第91話「二挺拳銃」

東儀とうぎ、なぜ俺が二挺拳銃にちょうけんじゅうを提案したか解るか?」


「同時に撃てば、スカルドラゴンのワイヤーが銃でも切れるからでは?」


「確かに、それもあるが、ワイヤーを切るためだけなら、ソードを持つよう指示するよ。一回で切断できるんだからな」


「確かに……」と、首を傾げている雅の代わりに、紗奈が答えた。


「雅の距離を保つため?」


「正解だ、北川。二挺の方が、東儀、お前の領域テリトリーを維持し易いからだ」


「テリトリー?」


「124mってのは、現状でお前が最大限に力を発揮できる敵までの最短距離だが、何もそれ以上がダメになっている訳じゃない。少しの幅があって、124mから287mまでが、お前の領域になる」


「287m以上だと、ダメな距離なんですか?」


「いや、ダメって訳じゃないんだ。慣れない内は、同じ反射速度で撃ってしまうから、外し易いんだよ。おそらく、287mでも何処かには当たるだろうが、狙った場所にはヒットしないだろうな」


「124mより前は?」


「相手にる。特に、お前の妹が相手の場合、アイツが銃を持ってたなら123m以内、剣の場合でも103m以内だと、お前の反射神経が対応できず、何処かに当たる」


「剣でも、そんなに?」


「そこまで詰められたということは、それ以上に詰められる可能性があるということと、それ以上に剣を投げてくる可能性が、極めて高いからだ。まず、外さないだろうな」


「先生が相手なら?」


「戦場が同じ限り、距離は関係ない。20秒後には墜とす」


「え? 50km離れてても?」


「俺は、ヨハンと同じことが出来る」


「そんなことも出来るんですか……では、狙撃用武器が無い場合での距離は?」


「う~ん、それだと5km以上離れて、同じ速度で逃げない限り、20秒だな」


 紗奈は、20秒という決まっているかのような時間に引っ掛かり、刀真にその真意を確かめる。


「あのー、20秒って、無敵時間のことですか?」


「確かに、無敵時間が有るから20秒以内とは言わんが、どちらかというと追い詰めるための時間だから、正直、無敵時間の有無は関係がない」


「それは、イチマル(GTX1000)でなくても、ですか?」


「あぁ、変わらんな……あ、訂正する。GTX(変形タイプ)やGTF(飛行タイプ)以外は無理だ。他のタイプでは、流石に追いつかない」


「ということは、20秒は最短の話ではなく、20秒以上は掛からないということなんですね」


「そうだ。なんなら、同じイチハチ(GTX1800)で証明してみせようか?」


 思い掛けない対戦の申し込みに、雅も紗奈も驚いた。


「え! いいんですか!」


「構わない。元々、そのつもりだったからな」


「元々?」


「お前には、もう少し強くなってもらわないと困るからな」


「困る? 広告塔として、ですか?」


「いいや。お前の妹に、もう少し強くなってもらわないと、俺が楽しめないからさ」


 そう言って笑うと、刀真は実験機に乗り込んだ。



 雅が実験機に入ると、モニターに『サーベルタイガーから通信許可申請が来ています』というメッセージウインドウが現れ、それを許可して、刀真との通信を開く。


「対戦は、実験機によるテストモードを使用する。1対1の対戦で、無敵時間は無くしておこう。俺とお前、両者が揃った所で空が赤く染まり、10秒からのカウントダウンが始まる。0になったところで、対戦開始だ。何か質問は?」


「エリアは、何処にするんですか?」


「エリアは、お前が好きなところを選ぶといい。ただ、何も無い空間ステージってのも在るんだが、そこは平衡感覚を失うだろうから、止めた方がいいだろうな」


「スタート時点での、先生との距離は?」


「500mにしておこうか」


 そう言って、刀真は初期設定のランダムから、500mに変更する。


「武器は、何を選んでもいいんですか?」


「構わない。GTWでは基本、武器は2つ、盾も1つまでとなっているが、このテストモードでは、幾らでも装備することが可能だ。だが、増やせばその分だけ重くなり、移動速度が落ちる」


「了解です。レーザーガン二挺にちょうで行きます」


「回線は、このまま繋いでおくか? 切って、北川と作戦を練っても構わんぞ」


「あれ? 対戦しながら、指導していただけるのでは?」


「そのつもりではいるが、まずは20秒を耐えて見せたいんじゃないのか?」


「よくお解かりで。じゃ、回線切りますんで、5分後に」


 雅は、ヘッドセットを耳に当て、紗奈と回線を繋ぐ。


「紗奈、エリア選定はさせてくれることになったんだけど、何処が良いと思う?」


「そうねー、正直、何処も一緒な気がする」


「紗奈もそう思うのか……虎塚にとって、全てに土地勘がある気がするのよね」


 この雅の意見は、当たらずとも遠からずで、実は刀真にとって、慣れた土地が有利という概念がない。

 それは、ログイン直前にホンの一瞬地図を見ただけで、隅から隅まで記憶してしまい、まるでそこで何年も生きてきたような土地勘が、脳へとインストールされてしまうのである。


「ねぇ、ここは思い切って、反対されてた『何も無い空間ステージ』ってのはどう?」


「そうね、やってみる価値は有りそうね」


 雅は、何も無い空間ステージを選び、ゲームをスタートさせる。


「2、3やってから、試しに選んでくるかと思ったら、いきなり此処を選ぶとはな。解り難いだろうから、機体色の設定を黒にして、世界を白にしといてやるか」

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