狙うのは、一番近いヤツ!


 レーダーに目をやった刀真は、飛鳥から一番近い者に注意を促す。


「南城! おそらく、お前の方に向かってくる!」


「え! アタシ!?」


「そこから、新宿御苑しんじゅくぎょえんに向かいつつ、東儀が近づくまで、盾をアイツに突き出すようにして、防御に徹しろ!」


 どっちの東儀よ!って、まぁ、解るけどさぁ……。


 紬は、心の中でツッコミながらも「了解」と返事をした。


「東儀! 妹が南城との直線上になるよう、撃ちながら接近しろ!」


「はい」


「先生? アタシは?」


「安西は、四谷を抜け、防衛省へ向かえ」


 雅は、飛鳥の背をロックオンすると、弾切れを起こさないよう気をつけながら、交互にレーザーを放つ。


「南城さん、当たらないでね」


 飛鳥の連撃を盾で受けながら、雅のレーザーも避けなくてはいけないし、飛鳥に追い越されてもいけない、そんなプレッシャーの中、なんとか盾を駆使して凌いでいく。

 なのに目の前で、挟まれている筈の飛鳥はというと、まるで背中に目が付いているのかと疑わんばかりに、雅の放つレーザーを器用に避ける一方、烈火の如く、両手のソードを振って自分に襲い来る。


「ひぃぃぃぃぃぃ~~~~!! これじゃ、まるでアタシ、ヨハンのポーンじゃないのよ!」


「ツムちゃん! 足元がお留守だよ」


 飛鳥は、紬の左足首を薙ぎ払って刈り取ると、バランスを崩し倒れる紬のコックピット目掛け、刃を突き刺す。


「そうはさせない!」


 飛鳥まで200mを切った雅の照準は、正確さを増し、その背を捕らえた――かに見えた。

 飛鳥は当たる寸前で、まるでバスケットボールのピボットのように、右足を軸に回転すると、レーザーはギリギリのところで飛鳥を外れ、その先に在った紬のコックピットを貫いた。


「しまった!」


 雅がそう言うよりも速く、飛鳥は動けなくなった紬から盾を奪うと、それを雅の方へ投げ、更に戦闘機に変形して、それを追う。


「先生、防衛省に着きました!」


「よし、安西、ロックオンして撃て!」


 お前は、レーダーを見る比率より、実際の視界で確認することの方が多いだろ?

 視野が大して広くないお前がそれをするのは、お前の欠点だ。


「え?」


 ロックオンされた先を確認した飛鳥の眼に飛び込んで来たのは、美羽の機体ではなく、まばゆい光を放った太陽だった。

 一瞬の停止を見せた飛鳥を、雅は見逃さなかった。

 投げられた盾が胴を掠めたが、雅は避けることよりも、墜とすことを選ぶ。

 それでも、飛鳥はこの場を回避しようとしたのだが、雅の領域テリトリーから脱出することは出来なかった。

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