第94話「姉妹対決」
飛鳥との対戦を考えなかった訳じゃない。
だけど、いつの間にか、無いような気になってた。
――お前の妹に、もう少し強くなってもらわないと、俺が楽しめないからさ。
全く、貴方の相手が出来るのは、飛鳥だけなんでしょうけれど、そのために、アタシを育ててるってのがねぇ……。
「妬けてくるわね」
「焼ける? 何が?」
「な、な、なんでも、あ、ちょっと胸焼けがするかなーって」
「大丈夫? 未だ完全に3D酔い治って無いんじゃない?」
「大丈夫だから紗奈、今はゲームに集中して」
「了解。でも、気持ち悪くなったら、我慢しないで言いなさいよ」
「ありがとう、気をつける」
雅は、変な汗をハンカチで拭いながら、対戦開始のカウントダウンを待った。
新宿の空が赤く染まり、姉妹対決の幕が開く。
カウントゼロと同時に、一気に詰め寄り仕掛ける飛鳥。
そうはさせまいと、自分の領域(テリトリー)を築こうとする雅。
シリアルキラーなんて呼ばれた天才が、アタシと対戦して、更に強くなるんだろうか?
――同じイチハチなら、東儀、お前の距離を保ちさえすれば、決して勝てない相手ではない。
同じイチハチなのに、こうも違う機体に感じるなんて!
この日の雅は、いつも以上に集中できていて、練習の成果も発揮できていると言えた。
しかし、気を
雅は、自分にとっての危険エリア(123m以内)に入らせないためには、200m前後をキープするのがやっとだった。
124mで闘いたいのだが、現状の力の差から判断すると、一気に70m近くまで接近を許すことになってしまうと考え、どうしても、それが出来ない。
対戦相手は、こんな風に見えてたのね。
全く、シリアルキラーなんて名前、ピッタリじゃないのよ!
ホラー映画に出てくる殺人鬼、その者だわ!
刀真から銃の禁止が言い渡されていたこともあって、二刀で迫ってくる飛鳥は、よりそれっぽく映って見えた。
アタシの闘い方って、格ゲーで逃げ回るヤツを連想してたけど、思ってたのと全然違う!
逃げて勝つという余裕が有りそうな感じではなく、追い詰められてる感が半端なかった。
撃って間合いを広げようとするのだが、その行為自体がスピードを殺してしまい、
アンタ、バーサーカーにでも取り憑かれてんじゃないの!
どうする?
どうすればいい?
あっちに銃は、無いんだから……そうだ!
「紗奈! イチハチがギリギリ入れるくらいの、出来るだけ長いビルの隙間を探して!」
そう言うと、雅は戦闘機に変形させ、一気に離そうとするも、飛鳥もそれに続く。
「了解。えっと、ギリギリ、だから10mくらいで、長いのはっと……」
紗奈は、人差し指の太さがGTX1800の横幅くらいになるように、マップを拡大すると、指でなぞりながら、その隙間を探し始めた。
「雅、在ったわ! ここからだと、このまま明治通りを北上して、並木橋を左。山手線手前で、右に入って。少し曲がってるけど、そこが良いと思う」
「了解!」
剣を投げられる危険性はあるけど、それはアンタも同じこと。
直線上なら、アンタでも弾を避けられない筈!
「雅ーッ! 行き過ぎ! 線路を越えないで! そこ右!」
「おっと、了解! この道ね。確かに、ちょうど良い幅だわ」
雅は、再び人型に戻し反転すると、追って来た飛鳥に照準を合わせ、連射する。
飛鳥は、戦闘機のまま、機体の腹をビルに沿うようにすると、一気に加速させた。
「惜しいなぁ。それでは、妹を墜とすことは出来ん。少し道が広かったと言うべきだな。ほんの少しの角度ではあるが、それによって、当てるために腕を振らないといけなくなる。GTMが腕を振るよりも、戦闘機の速度の方が速いからな」
弾丸の雨は、飛鳥に追いつくことが出来ず、ビルの窓ガラスやコンクリートの破片が飛び散らせた。
「しまった!」
人型で後退しながら撃っていた事から、その間合いは一気に詰め寄られる。
飛鳥は、抜き去る瞬間に変形し人型に戻ると、ビルの壁を蹴って反対側に飛び、更に反対側のビルも蹴って、雅を中心に三角形を描くように移動すると、その背に向けて、剣を振り下ろした。
雅は、振り向くことさえ許されず、肩から股まで斬り裂かれた。
ガッカリした表情で筐体から降りてきた雅に、刀真は声を掛ける。
「惜しかったな、考えは悪くなかったぞ」
「でも、例え、左右が詰まっていたとしても、上下もありますから、今の作戦はダメですね……」
「気にするな。お前の妹レベルは、そうは居ない。咄嗟に、あの対処法に気づくのは、数人程度だ」
「そう言われても、目の前に2人も居るですけどね」と、雅は誰にも聞こえないようにボヤいた。
飛鳥が勢い良く、筐体から降りてきて、満面の笑みで駆け寄りながら、再戦を願い出る。
「ねぇ! ねぇ! お姉ちゃん! 面白かったから、もう一回やろーよ! 先生、いいでしょ?」
「どうやら、認められたようだな」と、刀真が雅の肩に手をやると。
「そうみたいですね」と、少し嬉しそうに微笑んだ。
「え? なに? なんなの?」
対戦して面白かった、それが自然と口から出たことよって、姉の実力を認めたことになるのだが、当の本人は、楽しい対戦がしたいという気持ちだけで、飛鳥のライバルという名の器には、未だ二人の名前しか入っていなかった。
「お前に言われなくても、対戦は続ける。ただし、今度は3対1だ」
「4対1でも良いよ」
「人数的には、5対1だ」
「え?」
「安西と南城のオペレーターは、俺がやる」
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